阪神タイガースに籍を置く岡﨑太一監督、石川ミリオンスターズの指揮官としての初采配
■日本海リーグの今季開幕戦
勝ちたかった。勝ちきりたかった―。
「選手たちは最後まであきらめずに、勝ってやるんだという気持ちがすごく出た試合だったので、なんとか勝たせてやりたかったんですけど、僕の力不足です」。
石川ミリオンスターズ・岡﨑太一監督は、初陣を勝利で飾れなかった悔しさに唇を噛んだ。
昨年「世界一のミニマムリーグ」としてスタートした日本海リーグ(NLB)。所属するのは今年も同じくミリオンスターズと富山GRNサンダーバーズだ。
5月5日、金沢市民野球場で行われた今季開幕戦は、監督に初就任した岡﨑監督自身にとっても、初めて指揮を執る試合だった。
結果は4-5と惜敗。2点を追う最終回、1点差まで詰め寄ったものの、あと一歩及ばなかった。
■5月5日 石川ミリオンスターズvs富山GRNサンダーバーズ(金沢市民野球場)
◆ランニングスコア
富山 002 100 101=5(H10、E0)
石川 012 000 001=4(H10、E0)
勝…道崎
S…日渡
負…村上
◆バッテリー
富山…立野、道崎、渡邊、瀧川、日渡―東田
石川…香水、村上、村井、上田楽―森本
◆試合経過
ミリオンスターズのホームゲームとなった開幕戦。香水春貴、立野和明の両先発投手が上々の立ち上がりを見せる中、先制したのはミリオンスターズだった。二回裏、チーム初安打の宮澤和希から神宮朋哉、倉知由幸の3連打で1点。
しかし三回表、得点が入って意識したのか香水に力みが見られ、2失点と逆転される。だがその裏、ミリオンスターズは上田大誠、神宮選手のタイムリーで再逆転に成功。
ところがまた次の回、すぐに1点を献上して同点とされ、そのままゲームは後半戦へ。七回と九回にそれぞれ1失点し、2点ビハインドで最終回を迎えたミリオンスターズは、1死からの代打攻勢で意地を見せた。
岡村柚貴がレフト線への二塁打で出塁すると、続く森路真が中越え三塁打で1点を返す。押せ押せの展開にもち込んだが後続が倒れ、4-5で初戦を落とした。
■岡﨑太一監督の総括
試合後の岡﨑監督は「選手たちはやるべきことをやってくれた」と奮闘したナインの姿勢に目を細めた。
「自分たちが今までやってきた野球をしようと臨みました。ピッチャーであればバッターに積極的に向かっていく姿勢とか、バッターだったら初球からどんどんスイングしていく、塁に出れば次の塁を積極的に狙うということをずっと言ってきた。(走塁の意識は)チーム内でも浸透しているので、どんどん走ってくれましたし、ピッチャーも打たれはしましたけど、バッターに向かっていく姿というのは僕にはいいふうに映りました」。
チーム結成からわずか3ヶ月ではあるが、自身が標榜している野球はナインにしっかり伝わっているとうなずく。
その中で、「オープン戦から、点を取ってもらったあとのイニングというのは課題だった。ゼロに抑えることで流れをもってこられる部分もあるので、そういう意味では落ち着かない試合にしてしまったのはバッテリーとしても反省」とポイントを挙げ、次戦への糧とするよう促した。
代打でともにクローザーから長打を放った岡村、路真の両選手には「なかなか1打席でああやって結果を出すっていうのは、僕自身もすごく難しいことだとわかっているので、その中で結果を出してくれたのは、彼らの次の試合がまたすごく楽しみですね」と自身の経験も踏まえながら、殊勲選手たちに拍手を贈った。
あと1本が届かない試合だったが、「敗因に関しては僕の采配がすべてです。僕自身が動かしたところが失点につながってしまったので、僕の采配ミスです」と黒星の責任を引き受ける。
「やるしかない、出すしかないんで。選手も何かを感じていると思うんですよ、やっぱり。我々は結果で見られますし、そこで1本出るか出ないかでチームは勝ったり負けたりする。悔しい思いは彼らが一番感じている。次からの彼らの練習であったり、試合での姿っていうのを僕は楽しみにしています」と選手たちには、この日の雪辱を試合で果たしてくれることを願っていた。
■人生初の監督業
岡﨑監督にとっては、初めての監督業だ。いや、そもそもコーチ経験もなく、指導者という立場に就くのも現役を引退して初めてなのだ。
智辯学園高校から社会人野球の松下電器(現パナソニック)に進むと、強肩をウリに2004年ドラフトの自由獲得枠でタイガースに指名された。16年という長い現役生活を終えてタテジマを脱いだのが2020年のシーズン終了後。その後はタイガースでプロスカウトとして、トレード成立などに手腕を発揮し、チームに尽力してきた。
今年はタイガースに籍を置いたまま、ミリオンスターズに出向して監督を務めることになった。(詳細記事⇒阪神のプロスカウト・岡崎太一氏が石川ミリオンスターズの監督に就任!“日本一のエッセンス”を注入するぞ)
タイガースにとっては指導者育成の現場をもらえ、ミリオンスターズにとってはNPB経験者のスキルを伝授してもらえる。双方ウィンウィンのこの施策は、両球団の良好な関係性から実現したものだ。
初の監督業について、岡﨑監督はどうように取り組んでいるのだろうか
「やることは山ほどありますよ。グラウンドではノックも打つし、バッティングピッチャーもやる」。
指導や試合中の指揮だけではないのだ。裏方さんのいない独立リーグでは、指導者がその役割を果たす。もちろん自らの体を使って技術の手本も示す。そのため、自身もしっかり鍛錬し、体を作っている。
また、自らスポンサー企業を探し、頭も下げる。でき得ることはすべてやる覚悟で臨んでいる。
■今年の石川ミリオンスターズ
キャンプ、オープン戦と技術練習や実戦経験を積むとともに、選手とのコミュニケーションも図ってきた。自分なりのチーム編成を考え、ゲームプランも練ってきいる。
まず投手編成については「イメージは後ろからですね。クローザー、八回七回、六回五回…で、先発。後ろから考えますね」と構築してきたという。
現時点、クローザーは上田楽投手、その前のセットアッパーの右が村井拓海投手、左が村上史晃投手と「今日投げたピッチャーが勝ちパターンのピッチャー」だと明かす。
「1週間に1試合ないし2試合、あっても3試合というリーグなので、勝ちパターンのピッチャーをつぎ込めるというのはありますね。6連戦となるとそこは難しいですけど、(NLBでは)つぎ込みやすい」。
自身の専門である捕手部門には3人の捕手を擁しており、この日のマスクだった森本耕志郎選手ほか、寺前湧真選手、岡村選手には切磋琢磨しながら成長することを願っている。捕手としてこれまで培ってきたスキル、知識を惜しみなく彼らに提供するつもりだ。
打撃陣は昨年も活躍した宮澤選手、川﨑俊哲選手、阿部大樹選手、杉崎蒼太選手、吉田龍生選手、倉知選手らが今年も核となり、新たに加入した大誠選手、神宮選手らがパンチを加える。
「延長がなく九回で終わりなので、今日のように思いきれるところはありますね」と、スタメン以外の代打の陣容にも自信を覗かせる。
さらに足にも期待する。ベンチでは常にストップウォッチを手にし、相手ピッチャーのクイック、キャッチャーのスローイングを計っている。「オープン戦から相手の全投手のクイック、キャッチャーのスローイングは全部把握しているので、タイム的に勝負できるときはサインを出す」と、この試合でも3つの盗塁を成功させた。
キャッチャーとしての目、スカウトとしての目は相手の癖を見抜くことも得意である。
■被災地に勝利を届ける
「勉強の毎日です」と笑う岡﨑監督。コーチも経験なく、いきなりの監督業だ。苦労も多いだろう。
「本当にいい経験をさせていただいています。でもいい経験とは言っていられない。やっぱり勝たないといけない。勉強しているというのを言い訳にはしたくない。僕がNPBで学んできたこと、キャッチャー目線で試合を見てきたことを、なんとか勝ちにつなげられるようにやっていきます」。
きっぱりと言いきる。
そして、今年1月1日に起きた能登半島地震の被災地に思いを馳せる。
「勝つことで、被災された方であったり、まだまだ大変な思いをされている方が前向きに頑張ろうと、そういう気持ちになってもらえると思うので、我々もそうやって元気にプレーしている姿、勝ち続ける姿を見せていくということをチームでやっていきます」。
この日の最後まであきらめない姿もきっと心に響いている。岡﨑監督はそう信じ、「次は勝って喜んでもらえるようにやっていきます」と、次戦11日のサンダーバーズ戦(ボールパーク高岡)に向けて、気合いをみなぎらせていた。
■選手コメント集
◆森本耕志郎(もりもと こうしろう)
「いい形で先制したのに、点を取ったあとの回は大事に行かなきゃいけない場面で、すぐ逆転されてしまったのは反省点。
香水さんはブルペンでもマウンドでもまっすぐが走っていたので、カットボールやフォークを中心に、内外を使い分けしていこうと思っていました。
前の試合でも2巡目以降に打たれていたので、配球をちょっとずつ変えるように工夫したところはよかったんですけど、同じバッターにぽんぽんと打たれたところもあったので、そこも反省です。
よかったところ、悪かったところ、どっちも出た試合なので、よかったところは継続してさらに上のレベルを目指して、悪かったところは一つでも課題を減らせるようにして、次は勝てるように頑張りたいです」。
◆岡村柚貴(おかむら ゆずき)
「まっすぐで押してくるピッチャーやったので、(ボールの)下を打たないように上を叩こうと、そういう気持ちでいきました。
打ったのはまっすぐ。低めいっぱいの、ちょっと内寄りやったと思います。手応えは完璧ではなかったですけど、いいところに転がってくれてラッキーやったかなと思います。
(代打の準備は)いつでもいけるように、イニング間に体を作ったりしています。
これからもやることは変わらないし、今日もいい野球はできていたと思うので、あとは細かいところで1点2点減らしていければ、1点差で負けるんじゃなくて勝てる試合ができると思うので、そこを次の試合に向けてチームみんなでやっていきます」。
◆森路真(もり ろまん)
「疲れたぁ。暑かったです(笑)。
打ったのは1ボールからで、真ん中高めくらいのまっすぐだったと思います。
いつもまっすぐに振り遅れないようにという意識でやっているので。まっすぐ待ちで変化球がきたら、そこから対応していくっていう感じです。
(日渡柊太投手は)今まで対戦したピッチャーの中では一番球が速いピッチャーですが、今日は打ててよかったです。速いピッチャーこそ力を抜いて、速いからと力むんじゃなくて、ゆったりと合わせていくっていうのが大事だと思っていて、今日はそれができましたね。
打った瞬間、今日は風がライトからレフトだったので、もしかしたら捕られるかもと思ったんですけど、越えてくれて、あとは思いきり無我夢中で走りました。足にも自信があるので。
あ、でも今まで自信があったけど、ミリオンスターズに来て、僕なんか全然速いほうじゃないなって、速い選手がいっぱいいてビックリしました。ちょっと自信を失いました(笑)。でも、長打と足がウリです。
最近、代打が多いんですけど、僕が考える代打の極意は、とくに1打席だからと意識はしないようにして、やるべき準備とか意識すべきことをして臨むということです。
ネクストでしっかりフルスイングできることを確認したり、ピッチャーのボールに合わせてタイミングをとったりと準備をして、あとは体の動作の意識、それができれば結果はついてくると思っています。
自分ができることを100%出すことだけに集中してやっていきたいです」。
(表記のない写真の撮影は筆者)
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