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NY警察が誤射で死亡 ーー 11秒間で7人の警官が42発の銃弾を発砲

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
NYPD警官のイメージ写真(写真:ロイター/アフロ)

ニューヨーク市民は2月12日、信じられないような驚愕の事件(事故?)に打ちひしがれた。

マンハッタンの隣、クイーンズ区リッチモンドヒル地区にある携帯電話会社「Tモバイル」の店舗で午後6時10分ごろ、強盗が入ったと911コール(110番通報)が入った。

事件当時、NYPD(ニューヨーク市警察)の私服警官、ブライアン・シモンセン(Brian Simonsen、42歳)巡査と同僚のマシュー・ゴーマン(Matthew Gorman、34歳)巡査は、たまたま近くをパトロール中だった。

2人は無線機で事件を知り、すぐに現場にかけつけることができた。強盗犯のクリストファー・ランソム(Christopher Ransom、27歳)が店員を人質に取り、奥の部屋に立てこもっていた。

犯人はその部屋から出てきて、2人の巡査やそのあとにかけつけた複数の警察官らに銃をちらつかせた。何人かの警官は店の外に即避難したのだが、巡査らと数人の警官はまだ店内に犯人と一緒に残っている状態だった。

巡査らは犯人に銃を下ろすよう促したが、命令に従わず銃で向かってきたという。

その瞬間、悲劇が起こった。

ガラス壁の店内に向かって、外で待機していた警官も含め、一斉に犯人に向けて発砲をした。

2人の巡査も外に避難しようとし、シモンセン巡査は店外で胸に銃弾を受け、ジャマイカ・ホスピタル・メディカル・センターに搬送されたが、死亡が確認された。同僚のゴーマン巡査はほかの警官2人と店内に残り、足を撃たれたが命に別状はないという。

ランソム容疑者も8発被弾していたが、容態は安定しているという。過去に警官姿で詐欺を働くなどして25回もの逮捕歴がある男だった。

皮肉なことに事件後、現場で回収されたのは模造銃だった。

11秒で起こった悲劇

当時、犯人が銃で歯向かって来た瞬間の現場は大変なカオス状態で、「すべてのことは数秒以内に起こってしまった」と地元メディアは報じた。

また事件翌日のニューヨークタイムズ紙の報道によると、「11秒の間に7人の警官によって42発の銃弾が飛んだ」という。

(7人には2人の巡査も含んでおり、シモンセン巡査が2発、ゴーマン巡査が11発、ほか5人の警官が29発とみられている)

シモンセン巡査らは私服だったため、防弾チョッキを着用していなかったのではないかとみられている。

緊迫した状態で正しい判断はできない

警察でも?

人は混乱した精神状態では、なかなか正しい判断ができない。

銃社会のアメリカでは、生きるか死ぬか、殺すか殺されるかの瀬戸際の状態だと、訓練を受けた警察官であろうと精神が混乱し、「闇雲に撃ちまくる」という判断になってしまうのだろうか。

まだ捜査段階だが、さまざまな憶測も飛んでいる。一つは、私服の巡査2人が混乱時、犯人に間違えられて誤射された可能性も否定できない。

NYPDのジェームズ・オネイル本部長(James P. O'Neill)は記者会見で、誤射については遺憾と表明しながらも、「シモンセン巡査の殉職はあくまでもランソム容疑者の行いが招いたことである」と強調した。

「警官による何十発もの発砲」と聞いて、今回のように誤って撃たれたケースではないが、同じクイーンズ区で2006年11月、自身の結婚前夜に開いたバチェラーパーティー中に、丸腰のショーン・ベル(Sean Bell)さんら3人グループが3人の警官に囲まれ、50発も被弾し亡くなったことを思い出した。このときの警察官3人は起訴されたが、後に無罪を言い渡されている。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、著名ミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をニューヨークに移す。出版社のシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材し、日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。

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