阪神タイガースからのハケン(派遣)監督・岡﨑太一氏が、石川ミリオンスターズのハケン(覇権)奪取を誓う
■新米監督は選手がかわいくてしかたがない
「いやもう、選手がかわいくてねぇ…」。
そう言って、新人監督は目尻を下げる。
独立リーグの日本海リーグは創設2年目だが、所属する石川ミリオンスターズと富山GRNサンダーバーズはともに18年目の独立球界では老舗球団だ。
そのミリオンスターズで今季から指揮を執るのは、阪神タイガースで16年、キャッチャーとして活躍した岡﨑太一氏だ。しかもタイガースに籍を置いての“派遣”というスタイルである。双方にとってメリットしかない施策での就任となった。(詳細記事⇒阪神のプロスカウト・岡崎太一氏が石川ミリオンスターズの監督に就任!“日本一のエッセンス”を注入するぞ)
岡﨑監督は続ける。
「新庄(剛志)監督(北海道日本ハムファイターズ)がよく『全員を使いたい』みたいなことをおっしゃっているけど、その気持ちがすごくよくわかる。全員登録したいし、全員試合で使いたい」。
経営上も、ルール上も、無理なことはもちろんわかっているが、それくらい選手への愛情があふれているのだ。「自分でもこんな感じになるとは思っていなかったんですよね。線引きはできるタイプやと思ってたんですけどね。いや、線引きはもちろんしてますけど…でも、ほんとかわいいですねぇ(笑)」。愛おしくてたまらないといった表情だ。
そんな岡﨑監督に初めての指導者、初めての監督としての思いを聞いた。
■まず選手に説いたこととは
昨秋、就任を引き受けると、まずは2023年の試合動画をすべて見るところから始めた。自チームだけでなく、相手のサンダーバーズの選手の特徴も頭に叩き込んだ。ただその後、約半数が入れ替わったのは、“独立リーグあるある”だったが…。
年が明けてチームに合流すると、まず北陸の地の雪に驚いた。関西では寒くても屋外で練習ができるし、なによりタイガースには広い室内練習場がある。
「キャッチボールも外でできない。練習メニューをどうしようって、環境に対しての戸惑いは正直ありました」と吐露するが、懐刀となる片田敬太郎コーチや桒原凌コーチ、古くからのスタッフの助言を得て知恵を絞って取り組んだ。
最初に選手たちに説いたのは「準備力」と「当たり前のレベル」だ。
「タイガースで超一流の選手の方たちと一緒にやらせてもらって感じたこと。そういう方たちはみんな『準備力』が高かった。そこはチームとしても大事にしていこうと。それと、矢野(燿大)監督から教わったことだけど、『当たり前のレベルを上げていく』こと。当たり前のことを当たり前にできるように、そしてそのレベルを上げていこうと」。
その積み重ねがレベルアップにつながるのだ。
■プレー以外の細かいところにも目を配る
プレー以外の細かいところも、選手には注意喚起を促す。
たとえばティーバッティングが終わってフリーバッティングに向かうとき、打ったあとをそのままにしているのを目にした。自分でボールを拾って整備して、次に打つ選手が気持ちよく使えるようにしようと、選手には告げた。タイガースでは普通にやっていたことだった。
「小っちゃなことなんですけど、そういうこともチームとして当たり前のレベルにしようと話しています」。
伝えたいのは、野球の技術だけではない。
さらに、打撃練習中のスマホでの動画撮影についても気づいたことがあった。打ち終わって即、撮った動画をバッティングケージの横に座って見ている選手がいたのだ。
「その姿をもしスカウトの方が見たら…。スマホを見ているのを『LINEでもしてるのか』と思われるかもしれない。動画を撮って自分の動きをチェックするのは間違いじゃないけど、誤解をされないように、やり方だけは間違えないようにしようって、見るのはベンチに入ってにしようって言いました」。
NPBならスタッフが撮影をしてくれるから、グラウンドに自身のスマホを持ち込むことなどない。しかし、ここではそんな人員はいないため、自分たちで撮らなければならない。またもや環境の違いに接し、あらぬ誤解を受けるなど選手にとってマイナスにならないよう対処した。
■見ること、コミュニケーションをとること
「最初はね、『だいぶ怖い人が来たな』って言うてたらしいですよ(笑)。キャッチャーやし、阪神やし、こんな顔やし(笑)」。
いやいや、優しい顔立ちなのに…。たしかに元プロ野球選手ということで、身構えるものはあったのかもしれない。「まずは、その壁を取る作業でしたね」と振り返る。
「ボケたりとか、いじられたりとかね。いじることは僕はあんまり好きじゃないので、自分から自虐じゃないけど、そういうので少しずつ選手との距離を縮めていきました」。
対話を重視する岡﨑監督に、今では選手からどんどん話しかけてくるし、ちょっとしたことでツッコんできたりもする。
「コミュニケーションは時間の長さじゃなくて回数、頻度が大事。1日に1人と5分話して30日かけて30人とコミュニケーションをとるのではなく、1人に10秒でもいいから全員に、毎日ちょっとした声かけをするというのは、めちゃくちゃ意識しています」。
野手には打撃投手として投げたりノックを打ったりで、自然と接触の機会は多くなるが、投手に関しても毎日「意識的に」ブルペンに見に行くようにしてコミュニケーションを図っている。
「僕自身も見てもらって嬉しかったという経験もしているから、全体をしっかり見たいというのはありますね」。
選手というのは監督に見られているのは嬉しいものだし、それが励みになる。ましてや声をかけられると、それだけでモチベーションが上がるというものだ。それも心得て行動している。
■守り勝つ野球
岡﨑監督が標榜するのは「守り勝つ野球」だ。「うちの投手陣だったら、先発が3失点くらいでゲームを作ってくれて、後ろのピッチャーが1点以内に抑えてくれて、打線が4点以上取って勝つというイメージをしている」という。
ここまで5月の10試合を終えてチーム防御率が2.63なので、「後ろが今、いい感じでハマッてくれているんで、そこは大きいですよね」と計算以上だ。チーム打率は.252、平均得点が4.7点なので、思いどおりの戦いができているといえるだろう。
「守備の面でエラーも出てるんで、『守り勝つ』というところまではいけていないけど、でも競った試合をモノにできているので、そういう意味では選手の成長をすごく感じていますね」。
バッテリー、とりわけ捕手陣の奮闘に手応えを深めているという。
■優勝するために、ここに来た
独立球団の場合、勝つことや優勝することと並んで、選手をNPBに押し上げるという使命もある。岡﨑監督は「もちろん、両方ですね」と、どちらも求めていくんだと力を込める。
「開幕戦の試合前、タイガースで毎年やっている出陣式を真似してやったんですよ、ブルペンで。そのときに調子に乗って、『優勝するために僕はここに来ました』って、ちょっと勢いで言ったんです(笑)」。(その模様⇒球団公式YouTube)
やや照れくさそうに明かすが、まぎれもない本心だ。
「勝つ中で成長できることって、たくさんある」と岡﨑監督は語る。たとえば5月29日には1-0の完封勝利を成し遂げたが、「バッテリー含めて野手もすごいプレッシャーの中でやるというのは、成長につながった」とうなずく。
勝つためのプレッシャーの中での質の高い打撃や守備、それをスカウトに見てもらうことによって選手個々の評価も高まる。
「チームの勝ち負けを抜きにしたチーム作りとか試合運びっていうのは、僕はしていないですね」。
そしてその積み重ねこそがチーム力、ひいては個人の能力を上げていくことになるのだ。
■競争意識をもってギラギラしろ
また、勝つための選手起用が競争意識を植えつける。
「完全に選手を固定するつもりはない。ちょっとでも隙があれば出てやるぞっていう、レギュラー選手に対して若い選手が虎視眈々と狙っている状態というか、突き上げがある組織っていうのはやっぱり強い。逆に若い選手を我慢して使っていて、ベテランの宮澤(和希)であったりが『いつでも俺がとって代わってやるぞ』みたいな、そういう雰囲気は強いチームの特徴だと思うので、そういうのを作っていきたいですね」。
安穏としていたら選手も成長しない。チーム内競争を活性化することで、選手自身の可能性も広がっていく。
練習日のシート打撃なども、「登録するかどうかという目線で見ている」と練習生にチャンスを与えているが、それは同時に登録されている選手にとっては刺激となっている。
「やっぱり僕はキャッチャー出身ということもあって、いろんなことをめっちゃ見てるんで。隙があれば、いつでも代えるよっていう目線では見てますし、選手も見れられてるなって思っているんじゃないですかね」。
練習からギラギラとしたものを出してほしいと、期待しているのだ。
■5月は6勝4敗で勝ち越した
5月5日、ホームでの開幕戦は追い上げ及ばず1点差で惜敗したが、2戦目のビジターで今季初勝利を挙げた。「選手たちが全員で向かっていって、いい勝ちを拾ってくれた」と顔をほころばせた岡﨑監督。
実は昨年のミリオンスターズは、サンダーバーズに対して12連敗でシーズンを終えていた。「昨年からの連敗は僕自身は気にせず、普通に挑んできました」と、もちろん岡﨑監督にはまったく関わりのないことで、まっさらな気持ちで臨んでいるシーズンだ。ただ、昨年から在籍する選手にとっては、“呪縛”のようなものが払拭できた勝利だったかもしれない。
岡﨑監督も、ここからどんどん勝ち星を積み上げていくことを誓っていた。
5月の10試合を終えて、6勝4敗で2つの勝ち越し。「ここまでピッチャーを中心に選手がよく頑張ってくれている」と、手応えを得た。今季もNPBのファームチームとの対戦もあるし、スカウトが視察に来てくれる機会も増えてきた。あと30試合、ここからが正念場だ。
ミリオンスターズとしてもリーグ発足2年目の今年は、なんとしても“覇権”を奪取せねばならない。
チームの勝利と優勝、NPBへの輩出。そして今年はもう一つ、大きな使命もある。次回、岡﨑監督の人となりと併せてお伝えしよう。(次回に続く⇒「岡田彰布、金本知憲、矢野燿大ら名だたる名将たちから学んだ岡﨑太一監督(NLB・石川ミリオンスターズ)」)
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(撮影はすべて筆者)