バイデン政権下で殺到した移民は1000万人規模!駆け込みも。新政権は違法流入を食い止められるのか
「今は大変な状況だ。すべてを以前の状態に戻すためにまず国境を閉じなければならない」
大統領選での勝利が確実となった投開票日の深夜に行われた勝利宣言の冒頭で、トランプ氏はアメリカが抱える移民問題についてこう言及した。あくまでも移民は“合法的に”入国しなければならないと改めて強調した。
政権が変わる前の駆け込み
トランプ氏の当選が確実になった後、移民による「駆け込み」の動きが見られる一方で、予定を変更する動きも見られる。
米ロイターの報道では、グアテマラとの国境に近いメキシコ南部の都市、タパチュラを大統領選の投開票日に出発した移民キャラバンは3000人だったが、2日後の7日の時点で1600人に減少したという。
新天地アメリカでの希望が見出せなくなったのだろうか。100人強がタパチュラに戻るための助けを現地当局に求めたという。そして残り1300人がどこへ向かったかは不明だ。
トランプ政権は違法移民の流入を食い止められるか?
トランプ氏は前政権時代に、数十万規模とも言われた移民をメキシコ国境沿いの難民キャンプに取り残す政策を実施するなど、アメリカの移民政策を一変させた。
次期大統領として新たに提案している政策の中には、不法移民の子がアメリカで誕生した場合に市民権の授与を廃止する政策案が盛り込まれている。
出生地主義のアメリカでは、国内で生まれた子は自動的にアメリカ国籍が取得できるから、トランプ氏が盛り込んでいるそのような一部の政策はアメリカを根本から変えるもので、実施は現実的に難しいのではないかと筆者は見ている。
また、前述の記事などでも触れられている通り、トランプ政権下になろうと、移民は今後もアメリカ南部の国境に流入し続けるだろうと人権活動家らは予想している。
「トランプの勝利は数百万人もの移民、そしてこれからアメリカにやって来る予定の人々の間で不安を煽っている」とABCニュースは報じている。メキシコとの国境を目指す計画を練り直し、越境が難しくなる分、密輸業者に頼ろうとする移民が増えるだけだと言う専門家もおり、トランプ氏が考えているような移民の流入の阻止はそれほど期待できないと見る向きもある。
移民問題の現実:バイデン政権下で殺到した移民は1000万人!
バイデン政権が発足した2021年1月以降、アメリカで書類のない(緊急救済措置による非合法な)移民の数が劇的に急増したのは周知の通り。
そんな移民問題が深刻化する中、筆者は移民の受け入れがうまくいっているユタ州から、受け入れがうまくいっていないニューヨーク州までを取材し、アメリカが抱えるこの問題を注視してきた。
アメリカに流入した移民の数は現時点で一体どのくらいになっているのか?
9月29日付のBBCによると、バイデン政権下でアメリカに押し寄せた移民の数は1000万人以上と見られ、うちメキシコとの国境を越えてやって来た数は800万人だという。
このメキシコとの国境対策を任されてきた指揮官は、何よりハリス副大統領だ。
数はこれより少ないが、バイデン政権前もメキシコとの国境に押し寄せた移民の数は一定数いた。トランプ政権下で押し寄せた数は240万人だった(&2020年はコロナ禍のパンデミックの影響で劇的に減った)。
入国が却下されるなどしたケースもあり、結局のところ、米国国土安全保障省の発表では、2022年1月の時点でアメリカに居住している「不法移民」の数は1100万人と推定されている。うち約5分の1は2010年以降の数だという。
ニューヨークに到着した数は21万人以上
22年春以降、多くの移民(不法移民含む)がテキサスからバスや航空機で全米各地に移送された。
筆者が住むニューヨークはというと、22年春からレポートした23年9月までの約1年半で、市が保護した移民は10万1200人を超えていた。その後も数は増え続け、ニューヨークタイムズによると、21万人以上(今年8月時点)に膨らんでいるという。
筆者のその昨年9月のレポートにもある通り、ニューヨークに到着した移民の多くはベネズエラ人だった。依然多くの移民がメキシコとの国境に押し寄せる中、ベネズエラ出身者は現在減少している。そのかわり、今年9月時点で米国境警備隊に逮捕された人の半数はメキシコ出身者だったと、先述のABCニュースは伝えている。
メキシコとの国境における移民の数について、前回のトランプ政権下と現在のバイデン政権下で比較した表が、先述のBBCにわかりやすく掲載されている。興味があればそちらも参照してほしい。
これを見ても、トランプ政権になったからと言ってメキシコとの国境を目指す人がいなくなるわけではないが、劇的に少なくなることは予想できる。大統領選の投開票後にトランプ氏の勝利がわかって、移民キャラバンの数が減少したというのが何よりの証拠であろう。
(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止