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刑務所も新型コロナの温床に NYで6ix9ineら受刑者650人を釈放、懸念される治安悪化

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ニューヨークのライカーズ島内にある刑務所(2015年撮影)(写真:ロイター/アフロ)

ニューヨーク市のイーストリバーに浮かぶ孤島、ライカーズアイランド(Rikers Island)。ガイドブックなどに掲載されていないので、一般的にこの島のことはほとんど知られていない。

この無名の(だけど地元では非常に悪名高い)島内も、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染危機にさらされている。

ライカーズアイランドは、囚人の島とも呼ばれる。

413エーカー(約1.67平方キロメートル)ほどの小さな島一体はニューヨーク随一の大規模な刑務所施設になっていて、普段市民がその島を訪れることはない。島に収容されているのは比較的短い刑期の受刑者で、人数は1日ごとに平均1万人とされている。

ニューヨークでは、このライカーズ刑務所を含む全刑務所で、新型コロナウイルスの感染が広がっているのだ。

ライカーズアイランドの地図(マンハッタン島の東側に浮かぶ小さな島)

市内の刑務所で最初の新型コロナウイルスの感染が判明したのは2週間前だった。刑務所内は衛生環境が良くない密室空間で、そこに大勢が密集しているため、感染者数は増える一方だ。

現在約800人近くが刑務所内で(一部はグループで)隔離されている。ライカーズ刑務所には、伝染病病棟を含む医療専門ビルがあり、ベッドが88床備えられているが、現在症状を抱える拘留者でいっぱいだという。

これらの問題を受け、ビル・デブラシオ市長が出した指示とは、できるだけ多くの受刑者を釈放するようにというものだった。ニューヨークタイムズ紙によると、3月31日の時点で釈放されたのは約650人。これで市内の刑務所総人口が5000人未満になり、この最小値は1949年以来初めてだという。

それでもまだ全刑務所にいる167人の受刑者と137人の職員から、感染が見つかっている。数名が入院し、更生指導の職員2名の死亡が確認されている。

ラッパー、Tekashi 6ix9ine(テカシ・シックスナイン)も釈放へ

自由の身になるのはこの人もそうだ。ラッパーのTekashi 6ix9ine。

これまで麻薬所持や恐喝、13歳の少女との性行為など数々の悪事を働いてきており、2018年にマフィアが絡んだ銃撃や強盗、ゆすりなど9件の罪状で起訴され、懲役2年の判決を受け服役している。

エンタメ系の各メディアでは4月2日、新型コロナウイルスの蔓延により、マンハッタンの連邦裁判所が喘息の持病を持つTekashi 6ix9ineの釈放日を4ヵ月早め、自宅監禁するように命じたことが報じられた。現在彼が収容されているのはクイーンズ区の刑務所で、自宅監禁への移行は今日明日にも行われるという。保護観察官の承認した住所からの外出は弁護士接見以外は認められず、本来の釈放予定日だった7月31日までGPSにより監視下に置かれる。

『GUMMO』のヒットで一躍有名になったTekashi 6ix9ine。才能があるためここまで上りつめたのだが、同業者からの評判は良くない。ブルックリン出身、23歳。

またニューヨークポスト紙の報道によると、デブラシオ市長はほかにも、「釈放してよい受刑者リスト」の中に極悪犯罪者も含めていたことがわかった。ブロンクス区の救急隊員(FDNY EMT)を殺した罪で服役しているホセ・ゴンザレス(Jose Gonzalez, 28)受刑囚や、警官の殉職死に至ったクイーンズ区の強盗事件に関与したクリストファー・ランソム(Christopher Ransom, 28)とジャガー・フリーマン(Jagger Freeman, 26)らだ。

これらの犯罪者の釈放は、検事や弁護士らにより阻止され、リストから削除された。法執行機関やFDNY EMTから「(新型コロナウイルスの)最前線で活躍する救急隊員を賞賛したかと思えば、その仲間を死に至らしめた受刑囚の釈放を検討するとは、市長はいったい何を考えているのか?」と非難の声が上がった。

ニューヨークでは刑務所内での感染のほかに、NYPD(ニューヨーク市警察)でも感染が広がっている。NYPD職員の感染者は今のところ1400人にも上り、6000人以上の警官が病状を訴えている。詳細

NYPDのマスク率もやや上がった。3月30日、病院船コンフォートのプレスカンファレンス会場にて。(c) Kasumi Abe
NYPDのマスク率もやや上がった。3月30日、病院船コンフォートのプレスカンファレンス会場にて。(c) Kasumi Abe

ニューヨーク市は1970年代の財政危機を引き金に犯罪数が激増し、2000年ごろまで治安が最悪だった暗黒の歴史がある。今のところ、3月末の時点で市内の犯罪件数は20%下がっているという報告だが、社会の混乱ーー失業率増加、経済の低迷、警官数の減少、人々の不安、ストレス、精神的疲労、更生したかどうかもわからない多数の犯罪者の釈放ーーなどで、いずれ治安が再び悪化するのではないかと筆者は懸念している。

話は冒頭のライカーズ刑務所に戻るが、2017年デブラシオ市長は市内の犯罪率が近年低下していることを背景に、1日ごとの収容者数が平均5000人まで減少するなら、10年以内に閉鎖したい意向を示していた。そしてニューヨーク市議会は昨年10月、2026年までに同刑務所を閉鎖することを決定した。確かに今回皮肉にも服役者数が減少したのだが、本当に閉鎖なんてできるのだろうか。

ニューヨークのこの日の感染者数はこちら

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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