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米現地で取材をした経験から感じたトランプ氏の勝因、そして今後(米大統領選)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

筆者は2016年以降、大統領選をアメリカ現地からレポートしている。これまで激戦州ウィスコンシン州、ラストベルトのミシガン州を含む全米の有権者と対話を重ねてきた。また今夏、共和党大会も取材した。

そのような立場から、トランプ氏を歴史的な勝利に導いた勝因と今後について感じたことをここで記しておきたい。

投開票日の深夜、ハリス氏は支援者前に現れず

ハリス氏は開票日の深夜にワシントンD.C.で勝利演説の予定だったが、突如その集会への参加をキャンセルした。会場には夜遅くまで大勢の支持者が集まっていたが、ハリス陣営は「すべての票が確実に数えられるよう夜通し闘い続ける」と発表し、ハリス氏が姿を見せることはなかった。

白旗を振る準備ができていないということなのだろうし、何より勝利を信じていた彼女自身が大きなショックを受けただろう。しかし支援者は彼女の勝利を最後まで信じ、深夜1時近くまで屋外の会場で待っていたのだ。そんな人々に感謝の気持ちを伝えても良さそうなのにそれがなかった。

人柄と言えばトランプ氏だけが何かと横柄だなんだと言われがちだが、このような引き際にこそ人としての生き方が表れるもの。

選挙戦ではハリス氏が有権者の不安を最後まで払拭できずにいたのも否めない。これまでなるべく公平な目で見るように努めてきた筆者だが、大統領の政策として、バイデン氏のコピーやスピーチ原稿に沿ったものではなく、ハリス氏が目指すものやアメリカが抱える問題解決への具体策が正直なところ最後まで見えづらかった。

開票日の深夜、会場のハワード大学に大勢のハリス支持者が集まっていたが...。
開票日の深夜、会場のハワード大学に大勢のハリス支持者が集まっていたが...。写真:ロイター/アフロ

トランプ氏の歴史的勝利の要因は?

勝利したトランプ氏について、投開票日翌朝のアップルニュースはこのように報じた。

「連続でない任期を務める(返り咲いた)大統領としては1800年代(クリーブランド大統領)以来の再来であり、就任時に最年長(78歳)となる大統領。また有罪評決を受けて国の最高職に選出された初の人物である」

米メディア大統領選の勝因については、エレクトラルカレッジの選挙結果マップを見ればすぐにわかる。

激戦州のノースキャロライナやジョージアでの勝利、さらにはかつて民主党が勝ち続けたブルーウォール(青い壁3州=ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン)での勝利が大きく貢献した。

この選挙結果を見ると興味深いことに気づく。

今年のハリス氏の得票数は(最終集計が出ていない現時点で)6700万票以上だが、8100万票を超えた4年前のバイデン氏と比べて約1400万票も少ない。

トランプ氏は4年前も今回も7000万票を超えて安定している。この選挙結果は、有権者がこれまでのトランプ氏の発言をそれほど気にかけることもなく、それよりむしろ「変化」を望んでいたことを示していると思う。

筆者は2021年6月、バイデン氏とプーチン氏による米露首脳会談を取材するため、ジュネーブを訪れた。当時はコロナ禍で外国人がヨーロッパからアメリカへ入国するにはウェイバー(特例)の書類やコロナ検査結果が必要だった。旅人がいないガランとしたニューヨークのJFK国際空港に到着した筆者は、書類を携えいわゆる別室に送られたのだが、別室内で待ち受けた暇そうな入国審査官は冗談混じりでこう尋ねてきた。

「バイデンはちゃんと起きていたかい?」

後でこのエピソードをニューヨーカーに話したら「そいつは共和党員だね」と言っていたが、今振り返るとこの4年間の政権に対する人々の鬱積した感情をよく表した言葉だったと思う。

今回の大統領選ではリーダーとしての手腕、変化を起こす力、判断力、国民として「自分」も取りこぼされずケアする力。これらを持ち合わせた人物としてどちらがより理想に近いかが問われた。

トランプ氏が経済と移民問題に焦点を絞ったことは、多くの有権者の共感を呼んだことだろう。

CBSニュースは、30歳以下の男性の得票に注目した。この層はハリス氏よりトランプ氏を選んだという。トランプ氏の支持者の多くは労働者階級の白人層とされるが、今回の選挙の特徴でほかの大きな見方としては、4年前と比べてヒスパニック系の男性や黒人男性の票が、トランプ氏に動いたことが大きいようだ。

ヒスパニック系の男性や黒人男性という新たなトランプ支持層を中心に、女性大統領に対して心許ないという思いがあったのも事実だ。「え、アメリカは男女平等の先進国ではないの?」と思う読者もいるかもしれない。確かにそういう面もある。が、必ずしもそうとは言えないのが、わかりやすいところで2024年の現在でさえプロスポーツ界の男女間の報酬差があるのを見ても一目瞭然だし、高級レストランは女性同士より高齢の白人の男性がいる方がサービスが良いし、何よりアメリカの美しき文化、レディファースト自体が男女平等の精神から反している。筆者はレディファーストの文化を否定しているわけではなくむしろ恩恵を受けている立場だが、実際にアメリカに住んでいる身としてそのような現状の「現実」を認めざるを得ないということだ(人種関係なくある。中でもヒスパニック系や中東系などを中心に女性蔑視の文化は根強い)。

トランプ氏の今後:有罪評決はどう影響?日本との関係は?

先述したが、トランプ氏は有罪評決を受けた初の大統領となる。これについては早速CNNがWhat happens to Trump’s criminal and civil cases now that he’s been reelected(トランプ氏が再選の今、彼の刑事事件と民事事件はどうなるのか)と報じている。大統領職の人物が刑務所に入るような事態にはおそらくならないだろうというのが筆者の見立てだが、今後の展開については非常に複雑なので、注視する必要がある。

また日米の今後の関係性についても気になるところ。詳細はその道の専門家の意見を伺いたいとして、現地の目として筆者が唯一言えるとしたら、アメリカ・ファーストを掲げるトランプ氏は「かなり手強い相手だぞ」ということだ。

見ての通り、なかなかの強者のトランプ氏。G7のリーダー間でも、またアメリカ国内であっても手を焼く人物として知られている。友好な関係を築いてきた安倍元首相の亡き後、新たな石破首相がトランプ氏と互角に渡り合えるかどうか...? 石破さんなら大丈夫そうという要素が見えていない筆者にはわからない。やり手のトランプ氏は必ずや「見抜く」と思う。そのリーダーが何を本質的に求めているかを。日本流に和やかに穏便に対応しておけば何とかなる相手、では決してないだろう。

もう一度偉大なアメリカになるために、この国が2024年に選んだ信念を持つ強い大統領。それこそがトランプ氏なのだ。

(一部加筆しました)

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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