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NY治安悪化でまさかの警察予算削減、その思惑とは(士気低下の最たる例とはこのこと)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
NYの「市庁舎自治区」前で横たわって警察に抗議するデモ参加者。(7月1日)(写真:ロイター/アフロ)

ここ最近のニューヨークは治安悪化が顕著だ。特に6月に入って銃がらみの事件が市内の各地区で「激増」している。

NYPD(ニューヨーク市警察)の統計を元にした地元紙の報道では、先週1週間で発生した銃撃事件は63件、負傷者は85人にも上った。1年前の同時期に起こった発砲事件は26件なので、今年は2倍以上に膨れ上がったことがわかる。

また先週末は「1晩」だけで12件もの銃撃事件が起きている。26日深夜には、五番街と26丁目の角で男女が撃たれ、19歳の女性が死亡した。事件現場は筆者の以前の職場からたったの半ブロックのところで、一報を聞き背筋が凍った。マンハッタンでも中心地とされるエリアの一つで、おしゃれなデザイナーズホテルが立ち並び、アマゾンの創業者、ジェフ・ベゾス氏の超高級ペントハウスもあるくらい、普段は治安が良いところだ。

発砲件数は増加しているが、一方で死者数はというと昨年の同時期が9人、今年は6人と減っている。NYPDでは発砲件数の急増について「警察に対する敵意に関連したものではないか」という見方を示している。

新型コロナや人種差別問題などによる社会不安が影響してなのか、今年は何かおかしいと感じる。違法の打ち上げ花火の急増もそうだ。この花火(と騒音問題)は、暴動や略奪を阻止するために発令された6月第1週の外出禁止令の解除後から激しくなった。初めのうちは、コロナ感染の波の流行がおさまったセレブレーション、もしくは独立記念日(7月4日)前によくある予備練習か、くらいに思っていたが、このように3週間もの間、毎晩爆音を轟かせるようなことは異例の事態だ。

筆者の近所でも6月第2週目から、日暮れと共に毎日花火がバンバン打ち上がり、ものすごい爆音が響いている。ひどい時で午前3時に家の前の通りで爆音がしたこともあった。緊急を要しない市の相談電話に寄せられた苦情は昨年が21件、今年は1700件以上。いかに今年が「異常」であるかがわかるだろう。

夜中1時に家の外で上げられた花火の様子。このような事態にも警察は見て見ぬ振りなのだから、減るはずがない。

上記の2つの映像を見る限り、若者による打ち上げ花火というより火薬を爆発させている印象だ。

なのに警察予算削減、その思惑は?

先月30日ニューヨーク市議会は、NYPDの予算削減を盛り込んだ来年度の会計予算案に合意した。デブラシオ市長は警察予算の6分の1にあたる10億ドル(約1000億円)を削り、その分、医療や食料の配布プログラムに割り当てるとした。

具体的には、予定していた1160人の警官の採用の見合わせなどで帳尻を合わせていくという。そして採用人数が減った分、路上での違法販売、ホームレス、学区の監視に割り当てる警官の人数を減らすなどするという。しかし学区の監視は今後市の教育局が担当するため、市の財源節約がどこまで見込めるか。そんなザルのような計画で大丈夫なのだろうか?

先日の記者会見で、市長はその辺を記者に問われるも「現状だけではなく来年以降のことを見据えての決断である」と強調した。また削減と言っても、犯罪が多発する地区には警官を増員し、引き続き治安維持に努めていくという。

市はコロナ騒動に関連した莫大な出費により、来年度の予算を大幅に抑える必要を迫られていた。また警察システムへの不満から警察予算の削減を求める市民からの訴えがデモなどで日に日に大きくなっていた。

しかしシエナ大学が30日に発表した世論調査によると、市内に住む有権者の47%は警察の予算カットに反対と応え、賛成の41%を上回った。ニューヨークタイムズ紙は「Nearly $1 Billion Is Shifted From Police in Budget That Pleases No One」(約10億ドルが警察予算から移されたが、誰も喜ぶ者はいない)とする記事を発表するなど、地元メディアも市の方針に懐疑的だ。

警官の士気低下

6月は50-aの撤廃やチョークホールドの禁止、私服の防犯ユニットの解体など、さまざまな警察改革が発令された月でもあった。

警察反対運動の機運の高まりに対して、真面目に職務に当たっている警官からも不満の声が沸き起こった。それは、数字やデータにきっちりと表れている。この1ヵ月で早期退職届けを出した警官の数は272人。昨年同時期が183人なので、今年は49%増加したことになる。

退職者の中には27年間の豊富なキャリアを持つブロンクス地区副監察官、リチャード・ブレア氏(前述のYouTube参照)も含まれる。同氏は警察への抗議デモに対する抗議で辞任し、ほかの警官からは英雄視されている。

NYPDの情報筋の話では、現在NYPDの警官人口は3万6000人ほどだが、今後の雇用凍結および退職率の増加は、治安を守る部門(NYPD)の危機の前兆である可能性が示唆されている。さらなる治安悪化が、数字やデータに表れないといいのだが。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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