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8千万超だった「バイデン票」の数百万人はどこへ?5度の大統領選の得票数を比較してわかること

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
13日にホワイトハウスで行われた両者の会談。(写真:ロイター/アフロ)

トランプ氏の圧勝と伝えられる2024年のアメリカ大統領選挙。最後まで開票に時間がかかっていた激戦州のアリゾナでも勝利し、激戦7州すべてをトランプ氏が制したことがわかった。

  • ノースキャロライナ
  • ジョージア
  • ペンシルバニア
  • ウィスコンシン
  • ミシガン
  • ネバダ
  • アリゾナ

参照 POLITICO

13日にはバイデン大統領がトランプ次期大統領をホワイトハウスに招き、会談を行なった。

両者は固い握手を交わし、トランプ氏はバイデン氏にスムーズに政権移行が行われることへの謝意を伝えた。また両者は二つの問題についても話したと、ニューヨークポストは独占的に伝えた。その問題とはトランプ氏が大統領就任後に早期に終結させると約束しているウクライナでの戦争、そして中東情勢についてだ。

再集計などで総得票数(Popular vote)がまだ確定しておらずメディアの発表には差異はあるものの、一旦このタイミングで今年の大統領選、そして過去5度の選挙についても振り返るとする。

2024年の結果

トランプ氏(共和党)

選挙人投票 312人...31州

総得票数

12日時点 76,086,691票(50.32%)

13日時点 75,615,239 票(50.2%)...多少の変動の可能性あり

ハリス氏(民主党)

選挙人投票 226人...19州+ワシントンD.C.

総得票数

12日時点72,688,161票(48.07%)

13日時点72,447,740 票(48.1%)....多少の変動の可能性あり

参照 NBCニュース

538人の選挙人のうち、トランプ氏の獲得数は312人、ハリス副大統領は226人という結果だった。選挙人獲得数(Electoral vote)だけでなく、総得票数(Popular vote)でもトランプ氏がハリス氏を上回った。

NY州の結果

トランプ氏

総得票数

13日時点 3,444,575票(43.9%)

ハリス氏

総得票数

13日時点 4,359,693票(55.6%)

参照 NBCニュース

伝統的に民主党の牙城のニューヨーク州では予想通り、ハリス氏が勝利したが、トランプ氏も善戦した。

ニューヨークにはハリス支持者が多く、諍いのもとになるため多くの人は表立って言うことはないが、半数近く(以下)の人がトランプ支持者であることは(隠れトランプ支持者の存在も含め)、筆者は知人を通してなど日々暮らす中で予想していた。

2020年青(民主党)→2024年赤(共和党)は6州

前回(2020年)の大統領選で民主党が勝利し、今回共和党にひっくり返ったのは以下の6州。

  • ジョージア
  • ペンシルバニア
  • ウィスコンシン
  • ミシガン
  • ネバダ
  • アリゾナ

11日の退役軍人の日、バージニア州アーリントン国立墓地の式典に参列したバイデン大統領&ハリス副大統領。
11日の退役軍人の日、バージニア州アーリントン国立墓地の式典に参列したバイデン大統領&ハリス副大統領。写真:ロイター/アフロ

2008〜20年の大統領選の結果を振り返る

2020年(バイデン氏 圧勝)

バイデン氏(民主党)

選挙人投票 306人

総得票数

81,284,666票(51.3%)

トランプ氏(共和党)

選挙人投票 232人

74,224,319票(46.9%)

参照 CNN

バイデン氏の地元で激戦州、ペンシルベニアの選挙人20票が加わったことで270票を超え、バイデン氏の勝利が確定した。通例では現役の大統領は2期目も選ばれることが多い中、トランプ大統領(当時)の敗北は、再選に失敗した大統領としては1992年のジョージ・H・W・ブッシュ氏の敗北以来となった。

アメリカ史上初の女性副大統領にカラマ・ハリス氏が選ばれた。

さらに特筆すべきは、総投票数。

リバタリアン党のジョーゲンセン氏の186万票も含め、この年の得票数は計1億5500万票を超えた。

バイデン氏は8100万票以上という、アメリカ史上もっとも多い総得票数を獲得。この数はこれから記す過去5度の選挙結果と比べても驚異的な多さであることがわかる。

08年に黒人初の大統領としてオバマ氏が勝利、フィーバーした時の約6950万票をさらに上行く多くの人がバイデン氏に投票したことになる。

トランプ氏も7400万票を上回り、当時としては2番目に多い得票数だった。

バイデン氏の投票率があれほど高かったのは陰謀論などさまざまな見方が共和党内であるが、一般的な見方としては、バイデン氏による新政権への期待や反トランプの動きがあったこと、コロナ禍で期日前投票や郵便投票など投票へのアクセスが容易になったことも一因とされている。

2016年(総得票数でヒラリー氏が上回ったが、選挙人投票でトランプ氏が勝利)

トランプ氏(共和党)

選挙人投票 304人

62,984,828票

ヒラリー氏(民主党)

選挙人投票 227人

65,853,514票

参照 Statista, BBC, 政府系の資料など

ヒラリー・クリントン氏は総得票数でトランプ氏を290万票近くも上回った。総得票数が上回りながら選挙人の数で敗北したのは、ジャクソン氏(1824年)、ティルデン氏(1876年)、クリーブランド氏(1888年)、ゴア氏(2000年)に続く史上5人目の大統領候補者となった。

参照 USAトゥデイ

2012年(オバマ氏の2期目 圧勝)

オバマ氏(民主党)

選挙人投票 332人

65,915,795票

ロムニー氏(共和党)

選挙人投票 206人

60,933,504票

参照 政府系の資料

2008年(オバマ氏の1期目 圧勝)

オバマ氏(民主党)

選挙人投票 365人

69,498,516票

マケイン氏(共和党)

選挙人投票 173人

59,948,323票

参照 政府系の資料

前回バイデンに投票した8100万人のうち860万人はどこへ行った?

2020年のバイデン票と比べ、2024年のハリス票は(この記事の執筆時点で)約860万票近くも少ない。この4年間で、どうしてこれほど大きな票差が生まれたのか?前回バイデン氏に投票した人々は一体どこへ行ったのだろうか?

トランプ氏の得票数は2016年と比べて前回20年の選挙では約1100万人も増え、1期目を評価した票があったことがわかる。そして20年も今回も得票数は横ばいだから、支持者の心がこの4年でそれほど揺れていないことがわかる。

一方で民主党はこの4年間で約860万票近くが減少している。

この理由についてはさまざまな見方ができるが、一つの要因として、2020年の選挙でより多くの有権者がバイデン氏に懸けたいと投票所に行った。しかしこの4年の間にバイデン大統領に失望し、ハリス副大統領にもトランプ候補にも希望を見出せない人が多かったということが、一つ言えるのかもしれない。

今月7日付のニューズウィークもWhere Did the Millions of Joe Biden Votes Go?

としてこの話題を取り上げており、以下のように述べている。

「政治評論家や専門家はこれまで民主党を支持していた有権者が今回ハリス氏を拒否した理由を不思議に思っている。20年にバイデン氏を支持した多くの人が、インフレと生活難に幻滅し、その不満をハリス氏にぶつけたのではないかと指摘する人もいる」

有権者が共和党に新たに好感を抱いたというよりは、バイデン大統領の不人気にも要因があるとしている。

「女性が大統領になるという考えをなかなか理解できない人が、我が国には少数だがかなりいる」

「女性の上院議員や知事は問題ないが、女性が国家安全保障や外交問題のリーダーとして対処できるかについて、即答できない人がいるということ」

こちらについては、一つの例として、現にアリゾナ州では大統領選はトランプ氏、上院議員選はルーベン・ガジェゴ氏(民主党)が勝利した。

また女性蔑視に関連して、アメリカに住んでいる筆者は、女性であるハリス氏がトランプ氏と比べて不利なのは予想していた。あからさまな女性蔑視や差別はないものの、表立っては言えないが「大統領は女性より男性」というような昔ながらの伝統的な価値観が残っているのも事実。アメリカは男女平等の先進国だと思われがちだが、実はそうでもないところがあるということだ。詳細は前回の記事で書いているのでそちらも参照してほしい。

米現地で取材をした経験から感じたトランプ氏の勝因、そして今後(米大統領選)

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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