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生徒が学校の車で死亡事故、無施錠で鍵も車内に放置か 学校側の法的責任は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 深夜に埼玉県の高校のグラウンドで生徒が車を運転して横転させ、助手席の生徒を死亡させた事故では、学校側による車や鍵の管理体制の不備も問題となっている。無施錠のまま置きっぱなしにし、鍵も車内に放置していたという。ナンバープレートもなかった。事故を起こした生徒が第一に刑事・民事の法的責任を問われるのは当然としても、学校側の法的責任も問題となる事案だ。

無車検・無保険だったか

 学校側の会見によると、サッカー部の監督やコーチがグラウンド整備の際に使用していた車で、普段から無施錠であり、鍵は助手席の収納ボックスに入れていたものの、事故当日はコーチが鍵を運転席前のダッシュボードに置いたのが最後だった。生徒数が多くコーチらの間で鍵の受け渡しができないので、そうした管理になっていたという。

 ただ、ナンバープレートがなかったことからすると、車は車検切れだったとみられる。このグラウンドが普段から一般に開放され、保護者や業者などを含めて人や車も自由に出入りできていたのであれば、法的には「道路」にあたる。コーチらが普段からグラウンド整備の際にこの車を運転していたとなると、道路運送車両法に違反する無車検運行になる。車検切れということは自賠責保険にも加入していなかったとみられるから、自動車損害賠償保障法違反にもなる。

 さらには、「道路」にあたるか否かを問わず、監督やコーチら学校側関係者が刑法の業務上過失致死罪に問われる可能性もある。学校運営の中で使用していた車の鍵の管理体制に不備があった上、生徒が車を運転できる状態を放置しており、その結果、死亡事故が発生したとも考えられるからだ。警察もこれを視野に入れた捜査を進めている。学校側の過失の有無や事故の予見可能性、生徒の死亡との因果関係が捜査の焦点だ。

民事の損害賠償責任も

 そうした場合、民事の損害賠償責任も問題となる。盗難車による交通事故ですら、民事裁判で車の持ち主の管理責任が問われるほどだ。無施錠や鍵の付けっぱなし、車内への鍵の置きっぱなし、エンジンのかけっぱなし、持ち主以外の者が簡単に近づける場所での長時間の駐車といったケースが目立つ。

 最高裁の判例も2件ある。(1)無施錠で鍵を付けっぱなしにしていたり、(2)運転席上の日よけに挟んだままにしていたりした事案であり、いずれも持ち主は窃盗犯が起こした交通事故の賠償責任を負わないとされた。

 しかし、(1)は第三者の自由な立ち入りが封じられている駐車場に停めており、事故との因果関係がないとされたケースだし、(2)も持ち主である会社の内規で鍵の保管方法をきちんと定めていた上、会社側が従業員によるルール違反を把握しておらず、管理体制に過失がないとされたケースだ。(2)の判決に関与した裁判官の補足意見を踏まえると、次のような判断基準となるだろう。

個別の事情を踏まえつつ、駐車場所やエンジンキーの置き場所を含めた駐車方法などの諸事情を考慮した上で、第三者による運転を容認していたといわれても仕方がないと評価できるか否かなど、事故の発生について予見可能性があったといえるような場合か否かを総合的に検討する。

生徒の運転が常態化していたか

 今回は寮生活を送る生徒が深夜に同じ寮生ら生徒3人と遊び半分で交代しながら車を運転して起こした事故だったようだが、生徒らは過去にもグラウンドで運転したことがあると供述しているという。学校側の会見によると、生徒の運転が常態化していたかについては監督やコーチは否定しているものの、まだ確認がとれていないとの話だ。

 今回の生徒らはサッカー部ではなかったが、それこそ学校側が普段からグラウンド整備の際を含めて生徒による運転を黙認していた実態があれば、学校側の法的責任を問う方向に大きく傾くだろう。

 全国の高校や中学校などの中にも、使用している車の管理体制が甘い学校があるのではないか。車や鍵の管理を徹底するなど、早急に対策をとる必要がある。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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