望まぬ妊娠に思い悩む10代のヒロインを演じた山﨑翠佳。自分がもしような状況に置かれたら？
映画「カフネ」は、杵村春希監督が大阪芸術大学在学中に手掛けた自身初の長編作品になる。
企画は、コロナ禍で若年層の望まない妊娠が増加したというニュースに杵村監督が触れたことをきっかけにスタート。
同級生の彼氏、遠山渚との子どもを身ごもった高校三年生の瀬川澪の複雑に揺れ動く心模様と、彼女の周囲にいる人々の心境の変化を真摯な眼差しで描き出す。
望まない妊娠を主題にした映画となると、一昔前であればポジティブな結末は望めないような形で語られることが多かった気がする。
その中で、本作はセンシティブなテーマを必要以上にセンシティブとしないとでもいおうか。若さゆえの単純な過ちの物語にもしなければ、10代の妊娠を変に強調した物語にもしていない。
ヒロインのひとつの覚悟が家族を、周囲を、社会を変えていくかもしれない。誰かが犠牲になることない選択の可能性が実はあるのではないか？そんな未来へのヴィジョンを抱かせる一作となっている。
自らの道を切り拓く逞しさから、予期せぬ妊娠への戸惑いや苦悩といった弱さまでの表現が求められた主人公の澪を演じたのは、これからの飛躍が大いに期待される山﨑翠佳（やまざき・すいか）。
戸惑い、もがき苦しみ、なにかにすがりたい気持ちになりながらも最後は自らの信じた道を歩もうとする彼女を演じることで、なにを感じ、どのように心が動いたのか？
彼女に訊く。全十回／第四回
自分がもし同じような状況になったら、最初はどうしていいかわからない
前回（第三回はこちら）は、澪役にどのように取り組んでいったのかを語ってくれた山﨑。
では、ここからは澪の置かれた立場や状況についての話を。
まず、澪は10代、しかも高校生でこれからの進路を決めようとしている時期に妊娠が判明する。
このことはどのように受けとめただろうか？
「自分がもし同じような状況になったら、やはり最初はどうしていいかわからない状態になってしまうと思います。
澪と同じで、わたしもすぐには周囲に相談できない。しばらくは、自分の中だけで抱え込んでしまうと思います。
澪を実際に演じながら、妊娠がわかってしばらくの間に何を感じていたかというと、恐れでした。
誰にも相談できないことも怖いし、病院に行くことも怖い。
それほど大きな町ではないですから、なにかあればほとんどの人が知ってしまうことになる。もし妊娠のことが町中に知られてしまったらという恐れもある。
八方塞がりの状態に追い込まれた恐怖をひしひしと感じていました」
幸せは誰かが決めることではない。自分が幸せかどうかは自分が決める
その後、澪は予期せぬ妊娠に戸惑いながらも、そこから前を向き、誰でもない自分の選択によって自らのこれからの道筋を見出そうとしていく。
この彼女の生き方を、どのように受けとめただろうか？
「素直に、強いと思いました。
オーディションで澪を演じたいと思った時点から、彼女のその部分に惹かれていました。
ただ、実際に演じてみると、決断した後の彼女からはその想像をはるかに超えた強さや揺らぎない決意への清々しさを感じました。
決断した後と前では全く違い、決めた後の澪の言葉には『澪はすごい』と思うことばかりで圧倒されました。
彼女は、幸せは誰かが決めることではない。自分が幸せかどうかは自分が決める。そうはっきりと言える子です。
自分のことは自分で選択して決める。誰にも選択権を委ねない。
自ら選択した道を進んでいこうとする。
その彼女の強さや気高さを、わたしはまだ持ち合わせていないと思います。
でも、演じているときは、澪がわたしに力を与えてくれて、その領域までひっぱりあげてくれたんです。
澪に助けられて、演じ切ることができた。そんな感覚がありました。
わたしも澪のように強くなりたいですが、まだまだ及ばないです」
（※第五回に続く）
「カフネ」
監督：杵村春希
出演：山崎翠佳、太志、松本いさな、木下隼輔、澤真希、渡辺綾子、
桜一花、入江崇史
公式サイト https://cafuneofficial.studio.site/
全国順次公開中
筆者撮影以外の写真はすべて（C）ハルキフィルム
