B'zと藤井風の生歌唱の反響から考える、NHK紅白歌合戦の存在意義。
年末に放送されたNHK紅白歌合戦が、今年も様々な話題になっています。
特に、多くのメディアが紅白歌合戦の視聴率が32.7%と、過去2番目に低い数字だったことを大きく報道しています。
参考:紅白 視聴率32・7% 過去2番目低い数字 前年より上昇 NHK「最高のライブ」4年連続40%に…
ただ実際には、様々な環境要因を踏まえると、今回の紅白歌合戦の視聴率が昨年に比べて上がった点に注目すべきと言えます。
ポイントについてご紹介しましょう。
大方の事前予想は過去最低視聴率の更新だった
実は、今回の紅白歌合戦は、過去最低視聴率を更新するのではないかと、事前に多くのメディアが報道していました。
特に予想への影響が大きかったのは、今年も昨年に続き、ジャニー喜多川氏の性加害問題の影響で、NHKがSTARTO ENTERTAINMENT所属アーティストの出演を見送り続けた関係で、今年もSnow ManやSixTONESなどのSTARTO ENTERTAINMENT所属の人気グループの出演がなされなかった点でしょう。
それ以外にも昨年大きな話題となったYOASOBIやAdoも出演しないため、今年の紅白は過去最低の更新が一部では確実視されていたのです。
参考:旧ジャニ出場ゼロ&YOASOBIもAdoも出ない…悪材料ばかりの「紅白」は“歴代ワースト視聴率”更新の可能性
特に、Snow Manは今年も紅白歌合戦の裏でライブ配信を実施、126万人を超える同時視聴者を集めていたことを考えると、NHK側にとっては、今年も視聴率最低を更新するための悪い条件がそろっていたと言えます。
参考:Snow Manら年越し生配信 最大同時接続数が126万人突破、当日の国内1位を記録
テレビ視聴率下落が続く中での視聴率アップ
そう考えると、今回の紅白歌合戦が、昨年に比べて0.8%とはいえ視聴率を上げることができたのは、ある意味では快挙とも捉えることができるわけです。
参考:紅白視聴率“復活”32・7% 中高年にターゲット拡大 史上最低の前回31・9%からUP
なにしろ、Netflixのような動画配信サービスの普及や、若者のスマホシフトの影響もあり、地上波テレビの視聴率はこの数年減少が止まりません。
参考:各局とも下落続く…主要テレビ局の複数年にわたる視聴率推移(2024年12月公開版)
象徴的な数値であるテレビのゴールデンタイムの総世帯視聴率は、2020年度上期のピークからこの5年間で14%近く下落しています。
一部メディアは紅白歌合戦の合格点を視聴率40%と報道していましたが、もはやそうしたテレビ中心の時代はとっくに終わっています。
そう考えると、紅白歌合戦が2020年に比べて8%程度の視聴率の下落で踏みとどまっているのは、逆に凄いことと考えるべきかもしれないのです。
圧倒的に話題となったB'zの生歌唱
その視点で今回の紅白歌合戦を振り返ると、特に3組のパフォーマンスが大きな注目を集めたことが分かります。
それはB'z、米津玄師さん、そして藤井風さんです。
紅白歌合戦のパフォーマンスは、一部がYouTubeでも公開されています。
毎年YouTubeの再生数の分析をされている徒然研究室作成のグラフを見ると、どのようなパフォーマンスが視聴者の間で話題になっているのか一目瞭然です。
特に最もインパクトが大きかったのが、B'zのパフォーマンスでしょう。
当初、B'zの出演が実現したのは連続テレビ小説「おむすび」の主題歌の関係で、1曲だけの事前収録だろうと複数のメディアで報道されていました。
しかし、NHKは司会者にも知らせずにサプライズでNHKホールでのB'zの生出演を実現。
「LOVE PHANTOM」と「ultra soul」のパフォーマンスは、会場の熱狂を日本中にも波及させる結果となります。
参考:橋本環奈「あまり眠れず」紅白B’zサプライズ生熱唱に興奮&驚き「次の準備だと疑わず」リハ完全クローズ
ここで特に注目したいのが、事前収録だった「イルミネーション」よりも生歌唱の二曲の反響が明らかに大きい点です。
もちろん、楽曲としての知名度が後半二曲の方が高い面も大きいとは思いますが、NHKホールの観客の熱量も含めての、生歌唱ならではのパフォーマンスが注目された面は間違いなく大きいと考えられます。
高度な一発勝負を見せた藤井風の生中継
さらにB'zとは違う形でNHKの本気がみられたのが、B'zの直後のパフォーマンスとなった藤井風さんのニューヨークからの生中継でしょう。
藤井風さんはニューヨークの屋内から屋外に出て、そのままビルの外側をエレベーターであがり、ビルの屋上に出るという形で「満ちてゆく」を披露。
「開け放つ胸の光 闇を照らし道を示す」という歌詞の直後に、藤井風さんの顔に朝日が当たり、屋上でカメラがターンして藤井風さんのバックに朝日が映り込むという、文字通りの「一発勝負」の素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。
参考:藤井風のNY生中継、エグすぎ“一発勝負”の裏側明らかに「数秒ずれたらこない朝の光」
この二つの「生歌唱」こそが、今回の紅白歌合戦における一つの山場だったと言えるでしょう。
この二つのパフォーマンスの反響から見えてくるのは、やはり、紅白歌合戦ならではの存在意義は、紅白「歌合戦」ならではの生のパフォーマンスなのではないかという点です。
2023年の紅白歌合戦でも見えた生歌唱の力
振り返ってみると、この点に対するヒントは既に2023年の紅白歌合戦の結果にも出ていたと言えます。
2023年の紅白歌合戦では、「ボーダレス」をテーマに掲げ、クイーン+アダム・ランバートやNewJeansなどが鳴り物入りで出場を果たしました。
ただ、実際に紅白歌合戦放送後のYouTubeで圧倒的に注目されたのは、NewJeansもライブで出演したYOASOBIの「アイドル」のパフォーマンスであり、Adoさんの京都・東本願寺からの生中継だったのです。
やはり、紅白歌合戦では、事前収録よりも当日の生歌唱が求められているという一つの示唆と言えます。
もちろん、今回の米津玄師さんの「さよーならまたいつか!」が話題になったように、朝ドラの出演陣とともにパフォーマンスするような紅白歌合戦ならではのパフォーマンスであれば、必ずしも生歌唱である必要はないとも言えます。
ただ、逆に言うと、そうした紅白歌合戦ならではの特別なパフォーマンスをみられるかどうかが、紅白歌合戦に求められていることであることが明確になった1日だったように思います。
紅白歌合戦でなければできないこと
最近の紅白歌合戦は、ビルボードジャパンのような音楽チャートを参考に、その年を代表する楽曲を生み出したアーティストをメインに出演依頼をしつつ、今回のB'zや前回のポケットビスケッツやブラックビスケッツのように中高年にも人気のグループを特別企画とすることで、幅広い世代が大晦日に音楽を楽しむ番組としての位置づけを明確にしつつあるようにも見えます。
日本のテレビ番組の象徴として、視聴率の低下が注目されやすく、どのような選択をしても何かしらの批判が集まりやすい番組であることは間違いありません。
ただ、その影響力は明らかに大きく、番組配信翌日には、音楽配信サービスで紅白歌合戦で披露された楽曲がチャートを急上昇する現象も発生しているようです。
参考:日本の元日付Spotifyデイリーチャート、『NHK紅白歌合戦』の影響が大きいことについて
前回の紅白歌合戦では、大幅な視聴率低下の影響で、番組打ち切りの可能性も一部のメディアで報道されるほどでした。
ただ、今回の紅白歌合戦で、B'zの生歌唱が大きな反響を集め、藤井風さんの生中継が大きな話題になったように、紅白歌合戦が紅白歌合戦ならではのパフォーマンスを生み出せる限り、その存在意義は明確にあるように感じます。
今から、来年の紅白歌合戦でどんなパフォーマンスがみられるのか、楽しみにしたいと思います。