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恵方巻の大量廃棄から考える、私たちに必要な3つの変化

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

恵方巻の大量廃棄

ここ数日は恵方巻の大量廃棄および食品ロスの問題が大きな話題となっており、<「もうやめにしよう」 過熱する恵方巻き廃棄問題に兵庫のスーパーが一石投じるチラシ 「かっこいい」と大反響呼ぶ>という記事がYahoo!ニュースのトピックスにも取り上げられていました。

私も外食産業における食品ロスは大きな課題であると考えており、これまで以下のような記事を書いてきました。

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恵方巻はレストランなどで提供されることもありますが、そのほとんどはコンビニやスーパーで販売されているので、小売店における問題であると言えるでしょう。

既に色々な角度から多くの問題点が議論されていますが、私は恵方巻の大量廃棄から、以下3つの変化が必要であると考えています。

  • 過剰ではなく適度
  • ブームではなく文化
  • 今ではなく常時

過剰ではなく適度

どうして恵方巻が大量廃棄されてしまい、食品ロスに至ってしまったのでしょうか。

それは、供給量が需要量を上回った、つまり、売るために準備した分量が、実際に売れる分量よりも多くなってしまったからです。

では、どうして供給量が需要量を上回ってしまったのでしょうか。

それは、過剰に製造して販売したからです。

小売店は、売れるはずの商品がもしも欠品して売れなければ機会損失となってしまいます。対前年度比で100%を超えなければならないという目標もあるでしょう。

また、恵方巻のような季節限定ものは、お祭り感覚のところがあるので、廃棄される分も見込んだ高めの価格設定にしても消費者は購入します。

こういった事情が重なって、廃棄されるのを見越して製造する傾向になっているのです。

小売店はこの過剰な供給から適度な供給へと変わらなければなりません。

そうなると、廃棄によるロスを見込まなくてよいので、値段も下げることができるはずです。

消費者にとっても、同じ恵方巻であれば、高いよりも安い方がよいでしょう。

ただし、恵方巻を買いに行った場合に、もしも売り切れていたとしても、文句を言ってはなりません。消費者もある程度は不便を被ることを承知する必要があります。

ブームではなく文化

小売店がこの時期に売らなければと焦るのも、消費者がこの日に食べなければとのせられるのも、メディアによる煽りの影響も大きいでしょう。

では、メディアはなぜそのような情報を発信するのでしょうか。

<効果が認められない流行1位「水素水」からたぐる「誤ったグルメブーム」>でも述べましたが、メディアは何かが流行していると発信する必要があります。

グルメの記事では、あるものが流行している、もしくは、流行しそうだから紹介するということはあったとしても、あるものが流行していない、もしくは、流行することはないから紹介するということはありません。

そういった状況で、コンビニエンスストアを中心とした小売店が2000年代から力を入れ始めた恵方巻に対して、メディアはこれが流行している、もしくは、これから流行すると言及し始めました。

他の小売店でも、地味で売上につなげにくい豆ではなく、メディアも宣伝してくれる恵方巻に注力し始めたのは当然のことと言えます。

メディアは自身が存在する意義としてブームを作っていかなければなりませんが、あまりにもブーム一辺倒になってしまうと問題が生じてしまいます。

未来志向の流行だけではなく、過去とつながる歴史や文化もしっかりと伝えていくことが必要ではないでしょうか。

恵方巻に関する食文化をしっかりと伝えていれば、ここまで過熱した恵方巻の礼賛とはならなかったはずです。

情報の受け手は、流行にのっていないと、多かれ少なかれプレッシャーを感じるものです。

小売店はたくさん製造して売らなければ商機を逃してしまうと考え、消費者は食べなければ話題に取り残されてしまうと思ってしまいます。

これが、過剰な需要を生み出してしまうのではないでしょうか。

私も含めてですが、メディアは単に恵方巻を食べましょうと煽るだけではなく、日本人と節分や太巻の文化を掘り下げて伝えることも必要であるように感じます。

今ではなく常時

節分の恵方巻だけではなく、もうすぐ訪れるバレンタインデーのチョコレートやホワイトデーのクッキー、土用の丑の日のウナギ、クリスマスケーキも短期間の大きな商戦です。

火を通してあるウナギはまだしも、生菓子であるクリスマスケーキであれば通常は、生の魚を使用している恵方巻と同じように、売れ残ったものは翌日以降に販売できず廃棄することになるでしょう。

恵方巻で問題とされている大量廃棄は他の商戦でも同じことが起きているのです。

もう少し大きな視点で鑑みると、また様相は違ってきます。

日本における2014年度の食品廃棄物は621万トンにも上るので、先に挙げたいくつかの大きな商戦での問題を解決するだけではまだ足りないでしょう。

恵方巻の大量廃棄を批判して、節分を過ぎたら忘れてしまうのでは意味がありません。食品ロスの問題は、これを機に全体がクローズアップされるべきです。

日本の文化を伝えるきっかけ

恵方巻は、本来の太巻という枠を超えて、ハンバーガーやスイーツなど、実に様々なものへと広がっていきました。食には正解がなく、時代によって変化もしていくだけに、恵方巻が多様性を備えていき、より多くの人が関心を寄せるようになるのは、よいことです。

しかし、こういった発展も、本来の文化的な意味を置き去りにしたり、食材や生産者や作り手へのリスペクトを失ってしまったりすれば、続けていくことが難しいでしょう。

恵方巻を始めとした季節の食が、日本の文化を伝えるきっかけとなり、それと同時によって食材や生産者や作り手を敬う機会になることを願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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