欧州議会選挙で極右政党がかつてない躍進…どんな懸念があるか?――EUの恐れる悪影響3点
- 欧州議会選挙で極右政党が躍進し、かつてなく存在感を高めたことは、ヨーロッパ各国の政府にとって無視できないインパクトを秘めている。
- 極右政党はEUに懐疑的で、その声が大きくなって各国ごとの裁量が強くなれば、外部から見て“一つの市場”の魅力が失われることになりかねないからだ。
- これに加えて、極右政党が自由や人権に関するヨーロッパのブランド価値を引き下げないか、あるいは中ロの影響力が増すのではという懸念もある。
かつてないスケールの右傾化
EUの立法機関にあたる欧州議会の選挙が6月9日に実施された。各加盟国には人口に応じて議席が割り当てられ、議員は各国ごとの直接選挙で選出される。
今回、最大の焦点は極右政党がどれだけ議席を伸ばすかだった。
極右政党の多くは移民・難民の受け入れ制限、加盟国を統制するEUルールの緩和、同性婚反対などを掲げている。
こうした論調はリーマンショック(2008年)、シリア難民危機(2015年)、新型コロナ感染拡大(2020年)、ウクライナ侵攻(2022年)などによって社会不安が広がり、社会の右傾化が進むなかで段階的に支持を増やしてきた。
今回の選挙で、いずれも極右政党の会派であるEuropean Conservatives and Reformists (ECR)は720議席中73議席、Identity and Democracy(I&D)は58議席を獲得した。それぞれ前回2019年から4議席、9議席の増加だった。
ドイツのための選択肢(AfD)など、こうした会派に参加していない極右政党もあり、それらが約30議席を獲得した。
以上を合計すると約150にのぼるが、それでも議席全体の約20%にとどまる。また、一口に極右政党といっても一枚岩ではない。
しかし、極右政党の存在感がかつてなく大きくなったことは確かで、そのうえ実際の影響力は議席数以上のものがあるとみた方がよい。“極右”とまでは認知されない主流派の保守系政党のなかにも、極右政党の主張に親近感を抱く議員や支持者が少なくないからだ。
例えば、イギリスで2016年に行われたEU離脱の賛否を問う国民投票も、当時の保守党キャメロン政権が選挙協力と引き換えに、イギリス独立党(UKIP)などの要求を受け入れて行われたものだった。
“5億人市場”の魅力は保たれるか
極右政党の躍進を受けて、フランスのマクロン大統領は「明白な多数派を示す必要がある」と議会解散・総選挙に踏み切るなど、各国政府は警戒を強めている。
そこには主に3つの懸念がある。
第一に、共通市場としてのEUの求心力低下だ。
極右政党は各国の独立性を重視していて、そこにはヒトやモノの移動、為替政策、環境対策、教育などあらゆる領域における決定権が含まれる。
その裏返しで極右政党は“EU権限の縮小”でほぼ共通する。
リーマンショック後の経済復興やシリア難民危機などでは、EUの規制・ルールが強すぎて、自国の独立が損なわれているという不満が噴出した。
ただし、イギリスは国民投票で“離脱”を選択した後、国内政治でもEUとの離脱交渉でも大きな混乱に陥った。それを横で見ていた各国のEU懐疑派は、いまや“離脱”ではなく“内部改革”を目指すようになっている。
そのため今後極右政党の影響力が増せば、EUの規制が弱められることもあり得る。
それは各国ごとの独立性を回復することにはなるだろうが、その裏返しで加盟国ごとにルールや規制が違うことになり、域内移動もこれまでほどスムーズでなくなることも想定させる。
そうなれば外部からみて“一つの市場”としてEUが持つ魅力が低下し、海外企業にとっては進出のブレーキにもなり得る。ロンドン市議会は今年1月、EU離脱によってロンドンだけでも29万人が職を失ったと報告した。
たとえ“離脱”を選択する国が増えなくても、EUとしての一体性が損なわれれば、それだけでも経済に悪影響が出るという懸念が各国政府にはあるのだ。
ブランド価値を引き下げる内向き志向
第二に、自由、人権、多様性などの面で、ヨーロッパのブランド価値に傷がつきかねないことだ。
フランスの極右政党“国民連合”マリーヌ・ルペン元党首は、大戦中にフランス警察がユダヤ人を狩り出してドイツに引き渡した歴史を無視して「フランスにホロコーストの歴史はない」と発言し、ユダヤ人団体から抗議されたことがある。
スウェーデンでは極右系の民主党が政権を握った後、デモのなかでイスラームの聖典コーランを焼く行為が合法と認定された。
ドイツのAfDは「民族的にドイツ的でない市民」の集団追放について協議していたことが発覚している。
これらは一定数の支持者から歓迎されていて、その意味では民主的といえなくない(民主主義が道徳的に正しい結果を導くとは誰も保証できない)。
ただし、それが他者の権利や尊厳を否定する論理であることもまた確かだ。
少なくとも、こうした内向きの態度が多くの国で賞賛をもって迎えられるかは疑問で、これまで自由や人権の価値を称揚してきたヨーロッパの影響力にもかかわる問題である。
中ロの影響力の浸透
そして最後に、極右政党の台頭は、ヨーロッパに中ロの影響力がこれまで以上に浸透する契機にもなりかねない。
ドイツでは4月、AfDのマクシミリアン・クラフEU議員が中国やロシアから資金を受け取ってそれらのプロパガンダを拡散していた疑惑に関する裁判が始まり、事務所も捜索を受けている。
極右と中ロの間にある思想的な差は、実はそれほど大きくない。
どちらも多文化主義などリベラルな価値観に否定的で、強い国家権力を好み、ムスリムなど外国人を嫌う傾向が強い。そしてどちらもEUの強い結束を嫌う。
とりわけロシアに関してそれは鮮明で、多くの極右政党指導者はプーチン大統領と緊密な関係にあった。ウクライナ侵攻後、さすがにそのトーンは控え目になったが、それでも極右政党支持者にはウクライナ侵攻に関して「即時停戦」を求める意見が強く、「徹底抗戦」を支持する欧米の一般的論調とは温度差がある。
ロシアほどでなくても、中国に関しても、似たような傾向は見受けられる。
フランス愛国連合のルペン党首はかねて「ヨーロッパがアメリカに近すぎる」と主張し、各国政府がホワイトハウスに追随する傾向を批判してきた。その延長で、香港や台湾の問題にヨーロッパがかかわる必要を疑問視している。
こうしてみた時、極右政党の躍進は中ロにとっても悪い話とは限らない。
だからこそ今回の欧州議会選挙の結果は、EU各国の政府や主要政党にとって無視できないインパクトを秘めているのである。
【追記】記事の一部を修正しました。