効果が認められない流行1位「水素水」からたぐる「誤ったグルメブーム」
2016年のグルメ
ホットペッパーグルメ外食総研が2016年で「今年、世の中で流行ったと思うグルメは?」の調査結果を以下の通り発表しました。
1位は水素水となっており、以下のように解説されています。
一方で、つい最近、水素水の効果について疑問を付す記事も挙がっています。
水素水がグルメに含まれるかどうかという議論はさておき、私が注目しているのは、健康や美容に効果があると期待され、消費者が今年最も流行したと挙げたものが、実はその効果があまり期待されないという、この大きなギャップです。
ホットペッパーグルメ外食総研の解説でさえ「美容、健康、ダイエットなどに効果的だと言われています」という伝聞系の控えめなコメントになっています。
どうしてこのような「誤ったグルメブーム」が起こるのでしょうか?
私は以下の3点において「誤ったグルメブーム」が生まれると考えています。
- 流行を探す
- 流行を拡散する
- 流行を生み出す
流行を探す
まず「流行を探す」です。インターネットや雑誌などの記事では、その記事内で「●●が流行している」ことを謳います。インターネット上では1日に数千もの記事が配信され、それ以外の記事と差別化して注目されるためにも、より新しい流行を探す必要があります。そのため、本当に流行しているのかと疑問符が付されることも少なくありません。
インターネットの記事では、数年前に流行したかどうかという程度のものを、今まさに流行しているかのようにタイトルを付けて記事化することさえあります。グルメはあくまでも嗜好の範囲内のものです。人の命を預かる医療とも異なるので、本当にその食が最先端でなく、一昔前の食であったとしても、大きな影響はありません。
記事で流行を探す競争が激しくなった結果、他の記事で取り上げられていない流行を取り上げる必要に迫られ、より「流行ではない」ものを取り上げなければならなくなっているのです。
流行を拡散する
これは、主にテレビのグルメ番組のことです。テレビは昔に比べれば、リサーチ会社も使っていませんし、リサーチを担当するADの人数も非常に少なくなっています。しかしそれでも、テレビは最も多くのマスにリーチし、最も影響力のあるメディアであることに変わりありません。私も、自身が出演することによって、未だにテレビの影響力をその肌身で感じています。
テレビはまだ最も影響力のあるメディアですが、昔に比べると「初動」=「最初にブームを捉える早さ」が遅くなっています。リサーチ会社の発注やADの人数が減っていれば、それは当然のことでしょう。
そのため、インターネットなどの記事から流行を探すようになっているのです。テレビの番組でも、なるべく他の番組で取り上げられていない流行を紹介したいので、目新しいものを取り上げることになります。そうなると、本当はまだ流行となっていないものも、そのテレビの番組によって宣伝されることになり、大きく広まることとなるのです。
流行を生み出す
少し話を戻しましょう。では、「流行を探す」とありますが、どのようにして流行を探すのでしょうか。アンケートをとったり、業界の方に話を聞いたりするなど、流行を真摯に探す場合があります。また、こういった地道な活動とは別に、いわゆる広告記事というのも少なくありません。
最近では「●●が流行している」というような露骨な広告記事はないまでも、「●●」に関する記事を書いてくださいということであれば、いくらでもあります。
こういったものと結びついて、記事が出来上がり、それをたまたまテレビの番組で広い上げ、ブームとなっていたりするのです。
単品グルメブーム
単品のグルメブームは、軽くかいつまんだだけでも、2006年の黒烏龍茶、2009年のバナナ、2012年の塩麹、そして今年2016年のパクチーなど色々と思い出されますが、そのどれもが体によい影響を与えると宣伝されてきたものです。
単品のグルメブームでは、見た目にインパクトがあったり、組み合わせが奇想天外であったり、異国の新しい料理であったりということがないだけに、その「機能面」=「健康面」がとても重要視されます。そのため、実際には健康に対する効能が担保されないまま、「他ではまだ取り上げられていない流行」として、取り上げられるのではないでしょうか。
こういった単品グルメブームの背景には、単にそのものだけを食べれば健康になるというような、都合のよい夢物語が多分に含まれているような気がしているのですが、こんなにもあらゆるものを食すことができる人間が、たった1つのものによって健康を向上させられると考えることはそれ自体が不自然ですし、食の楽しみとは本来、何かと何かを組み合わせるという発想や、煮たり蒸したり焼いたりという手法など、その創造性を楽しむものだと私は思っています。
「誤ったグルメブーム」の背景には、騙したい側と騙されたい側との利害関係が一致しているのではないでしょうか。
メディアには単品の「誤ったグルメブーム」を安易に生み出そうとしない矜持が必要ですが、消費者にはこういった都合のよい単品の「誤ったグルメブーム」に踊らされない心構えが必要です。