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「問題は“銃”ではない」トランプ大統領の声明(概要)と銃社会を救う?レッドフラッグ法とは

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
多発する乱射事件を受けホワイトハウスで緊急会見したトランプ氏(8月5日撮影)(写真:ロイター/アフロ)

全米各地で発砲事件、中でも無差別の乱射事件が多発しているアメリカ。

テキサス州エルパソ市で発生した乱射事件の犯人は、ヒスパニック系移民を非難し、事件前に匿名掲示板サイト「8chan」にレイシズムな投稿をしていた。

一方オハイオ州デイトン市の乱射事件の犯人は、学生時代から殺人に興味を示し、精神疾患を抱え自殺願望があることや、幻聴が聞こえると告げていたことなどが、学友や元彼女からの証言でわかった。

いずれも21歳、24歳の若い男で、精神的な闇を抱えていたとされている。

「なぜこんなことになっても銃がなくならないのか?」というため息が聞こえてくる。

この機会にトランプ大統領が8月5日に発表した、銃に関する考えや意向を日本語に訳してお伝えする。

根幹は“銃”ではない

相次ぐ悲劇を受け、大統領は乱射事件後初めて公に現れ、以下のような声明を発表した。

(声明の概要文ここから)

差別、偏見、白人至上主義を非難

これらのモンスターの悪行に我々は怒りが収まらない。

エルパソの犯人は犯行前、オンラインに人種差別的な声明を出していた。我々は人種差別、(人種や宗教に対する)偏見、白人至上主義を断じて許さない。このような邪悪なイデオロギーは打ち負かされなければならない。アメリカには、憎悪なんていうものの場所はない。

インターネットやSNSは有害

インターネットは、頭の中を掻き回し精神的におかしな行動に繋がるような悪影響のあるものだということに、我々は気づく必要がある。インターネットは、人身売買、ドラッグの売買、そのほかさまざまな凶悪犯罪に利用されている。インターネットやソーシャルメディアの危険性について無視することはできない。有害なインターネットに光を当てて有益なものにし、無差別乱射を阻止しなければならない。事件が発生する前に。

我々は両党連結で問題解決に向け、真剣に取り組んでいかなければいけない。そうすることでアメリカは人々にとって、より安全でより良い場所になるはずだ。まずは、(事件が起こる)予兆や警告に気づき、初期の段階で対処するよう、取り組んでいかなければ。

例えば、フロリダのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件(2018年)の犯人もそうだ。この犯行前にたくさんの(危険信号を意味する)レッドフラッグが立っていた。予兆があったのに、誰も何も行動を起こさなかった。

地区、州、連邦機関と、そしてソーシャルメディアの企業とも連携し、乱射事件が起こる前に(予兆や警告が)検出できるツールが開発されるよう、司法省に指示を出した。

ビデオゲームは暴力を美化

ビデオゲームでよく見られるような、ショッキングでゾッとする暴力の美化(ヒーローと化し、格好よいものとして暴力を助長する風潮)を止めなければならない。暴力を歓迎するような環境に置かれている若者は、いとも簡単に洗脳される。今すぐ、そのような間違った環境を阻止する、もしくは大幅に減らして改善する必要がある。

問題は精神疾患であり、銃ではない

また、メンタルヘルス法(心の健康や精神に関与する法律。雇用法、教育法、住宅法も含まれるとされる)の見直しを行わなければならない。犯罪に及ぶことになるかもしれない精神障害者を識別できるような手立てが必要だ。精神障害者が治療を受けられるようにするだけではなく、必要であれば(本人の意思とは関係なく)止むを得ない囲い込みや監禁状態を与えることも重要だ。

(乱射事件が起こる)根幹は精神疾患や憎悪だ。銃ではない。

銃を押収するレッドフラッグ法とは?

これらの行為は社会を安全にするため、危険を回避するためのものであるから、重大な判断の元に行われなければならない。銃へのアクセス(簡単に銃を手に入れられる方法)を遮断し、アクセスできる状態であるならば、迅速な手続きで銃を押収することも厭わない。

だからこそ、私はレッドフラッグ法*を叫んでいるのだ。重大危機からの保護命令とも呼ばれているものだ。これを広めるために私は司法省に働きかけている。

危険人物と見なした場合、銃を一時的に押収できる法律。1998年コネチカット州で上司4人を殺害した事件を受けて、同州で初めて施行された。以来バージョン化したこの法律を施行しているのはたったの5州だったが、18年のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件後に17州に拡大(主に「青い州」)。

現在、共和党は助成金を提供することで、より多くの州がこの法律を採用し、銃規制が州単体ではなく国全体に広がるよう働きかけているが、この法律により自殺や家族間での銃使用は防げても、無差別乱射のケースでの効力がどれほどのものかが判明しておらず、また法律があっても2012年に起こったサンディフック小学校銃乱射事件のように100%機能していないため、主に「赤い州」からは賛同を得ていない。

大量殺人者は即死刑に値する

また、ヘイトクライム(憎悪犯罪)や大量殺人の犯罪者は死刑に処すべきだ。刑の執行が遅れたり長い年月がかかったりせず、処刑は早急に容赦なく科されなければならない。

さぁ今こそ、分断した両党が力を合わせて立ち上がるときだ。共に団結し、献身と愛を持って勇気を出して取り組もうではないか。我々の未来は我々のコントロール下にある。アメリカは挑戦に向かって立ち上がる。それは我々がいつもそうすることであり、我々がいつも勝利するものである。

(声明の概要文ここまで)

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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