プーチンとの蜜月を否定する欧米の「友人」たち――フランス大統領選への余波
- 移民、フェミニスト、LGBTに厳しいプーチンはこれまで、トランプをはじめ欧米の極右政治家と密接な関係を築いてきた。
- しかし、ウクライナ侵攻をきっかけに反ロシア感情が各地で高まるなか、「友人」の多くはプーチンとの蜜月をなかったことにしようと必死である。
- フランス大統領選挙の有力候補ルペンはその一人で、プーチンとの深い関係はフランス初の極右大統領の誕生を阻む一因となり得る。
欧米の「友人」たちはプーチンとの蜜月を否定するのに苦慮している。大統領選挙の最中にあるフランスでも、「反移民」を掲げる極右ルペン候補は、これまでのロシアとの協力をなかったことにしようと必死である。
「ロシアへの見方は変わった」
4月10日に行われたフランス大統領選挙の第1回投票で、「国民連合」党首マリーヌ・ルペン候補は、現職マクロン大統領(得票率27.8%)に次ぐ第2位(同23.1%)につけた。フランス大統領選挙は第1回投票で得票数上位2名が決選投票に進むため、ルペンは24日に行われる決選投票でマクロンとの勝負に臨む。
国民連合は1972年に「反移民」を掲げて登場した極右政党の草分けだ(かつての党名は国民戦線)。その党首が第2位につけたことから、極右大統領の誕生を危惧する声もあるが、ルペンを待ち受ける道は険しい。
国民連合の党首はこれまで2002年、2017年の二度にわたって第2回投票に進んだが、いずれも敗れた。その度に、第1回投票で3位以下になった候補の支持者が結束して対立候補を支持したからだ。
それだけフランスでも極右大統領の誕生への警戒感は強いといえるわけだが、特に今回の選挙の場合、プーチンとのこれまでの「蜜月」がルペンの前に大きく立ちはだかるとみられる。
ルペンはもともとプーチンと近い立場にある。実際、国民連合は2014年、ロシア政府から1,000万ドル相当の選挙資金を借りていたことが発覚した。
また、2017年の大統領選挙の際には、「この数年間に新たな世界が誕生した。それはプーチンの世界であり、トランプの世界だ…自分はこれらの偉大な国々と目標を共有して協力していく」と述べ、トランプとともにプーチンも賞賛した。
こうした密接な関係は、ロシアによるウクライナ侵攻の後、しばしば批判の対象になっている。そのためルペンは「ウクライナ侵攻でロシアへの見方は変わった」と強調し、「ロシアと関係を強化しようとしたのは中国と連携させないため」と釈明に必死だ。
その一方で、ルペンは制裁に基本的には賛成しながらも、ロシア産天然ガスの輸入制限には反対している。「フランス人の生活に大きな悪影響を及ぼすから」というのがその理由で、現実的といえば現実的な言い分だが、これがロシアとの関係を払拭できていないとみられる原因の一つにもなっている。
白人至上主義者のヒーロー
ルペンに限らず、欧米の極右政治家にはプーチンに近い者が少なくない。アメリカのトランプ元大統領やペンス元副大統領、ハンガリーのオルバン首相などはその典型だ。
そこにはイデオロギー的な近さがある。一般的に極右は、国家の独立や伝統的な価値観を重視することの裏返しで、移民、LGBT、フェミニスト、多文化主義などを敵視する。グローバル化や普遍的人権を拒絶する極右にとって、プーチンはいわばヒーローでさえあった。
プーチンのもとでロシアは移民流入を制限し、イスラーム主義者を厳格に取り締まり、LGBTの権利などを制限してきた。また、「伝統的価値観」の名の下に、スカート着用で化粧をして出社した女性に報奨金を出す大企業さえある。
フランス国際戦略問題研究所のカミュ博士の言い方を借りれば、こうしたロシアは欧米極右の間で「キリスト教文明の伝統的価値観を保つ大国」と認知されてきた。
ルペンなど政治家だけでなく、末端の活動家もそれは同じだ。
ロシアの極右団体、ロシア帝国運動はプーチン政権の事実上の下部組織ともみなされているが、SNSなどでヘイトメッセージやフェイクニュースを発信し続け、多くの国で「テロ組織」に指定されている。しかし、サンクトペテルブルクにあるその訓練場には欧米各国から極右活動家が集まり、軍事訓練を受けてきた。
プーチンと距離を置く「友人」たち
ところが、こうした「友人」たちは今、過去の関係をなかったことにしようと必死だ。欧米では党派を超えてプーチン批判が噴出し、極右の間からも反ロシア、反プーチンの論調が高まっているからだ。
もともと欧米の極右には、親ロシア派と反ロシア派の二つの系統がある。このうち前者を代表するのがルペンやトランプだが、後者に属するのがウクライナのアゾフ連隊だ。
ロシアによるウクライナ侵攻は、極右のなかでも反ロシア派の勢いを強めている。ウクライナ政府の呼びかけに応じて各地から数多くの極右活動家が外国人戦闘員として集まる状況は、これを如実に物語る。
それは親ロシア派極右の政治家の多くに方針転換を余儀なくさせる原動力になっている。例えば、トランプの片腕だったペンスは3月4日、身内ともいえるアメリカ共和党の政治家に向けて「プーチンの擁護者はいらない」と言明した。
共和党内部の親ロシア派に釘を刺した格好だが、これはかつてのボス、トランプを念頭に置いている。ウクライナ侵攻直前の2月、トランプがプーチンを「天才」と絶賛していたからだ。
ただし、トランプほど露骨でないとしても、ペンス自身もやはりロシア寄りとみなされてきた。例えば、ロシアによるクリミア併合後、アメリカは経済制裁を強化したが、その最中でもペンスは「ロシアとはイスラーム過激派対策などで協力できる」と強調し続け、共和党内部からも批判や懸念を招いた。
「友人」の怨念
立場の変更は政治家につきものと言ってしまえばそれまでだが、それは欧米各国の今後に思わぬ影響をもたらす可能性がある。
フランス大統領選挙を振り返ると、これまでルペンはEUに批判的で、イギリスのEU離脱も支持してきた。EUは移民や環境対策、教育に至るまで、あらゆる分野でヨーロッパ共通の基準を導入してきたが、ルペンなど極右はこれが国家主権を損なうものと反発し、諸悪の根源のように扱ってきたのである。
しかし、ルペンは大統領選挙キャンペーンのなかでEU批判のトーンを弱めている。そこにはロシアとの対抗上、ヨーロッパ各国がこれまで以上に協力するべきという世論が強まってきたことがある。
ルペンや国民連合は、EU統合や移民受け入れを大前提とする既存政党との違いを前面に押し出して支持を広げてきた。そのルペンにとって反EUのトーンダウンは他の政党・候補との違いを不鮮明にするものだが、現状でこれまで通り反EUを叫ぶことは政治的リスクが大きすぎる。
その意味で、欧米の「友人」たちがプーチンに対して「余計なことをしてくれた」と思っても不思議ではない。極右政治家との関係を通じて欧米に勢力を浸透させてきたロシアは、ウクライナ戦争でその「前線基地」にも爆弾を落としたといえるだろう。