1月だけで銃犯罪100件! ── バイデン大統領が誓った「テコ入れ銃規制」と見えてきた「失望」
バイデン大統領は3日、銃犯罪が多発し治安悪化の一途をたどるニューヨーク市を訪問し、銃規制を見直す方針を表明した。
大統領はエリック・アダムス市長やキャシー・ホークル州知事らと会談し、このように述べた。「警察の予算の打ち切りは答えにならない。必要な資金を援助していく」。
民主党寄りのニューヨークではBLM運動が盛んだった2020年以降、「ディファンド・ザ・ポリス(Defund the police 警察予算の打ち切り)」がスローガンだった。しかし銃犯罪が相次ぐ中、大統領によって警察組織の再検討と予算の見直しの必要性が明言された。
先週市長は、私服警官の再配備や、武器所持者を見極める顔認証による取り締まり強化案の発表と共に、州および連邦政府に対してNYPD(ニューヨーク市警察)への援助要請をしており、それに答えた形だ。
大統領は6時間の市内滞在中、クイーンズ区の公立小学校も訪れ、地域のヴァイオレンス・インターラプター(Violence Interrupters 暴力を阻止する活動グループ)とも面会した。彼らは犯罪へ対峙する施策として、「発生自体」を阻止することが何よりも重要だと考え、街中でのいざこざが暴力事件に発展する前に、問題解決をすべく活動をしている。バイデン氏は彼らにも、活動資金の援助を増やしていくと約束した。
深刻化するNYの治安悪化
大統領がわざわざ市内を訪問するほど、最近のニューヨークの治安悪化は甚だしい。まるで「被災地訪問」である。この街は銃撃事件だけでも、1月は特に酷い有様だった。
先月市内で起きた主な銃撃事件
9日深夜、イーストハーレムのハンバーガー店「バーガーキング」に強盗が押し入り、19歳の女性従業員が腹部を撃たれて死亡。犯人はレジから100ドル(約1万円)とマネージャーの携帯電話を盗んで逃走し、その後逮捕された。
21日ハーレムで、家庭内暴力の通報で駆けつけた警官2人が銃撃され死亡。犯人は別の警官に撃たれ3日後に死亡。(今年だけで6人の警官が、銃犯罪に巻き込まれている)
19日ブロンクスのデリ前で、男が別の男に向け発砲した2発のうち1発が、車内に母親といた11ヵ月の女児の顔面に当たる。女児は一命を取り留めるも、犯人は逃走中。
NYPDが発表した先月の市内の犯罪数を見ても、その多さは顕著だ。前年同月に比べ急増している。
全犯罪件数:前年同月より38.5%上昇(昨年6905件、今年9566件)
銃犯罪:前年同月より31.6%上昇(昨年76件、今年100件)* 2019年は52件、20年は67件
レイプ:前年同月より26.7%上昇(昨年101件、今年128件)
車両窃盗:前年同月より 92.5%上昇
殺人:前年同月より15.2%減少(昨年33件、今年28件)
- 殺人を除き、すべての犯罪カテゴリーに於いて、前年同月より犯罪率は上昇した。車の盗難が急増しているのも今年の特徴。
全米でも治安悪化
コロナ禍になりここ1、2年、犯罪数が急増しているというのは、ニューヨークのみならず全米の潮流でもある。
同日のニューヨークでの会議中、バイデン大統領は「この国では毎日316人が撃たれ、106人が銃で殺されている」とも述べた。
バイデン氏が掲げた、テコ入れの銃規制とは?
大統領が今回表明した、具体的な銃規制の強化は以下のようなものだ。
銃犯罪に関する司法省計画
- 銃撃事件対策が優先的事項
- 銃の売買ルートの取り締まり
- ゴーストガン(闇取引で売買されている身元審査すら必要ない銃。シリアル番号などがないため、入手ルートが追跡できない)の撲滅
- 違法銃の販売元の追跡、割り出し
- 5億ドル(約570億円)の予算の捻出
大統領は、特に問題とされている他州からニューヨークに大量流入する「違法銃」への連邦政府の取り組みが急務だとし、追加資金を提供することを公約に掲げた。「より安全に生活するために、できることをやっていく。しかしそれには議会の協力も必要だ」と話し、「銃販売の身元調査の徹底、ライフルなど殺傷力の高い銃器(アサルト・ウエポン Assault Weapons)の撤廃、銃製造業者の責任逃れの廃止を盛り込んだこれらの法案の可決が必要だ」と、議会に求めた。
「NYの問題とは関係ない」疑問の声も...
問題解決に向け1歩踏み出したかと思えば、実はそうでもないようだ。
3日付のニューヨークポストの社説は、「我々が必要としている問題解決について、大統領から具体的な言葉はなかった。身元調査やアサルト・ウエポンの撤廃、レッドフラッグ法はニューヨークが今抱えている問題とは何の関係もない」と、大統領の方針を厳しく切り捨てた。
当地では、犯罪者に甘いとされるマンハッタンの新地方検事、アルヴィン・ブラッグ氏の政策が問題視されている。「当地では強盗で銃を使用したとしても、実際に銃を撃たない限り、刑務所に入れられることはない」。(前述のニューヨークポスト)
「犯罪に甘い政治家がこの国をダメにしている」と、下院共和党トップのケビン・マッカーシー院内総務も、大統領を強く非難した。「(非常に深刻な事件でない限り)犯罪者を起訴しないように検察官に指示を出し、強盗などの罪を軽く見て、わずかな保釈金で犯罪者を解放しているニューヨークの極左検事(アルヴィン・ブラッグ氏)対して、大統領には非難する勇気がないようだ」
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