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選挙戦に見る兵庫県・斎藤知事とトランプ氏の共通点

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
19日、スペースXを視察したトランプ次期大統領。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

兵庫県の斎藤元彦知事の返り咲きをきっかけに、日本で選挙のあり方とその変化が話題になっている。

筆者もスキャンダル一辺倒の日本の報道を時々目にしていたので、知事選の行方が気になっていた一人だが、結果を聞いて耳を疑った。自分がこれまでニュースで見せられていたものはいったい何だったのだろうか、と。

同知事の返り咲きのニュースに関連して、テレビや新聞など旧来のオールドメディアへ寄せられる信頼度が低下し、マスメディアとしての影響力の低迷が伝えられている。代わりに選挙戦で大きなうねりを作り出すほど力を持つようになったネットやSNSの影響力も注目されている。

選挙において有権者はもはやメディアをそれほど信じておらず、インフルエンサーなど個人(市民ジャーナリスト)発信の情報を活用し、自らのリサーチで決断をした結果の表れということか。

アメリカでも同じことが起こっていた

実はアメリカでも時を同じくして、似たようなことが起こっていた。大統領選におけるトランプ氏の勝利である。

大統領選と兵庫県知事選の2つの選挙を通して、筆者は幾つかの共通点に気づいた。その共通点とは平たく言うとこのようなもの。

  • 偏向報道により真実がメディアによって公平に伝えられてこなかった
  • それでも有権者はメディアに影響されず、SNSを活用し自ら考えて投票した

あくまでも筆者の主観によるものだが、ほかにも気づいた共通点がある。

  • 一部のオールドメディアは両者をまるで独裁者やパワハラ上司、権力を振りかざす悪人のように報じてきた
  • 実態はそれほどの悪人でもなさそう

(補足:斎藤氏は改めるべきところは改めると記者会見で話していた。トランプ氏は有罪評決を受けているのでそういう意味での悪人かもしれないが)

  • 実態はその国(県)のことを考えひたむきに取り組もうとしていたが、行き過ぎたところがあり、反対派の反感を買い、スキャンダルとしてメディアに叩かれた
  • 一方でインフルエンサーや市民ジャーナリストによって、SNSやネットを駆使した援護射撃があった
  • それにより有権者は総合的に判断できた。結果的にはデモクラシーで勝利を手にした

今月16日、選挙演説で支持者と握手する斎藤氏。
今月16日、選挙演説で支持者と握手する斎藤氏。写真:アフロ

米大統領選の日本での偏向報道

日本の一部のメディアは、アメリカ大統領選についてもいくつか偏向報道をしていた。偏向報道の多くは(記者がアメリカに駐在していても日系社会のコンフォートゾーンにいて)現地取材をしておらず左寄りの米オールドメディアのこたつ記事、もしくは政治的思考の強いもの、思い込みによる偏った視点によるものに見受けられる。

ハリス候補について、左寄りの米記事に倣い「好感度が高い候補者」「優勢」、「バイデン大統領から熱い支持」といったところが主流だっただろう。

しかし実際アメリカに住み、(青い州・赤い州満遍なく)アメリカ社会と関わり人々と対話すると、ハリス候補支持と共にトランプ候補を支持していた人も多いことに気づく(それでもJ.D.ヴァンス次期副大統領の本を読めば、ラストベルトの人々のことをまだ知らないと気づかされる自分がいるのだが)。

そして偏向報道の陰でさまざまな事実が無視されてきた。

一つの例としてバイデン氏とハリス氏は仲間割れをしており、投開票日にジル夫人があろうことか共和党のシンボルカラーである真っ赤なスーツを着て投票所に行っているが、日本ではほとんど報道されていない。

日本のメディアはハリス氏に勝ってほしかったのだろう。トランプ氏の勝利が確実になると、テレビ局のスタジオがお通夜状態になったとも報じられた。

選挙の行方を左右するのはオールドメディアかSNSか

アメリカの左寄りの主要メディアでもハリス氏に寄り添った報道が主流だった。

そんな中、投開票日を迎えトランプ氏が優勢になると、右腕のイーロン・マスク氏がXの投稿を通じてメディアの衰退とSNSにおける市民ジャーナリストの台頭を主張した。

ほとんどの伝統的なメディアが容赦なく嘘をついた中、この選挙のリアリティはXを見れば明らか。

今やあなた(Xユーザー)がメディアです。

あなたの考えや意見をXに投稿し、間違っている場合はその人を訂正してください。そうすれば真実を見つけられる場所が世界に少なくとも1つできるでしょう。

別の投稿でもこのように述べている。

ニュースは人々から発信されるべき。実際に現場にいる人々、そしてその分野の専門家から発信されるべき

先月5日、ペンシルベニア州バトラーでの選挙集会。トランプ氏は当選後、マスク氏を政府効率化省トップに起用した。
先月5日、ペンシルベニア州バトラーでの選挙集会。トランプ氏は当選後、マスク氏を政府効率化省トップに起用した。写真:ロイター/アフロ

Xと言えば、マスク氏がCEOになって以降、セレブや団体から毛嫌いされる動きもある。

最近も「有害なメディアプラットフォーム」として英メディアのガーディアンが、そして理由は定かではないがベルリン国際映画祭もXでの投稿の停止を発表したばかり。

マスク氏への不満からX離れは加速し、ライバルのブルースカイは大統領選後の1週間で125万ユーザーを獲得したという。

ユーザーが増加中のSNS、ブルースカイ。ツイッターの元CEOジャック・ドーシー氏が2019年に社内の研究イニシアチブとして立ち上げ、21年に独立。よってXと似ている。
ユーザーが増加中のSNS、ブルースカイ。ツイッターの元CEOジャック・ドーシー氏が2019年に社内の研究イニシアチブとして立ち上げ、21年に独立。よってXと似ている。写真:REX/アフロ

X離れが進む一方で、X自体の新規ユーザーや再利用者も増えているとCBSニュースなどが報じている。Xのリンダ・ヤッカリーノCEOもXの利用は過去最高を記録し、増加し続けていると発表CNNも「Xのウェブトラフィックが年間最高値を記録し デスクトップだけで4,650万回の訪問を記録。過去数ヵ月の平均より38%増加」と報じた。

つまり選挙戦におけるSNS利用自体が増えており、Xとブルースカイは共にウィンウィンのようだ。

「大統領選の最大の敗者は主流メディア」(米誌)

トランプ氏は今年の選挙戦で、メディアによる数々のネガティブキャンペーンを物ともせず圧勝したわけだが、勝利を分析する記事の中には、メディアの敗北を唱える見方もある。

今月7日付の米ニューズウィークはDonald Trump Won. But the Biggest Loser Was the Mainstream Media.(トランプが勝利。最大の敗者は主流メディアだった)という記事を発表した。

記事は、ハリス氏を勝利に導くためCNNなど大手メディアが誤った報道を複数回したとし「新聞、テレビ、ラジオなどのメディアは今回の選挙においてはるかに勢力が弱まった」「(オールドメディアの)ビジネスモデルの崩壊と影響力が衰退し、国民の間でメディアは信頼できないという意識が高まっている」と述べている。

トランプ氏はCNNの単独インタビューを1年半も受けておらず、代わりに影響力のあるポッドキャスターやSNSのインフルエンサーに選挙運動のメディア戦略を集中させている。それによりメディアが意図的に報じないトランプ氏の人間味ある側面を有権者に見せることができているとした。

これまで幾度となく、中道左派のメディアに不当に扱われてきたと主張しているトランプ氏。2019年にも、16年の大統領選でトランプ陣営とロシア当局とのつながりをめぐるムラー特別検察官の捜査を報じたニューヨークタイムズを「事実にまったく基づかない記事」「彼らは完全に制御不能」「マスコミが今日ほど不誠実になったことはかつてない」と非難したことがあった。

筆者が取材をした夏の党大会でもNBCなど目の前にいるメディアを「フェイクニュース」と言って名指しで非難し、現況への不満を漏らした。一方、9.11追悼式典でもトランプ氏を間近に見る機会があったが、人間らしい側面を見せ、偏向報道で伝わってくるイメージとの乖離を実感したのだった。

米で有料のケーブルテレビや紙の新聞の需要が減少中

オールドメディアのビジネスモデルの崩壊について、先述のニューズウィークの記事では、アメリカで今どのくらいの人が有料のケーブルテレビに加入しているのかについても触れられている。

2010年時点でケーブルテレビの有料パッケージ加入世帯は約1億500万だったのが、今年は6800万まで減少しているという。これは14年間で35%減を意味する。

筆者自身のケースでも周りの友人・知人を見渡しても、このデータには納得できる。筆者も2009年過ぎまでケーブルテレビに加入していた記憶があるが、ストリーミングの台頭で2010年代のどこかで解約し、今ではストリーミングでの視聴が主になっている(補足:アメリカでは無料でも番組が充実している)。

特に若い世代を中心にテレビ自体を持っていないと初めて意識したのは2010年代初頭。当時IT企業で常駐の仕事をしていた時、同僚が全員、テレビを持っていないと知った時に衝撃を受け、時代の移り変わりを実感したのだった。

マスメディアへの信頼度についても書かれている。調査会社のGallup調べでは70年代ごろまで圧倒的に高かったが次第に減少し、10年ごろには「非常に信頼している」数と「それほど信頼していない」数と「全然信頼していない」数がほぼ同数になり、20年に「非常に信頼している」数が最低値となった。現在はその3つが再び互角状態だ(注:信頼していない傾向が高いのは主に共和党員)。

影響力が衰退しているメディアは新聞もそうだ。2000年代初頭は家の軒先に紙の新聞が届けられ、地下鉄では乗客が大きな新聞を広げ、朝の出勤時に駅でフリーペーパーが配布されるのが日常風景だったが、そのような風景は今は昔。

記事によれば、新聞の発行部数は2000年以降半分以下に減少している(その分、デジタル購読者が増え、ニューヨークタイムズの購読者数は1000万人以上)。

マスメディアは敗北したのか?受け手側に求められるものは?

研究機関として権威のあるピュー研究所は先月、興味深い記事を発表している。

この記事でわかることは以下の通り。

政治ニュースを入手する方法

テレビ(35%)

ニュースウェブサイトもしくはアプリ(21%)

SNS(20%)

グーグルなどの検索(8%)

ラジオ(5%)

ポッドキャスト(5%)

紙の新聞や雑誌(3%)

そのほか(4%)

政治ニュースの入手メディア

ABC、CBS、NBCの3大ネットワーク

CNN

Foxニュース

MSNBC

ニューヨークタイムズ

NPR

ワシントンポスト

など

補足:

支持政党によって異なり、共和党員は3大ネットワークよりFoxニュースを観る傾向がある。

ただし年齢によっても異なる(詳細)。

30歳未満は政治ニュースの入手にSNSを使い、高齢者はテレビを使う傾向がある。

ニュースメディアは今年の選挙をきちんと報道したか?

58%の人はニュースメディアが今年の選挙をきちんと報道したと考えている。

うち13%は非常にうまく報道したと考えている。

一方で、41%はうまく報道していないと考え

15%は全然うまく報道していないと考えている。

補足:

民主党員は共和党員より信頼できる情報を報道から見つけるのは簡単だったと答える傾向がはるかに高く、共和党員はそれが困難だったと答える傾向が高い。

そのほか、先月30日付の米フォーチュンは、別の角度から選挙戦におけるメディア問題を報じている。

民主党寄りのメディアがトランプ氏についてフェアでない報道をしたのは周知の事実だが、実は報道が増えれば増えるほど無意識にトランプ氏の支援へつながったというのだ。

これはどういうことか。

多くのメディアがトランプ氏について報道してきた。2016年以降、過去3回の大統領選でトランプ氏はCNN、Fox、MSNBCで対立する候補者より多く報道されてきたという。

(注:英BBCは例外。2024年選挙ガイドライン)

面白いことに、ニュースの報道後にグーグル検索のトレンドを分析したところ、報道と検索は密接につながっていることが判明したという。つまり報道が増えれば増えるほど人々が行動を起こすという。いいニュースであれ悪いニュースであれトランプ氏がニュースになればなるほど人々はネットで検索する。こうなると一種のマーケティングツールだ。

ニュースメディアはスキャンダルに依存した戦略のため、トランプ氏はメディア報道を利用し、自身のブランド強化に非常に成功したというのだ。なかなか面白い分析だと思う。

また「How Brands Grow」(2010年)というある大学教授による本がマーケティング界で話題になったが、その教えは新規顧客を獲得するためにはブランドは(従来の常識である)コアなターゲット層との関係を広げ、深めることに注力するのではなく、できるだけ多くの人々の間で認知度を高める必要があるということだった。この手法でトランプ氏の認知度が見事に高まったことで、人々の行動(検索して自分で調ベる)につながったとの見方だ。

何だか、今回の斎藤知事の報道で伝えられていることとよく似ていないだろうか。

今回の選挙は共に「メディアの敗北」とも伝えられた。しかし筆者はそうは言ってもまだ多くのマスメディアがまともで、彼らは真実を公平に伝える努力をし、影響力は甚大だと思っている。

報道が公平であるか、どのメディアのどのジャーナリストが発信しているのか、大袈裟な情報に踊らされていないか。情報の受け手側は自分で正しく判断する力、つまりメディアリテラシーがこれからの時代、さらに必要となってくる。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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