阪神タイガースから独立L(日本海・石川MS)へ “派遣監督”・岡﨑太一氏の初めての指導者シーズン
■指導者デビュー
人生の新たな扉を開いた1年だった。
野球を始めた少年時代から社会人野球を経て、16年間のプロ生活を送ったが、ずっと自らが体を動かすプレーヤ―だった。それが、プロスカウトを3年間経験した後、今年は初めて指導する側になった。
阪神タイガースの岡﨑太一氏は、独立リーグ(日本海リーグ)・石川ミリオンスターズで“派遣監督”として過ごした今季を「あっという間に過ぎ去ったシーズンだった」と振り返る。
「まずは感謝。タイガースからこの話をいただけたこと、そして指導経験のない人間を端保(聡)社長が受け入れてくださったことに感謝ですね。勉強をさせてもらおうと思って飛び込みました」。
1年前を思い起こしながら、そう話した。
「勉強」とは口にしたが、「もちろん、それだけではない。ミリオンスターズが求めているのは優勝、それと選手をNPBに送り出すことというのはわかっていた」と、どちらも実現することを自らに課して臨んだ今シーズンだった。
■勉強不足、指導力不足を痛感した
結果的に、「リーグ優勝」と「NPB輩出」はどちらも達成した。
「正直なところで言うと、優勝したその日だけは達成感というか、すごく嬉しかったですね。『今日1日だけは、もうほんまに喜ぼう』と思って、思いっきり喜ばせてもらいましたね」。
優勝のウィニングボールを掲げながら、ナインの手で宙を舞った。いたずら好きの愛弟子たちからは氷水を浴びせられ、それも喜んで享受した。王手をかけてから3試合足踏みしただけに、その喜びはひとしおだった。
しかしそれも、その日だけのことだった。
すぐに湧いてきたのは、悔恨ばかりだ。
「練習生のままシーズンを終えてしまった子たちとか、もっといろんな選手にチャンスを与えてあげることができたんじゃないかとか、継投にしてももっと早く代えることができたんじゃないかとか。もう最後は課題ばっかりが残ったっていう印象ですね。そんな甘い世界じゃないなっていうのは、本当に感じました」。
だがそれは選手個々を、チームを、よりよくしたいという思いがあるからこそだろう。
「自分の勉強不足、指導力不足というのを本当に感じた年だった。これを、これからにどうつなげていくかが大事だと思っています」。
自身が足りなかったと思えるところを埋めるべく、研鑽を重ねていくつもりだ。
■独立リーグにおける投手陣のやりくりの難しさ
開幕した5月こそ2.63だったチーム防御率は、その後は悪化。9月には大量失点する試合が続き、月間のそれは7.55をマーク。シーズン通算では4.57で終了した。
「ピッチャーが春先は状態がよくて夏場くらいから崩れて…というのは、NPBでもよくある話なんですけど、NPBだったらファームで調整していた活きのいいピッチャーが終盤に出てきたりというのがあります。でも独立の場合はやっぱり、軸となるピッチャーに最初から最後まで頼るしかないという難しさはありましたね」。
所属人数も限られる中、投手陣のやりくりは容易ではなかった。
ゆえに、ときには“負け試合”を作る必要があった。序盤に大量失点して壊れたゲームに、勝ちパターンの投手を無駄につぎ込むわけにはいかない。しかし逆に、そういうときこそ優先順位の低い投手にとってはチャンスだ。
「そこでいいパフォーマンスやいい結果が出たら、また次はもう少しいい場面でっていうことは考えていましたね」。
選手各々を活かすことを常に思案していた。
■センターラインと主要打順の固定
野手に関しては、「できるだけセンターラインと、打順の1番とクリーンアップは固定したい」という希望があった。
「自分が現役でやっているとき、ショートに鳥谷(敬)さんがいたり、センターが赤星(憲広)さんであったりとか、固定されていたほうが自分は守っていて安心感があったので。まぁ、自分は固定ではなくて、たまにもらったチャンスを生かす立場だったんですけど」。
自身の経験からも、二遊間に倉知由幸選手と川﨑俊哲選手、センターに阿部大樹選手がいてくれたことは安心感があったと振り返る。
打順も1番の阿部選手、3番・吉田龍生選手、4番・上田大誠選手、そして終盤には5番・川﨑選手も固定された。
自身の希望だけは伝え、オーダーなどは桒原凌コーチに全面的に任せていたという。「僕は自分ひとりでできることは限られていると思っている人間なので」と、物事を進めるときに独断はせず、片田敬太郎コーチも含めてコーチ陣に必ず意見を聞いた。
■川﨑俊哲がタイガースから育成4位指名
そんな中、愛弟子のドラフト指名は嬉しかった。川﨑選手が自身の所属球団であるタイガースに指名されたのだ。育成4位指名である。(関連記事⇒「能登のため、輪島のために―。阪神の育成D4位・川﨑俊哲(石川ミリオンスターズ)は故郷のために光り輝く」)
「開幕前、全選手と個人面談をしたとき、川﨑からは『自分はこういうところが苦手で』という話を聞いていたので、じゃあそれをどうしていこうかというところから始まった。僕もNPBの左バッターの映像を送ったり、考え方の部分で『NPBの選手はこうしているよ』みたいなことを言ったら、ちゃんとそれを体現してくれたので、それがいい成績につながったのかなと思いますね」。
捕手目線で相手からどう見られているかなども伝えると、うまく逆手に取れるようにもなり、それが打撃に生きた。そして、5年目にしての悲願のドラフト指名にたどり着いたのだ。
ただ当然のことながら、これで満足はしていない。
「川﨑が指名されたことはチームとしても、僕個人としても本当に嬉しかったんですけど、育成指名ですしね。やはり支配下で、上位指名されるような選手を育てるっていうのが、僕の使命だと思っていますから。そういう選手をひとりでも多く育てられるようにやっていきたいですね」。
スカウトの目に留まるような魅力ある選手を育て上げることを、あらためて誓った。
■選手とのコミュニケーションを重視
選手全員としっかりコミュニケーションをとることは、就任したときから自分の決めごとにしていた。現場で言葉を交わすだけでなく、試合後には気づいたことなどをLINEで送り、ときにはともに食事をしながら、ひとりひとりと向き合ってきた。決して一方通行にならないよう、相互のやりとりを繰り返した。
シーズン終了後にも可能な範囲で金沢に足を運び、来季もプレーする選手と会話を重ねた。年明けにもまた、個人面談の時間を設ける予定だ。これまでにもしてきたが、「より深い話ができれば」と考えている。
また、新戦力への期待も大きい。先日、新入団選手が発表されたが、「今年は自分も編成っていうところに加わらせてもらったんで」と、獲得前の段階で個々の選手のプレーを見ているということもあり、より楽しみも膨らんでいる。
「穴水高校の長身ピッチャーがいるんですけど、もう見た目、才木(浩人)みたいな感じなんですよ。素材型なんですけど、その子がどれだけ化けてくれるかなぁ」。
興奮ぎみな口調から、ワクワク感が伝わる。「即戦力と将来性、両方の選手が獲れたので、本当に楽しみですね」と個性豊かなニューフェイスたちへの期待に、思わず頬が緩む。新入団選手ともこれからコミュニケーションを深めていく。
■ライバルは自分、超えねばならないのは昨日の自分
新人選手たちに向かって口にした言葉がある。「一番大事なのは自分だよって。前の日の自分よりも、どれだけ成長できているか。ライバルは常に自分。自分のやっていることを一番見ているのも自分なので」と。
これは、既存の選手にもずっと言ってきたことだ。
「『あいつはこんなにチャンスをもらっている』とか『あいつはこんなプレーができる』とか、周りと比較してもしかたないってこと。僕も若いときは正直、周りと比較してしまう自分がいたんですけど、そういうの意味がないなっていうのに気づいたタイミングがあって、それからは自分のやるべきことに集中できるようになりました」。
かつての恩師である矢野燿大監督や、さまざまな指導者から教わったことでもある。それを、自分の教え子たちには「1日でも早く気づいたほうがいいから」と説くようにしている。
■チームのレベルアップと野球振興
今年の公式戦では21度、勝つ喜びを味わった(17敗2分)。
「今までは自分が(試合に)出て、自分がピッチャーをリードして勝つ、打席で打って勝つ、自分自身がど真ん中でプレーをして勝つのがすごく嬉しかった。それが、一歩引いて采配というか、選手を動かすとか継投するとか、そういうのでチームを勝たせるっていうのは、同じ勝つなんですけど全然違っていて…。喜びは一緒だけど違っていて、刺激になりました」。
プレーヤーとして勝つことと同じくらい、監督として勝つことが嬉しいものだと感じたという。
それだけに、負けた悔しさも同じくらい大きい。リーグ優勝はしたものの、グランドチャンピオンシップ(独立リーグ日本一決定戦)では初戦で敗退した。(関連記事⇒「岡﨑太一監督、無念…。率いる石川ミリオンスターズは「グランドチャンピオンシップ」初戦に敗れる」)
「短期決戦の難しさを感じたし、他のリーグのレベルの高さも見ることができました。もちろん現状維持をするつもりはないですけど、このままじゃあかんなっていうのは、もう思いっきり思い知らされましたね」。
レベルアップしてやり返すことは必至で、「こんな練習したいなとか、あんな挑戦したいなとか、ありすぎて…」と、やりたいことは山ほどある。
そして、来年ももちろんタイガースとは手を組んで、「僕も微力ながら協力してやっていけるように」と球団の方向性にも則って、石川県での野球振興に精力的に取り組んでいく。
2年目を迎える“派遣監督”の、さらなる挑戦に要注目だ。
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(本文中の写真の撮影は筆者)