食べ残しをやめられますか? 「食べ残し」対策の留意事項から外食産業の食品ロスを考える
農林水産省が施策を発表
農業協同組合新聞にも書かれているように、2017年5月16日、農林水産省は消費者庁、環境省、厚生労働省とともに、外食産業の食品ロスへの取り組みに関する<飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項>を発表しました。
食品ロスはフードロスとも呼ばれており、まだ食べられるのに食べ物が捨てられてしまうことを意味します。「もったいない」を合言葉にして、昨年から日本でもよく取り上げられている問題です。
食品ロスの対策としては、消費者庁、文部科学省、農林水産省、経済産業省、環境省が推進している<食品ロス削減国民運動(NO-FOODLOSS PROJECT)>、農林水産省が取り組んでいる<外食時の「おいしい食べきり」全国共同キャンペーン>がありますが、今回の留意事項は外食産業に関するもので、留意事項とはあるものの包括的な内容となっています。
外食産業が全体の20%
最新データとなる2014年度版の報告書では、家庭から282万トン、食品産業から339万トンの食品が廃棄されているとあります。この2つを合わせた621万トンは、まだ食べられるにも関わらず、無駄に廃棄されているのです。
この食品産業で廃棄される食品のうち、35%が外食産業から、18%が食品小売からとなっています。
外食産業は全体でみても20%と高い割合になっているので、飲食店の食べ残しを減らすことが喫緊の課題となっています。
そのため、冒頭で述べたように、農林水産省が<飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項>を発表することに至ったのです。
昨年も問題提起の記事
半年ほど前にAERA dot. (アエラドット)でも食品ロスに関する記事が掲載され、食品ロスの問題が改めて浮き彫りにされました。
こちらは食品ロス全体ではなく、コンビニやスーパーなど小売での食品廃棄について書かれた記事です。
記事で指摘しているように、賞味期限の問題も確かに提起されてしかるべき問題でしょう。
ただ、先に述べたように、食品産業における食品ロスの割合をみてみると、食品小売は18%であり、外食産業の35%に比べると半分ほどしかありません。
それなのに「なぜ日本の食品ロスは多いのか、理由は食品業界のある慣習」というタイトルが付けられており、まるで食品小売の食品ロスが、食品ロス全体であるかのように語られていることには違和感がありました。
記事中では食品ロスの数字として2013年度の632万トンが使われていますが、現在では翌年度のデータが出ており、2014年度の621万トンが最新です。
また、2012年度は642万トンであり、それよりも以前は500万トン~800万トンというように具体的な数字は算出されていません。
食べ残し対策の留意事項
話を戻しましょう。冒頭で紹介した農林水産省が発表した<飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項>はどういったものなのでしょうか。
大きく分けると以下の2点になります。
それぞれについて、消費者と飲食店の2つの立場からどう対応していけばよいかが述べられています。
- 食べきり
- 食べ残しの持ち帰り
簡単に説明しましょう。
食べきり
最初の項目は、どのようにして全てを食べきるかについてです。
食べ残しを減らすための最も正攻法な対策であると言えるでしょう。
消費者へ向けて
- 自分が食べられるボリュームを知り、適量を注文し、できたてのよい状態で食べる
- 食べ放題では、元を取るために無理をして皿に盛らない
- 宴会や結婚披露宴では、開催者は参加者の嗜好や年齢層、男女比から、メニューやボリュームを考え、乾杯後30分は料理に集中して食べたり、終了前10分前に食べ残さないように声を掛けたりする
オーダーする時から食べ残さないように気を付けることが大切です。
特に食べ残しが多いとされている宴会や結婚式について言及されています。
飲食店へ向けて
- 料理を出すタイミングや客層に応じた工夫をする
- 小盛りや小分けの商品をメニューに採用する
- 大量の食事を提供するには、幹事と分量やメニューを相談する
- 宴会で客が食べきったらサービス券を配付するなど、インセンティブを持たせる
客が適量を注文できるようにすること、客が食べ残さないようにするための工夫について述べられています。
食べ残しの持ち帰り
次は、仕方なく食べ残した場合に、持ち帰ることにより、廃棄を減らすという施策です。
持ち帰りのリスクとなる食中毒をいかに回避するかということに焦点が当てられています。
消費者と飲食店へ向けて
- 帰宅後に加熱が可能なものを持ち帰りする
- 手を清潔に洗ってから、清潔な容器に、清潔な箸などを使って料理を詰める
- 水分をできるだけ切り、早く冷えるように浅い容器に小分けにする
消費者と飲食店の共通項目として、食品衛生の基本として、食中毒になりにくいものを、なりにくい状態にして持ち帰ることを提唱しています。
消費者へ向けて
- 料理は暖かい所に置かない
- 帰宅までに時間がかかる場合は持ち帰りをやめる
- 持ち帰ったら、中心部まで十分に再加熱して、速やかに食べる
- 少しでも怪しいと思ったら、食べない
消費者が飲食店を離れた後の注意点に主眼が置かれています。
飲食店へ向けて
- 食中毒のリスクや取扱方法、衛生上の注意事項を十分に説明する
- 外気温が高い時は持ち帰りをやめる
- 料理の取り扱いについて、注意書きを添えるなど、食中毒等の予防をするための工夫をする
飲食店が客としっかりコミュニケーションをしっかりとることが挙げられています。
対応が難しい点
<飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項>では、全体的に間違ったことは述べられていませんが、いくつかの点において難しいところがあると、私は考えています。
- 分量
- インセンティブ
- 個別対応
- 食中毒
それぞれ説明しましょう。
分量
まず、分量についてです。飲食店が分量を増やしたいのには理由があります。それは、それなりに多い分量にすることによって、単価を上げられるからです。
調理などに要するオペレーションの手間は、分量が多くても少なくてもそう変わらないので、それならば、できるだけ利潤が大きくなるように、分量も多くしたくなるでしょう。
飲食店が決めた分量は経済的な理由があってその分量になっているものです。
従って、そう簡単に分量を少なくするのは容易なことではありません。
インセンティブ
宴会で客が全てを食べることは大切なことですが、それを促すために、飲食店が食べきった客に割引券を渡すのでは、あまりうまくいかないのではないでしょうか。
何故ならば、飲食店の利益の低下につながるからです。
食べきることによって廃棄物が少なくなると、廃棄物を処理する費用も少なくなります。
しかし、廃棄物の処理費用が減少したとしても、食べきった客に割引券を渡してしまうと、もちろんその割引の程度にもよりますが、合計するとおそらく利益は少なくなってしまうでしょう。
そうであれば、飲食店が客にインセンティブを提供するのは難しくなります。
個別対応
飲食店が客に対して、きめ細やかな個別対応をできれば、食べ残しはだいぶ減るでしょう。
分量が多過ぎることはもちろんですが、好みが合わないことも食べ残しの大きな要因の一つとなるからです。
しかし、高級フランス料理では当然のことかも知れませんが、単価がそう高くない飲食店では、そう簡単かつ柔軟に対応できるわけではありません。メニューを固定化することによって、単価を下げているので、単価を上げずに個別対応していくには限度があります。
もしも無理に個別対応をしようとすれば、飲食店の労働環境が悪化することにもつながるでしょう。
食中毒
食べ残しの持ち帰りについては、アメリカなどで習慣となっていますが、日本にはまだまだ根付いていません。日本では、もしも食べ残しを持ち帰って食中毒が起きた場合、飲食店に大きな責任がないという法的な見解は出ていないだけに、飲食店が慎重になるのは当然です。
食中毒を起こさないために食品衛生的なことを改めて喚起するのはよいことですが、持ち帰りを促進させるための、もっと踏み込んだ対策が今後必要になってくるでしょう。
さらなる対策を
農林水産省が<飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項>を発表したことは一つの前進であると言えます。何故ならば、外食産業の食品ロス対策に関して、食べきりだけではなく持ち帰りについても具体的に言及しているからです。
ただ、飲食店は、飲食店にとって最適とされる経済的な理由があって、これまで食べ残しに対処することができませんでした。
従って、差し障りのない留意事項を発表した次には、例えば2007年に改正された食品リサイクル法のように、法的拘束力のある対策を練り、飲食店を動かしていき、消費者の考え方を変えていかなければなりません。
また、最後に述べたいことがあります。それは、食品ロスの問題には世界の飢餓問題が頻繁に引き合いに出されますが、日本国内の食品ロスを減らしただけでは、世界中で飢餓に瀕している人々の胃袋が満たされるわけではないということです。本当に飢餓問題も解決するべきだとすれば、食品ロスとは別に論じる必要があります。