阪神のプロスカウト・岡崎太一氏が石川ミリオンスターズの監督に就任!“日本一のエッセンス”を注入するぞ
■岡崎太一監督が誕生
阪神タイガースの岡崎太一氏が監督に就任した。
といっても、もちろんチーム本隊ではない。独立リーグの日本海リーグに所属する石川ミリオンスターズの監督である。タイガースに籍を置きながら、“派遣”という形で指揮を執る。
2005年、松下電器(現パナソニック)から自由獲得枠でタイガースに入団した岡崎氏は、毎年のように繰り広げられる厳しい捕手争いの中、強肩を武器に16年間活躍し、2020年限りでタテジマを脱いだ。翌年からはプロスカウトとしてトレード成立などに腕を振るい、チームに貢献してきた。
「いつかは指導者として野球界に恩返ししたいという思いがあった」という岡崎氏にとって、今回の話は願ったりかなったりだったという。
11月9日、嶌村聡球団本部長、ミリオンスターズの端保聡社長も同席して就任会見が開かれた。
(以下、「岡崎監督」と表記する)
■就任会見
岡崎監督はやや緊張を見せながらも、「まだ実感はわかないんですけど、ユニフォームを着たときに『よし!やるぞ!』という気持ちになっていくのかなと思います」と、再びユニフォームに袖を通せる喜びからか、柔和な表情で語る。
プロスカウトとして3年間、おもに見てきたのはウエスタン・リーグの試合だが、タイガースが鳴尾浜球場で独立リーグのチームと練習試合をするときには、それもしっかり視察していた。
独立リーガーについては「若くてレベルが高い。一芸に秀でた選手がたくさんいるという印象を持っています」と述べ、「僕が何か一つでもアドバイスをしたり、そういうところできっかけを掴んで、NPBに入っていけるような選手を一人でも多く育てていけるように」と指導への意気込みを口にした。
■矢野燿大前監督に倣って対話を重視
岡崎監督がとくに大事にしたいのは「コミュニケーション」だという。
「本人がどういう選手になりたいのかとか、自分のストロングポイントだとか、そういうところをしっかり会話しながら、こっちからの一方通行になるのではなく、お互いに納得し合った上で、同じ方向を向いて成長していくことができれば」。
この“信条”は、前監督の矢野燿大氏から授かったものだ。矢野氏がよく口にしていたのは「こちらから頭ごなしに言うのではなく、まず選手の話を聞く。『どういう考えでやったんや』と聞いてから、その上で『それはこうじゃないかな』と自分の意見を伝える」という選手との対話だ。
岡崎監督も「矢野さんとはいろいろな話をする中で、僕の意思も尊重し、アドバイスをいただいた。そこで本当にやりがいを感じてプレーすることができた」と現役時代を振り返る。だから、自身もそこを意識してやっていくことを誓う。
■同じ捕手、森本耕志郎選手には…
現在、映像で今季の戦いぶりなどを見ながら、選手ひとりひとりを把握する作業をしているところだ。
中でも同じ捕手である森本耕志郎選手は、来季はドラフト候補選手として名前が挙がってくるであろう有望株だ。
「バッティングも思いきりがいいですし、守備の面でも基本的な部分はしっかりしている」と評した上で、「実際に直接会ってから、プロ野球のバッテリーはこういう話をしているよとか、配球面であったりとか、話していければ」。
岡崎監督は現役時代、試合中の投手に伝達するジェスチャーが秀逸で、言葉やサイン以上にその意図を伝えることができていた。
また、試合後に全配球のチャートを書けるくらい、リードにもしっかり根拠を持っていた。これらは矢野前監督も常に賞賛していたところだ。
若い森本捕手が苦手としている部分だが、岡崎監督の指導で来季は一気に飛躍が期待できる。
「足が速い選手がいたり、まとまったピッチャーもいたりする。うまく起用しながら、選手個々の能力をしっかり生かしていけるような戦いをしていきたい」。
能力の高い人材がそろっており、監督の手腕がどう発揮されるのか楽しみである。
■虎戦士の準備力に感嘆
球団の一員として、38年ぶりの日本一に導いた岡田彰布監督の采配や、躍動する虎戦士たちを見てきた。
「僕も指導経験がないので、これから勉強していくんですけど…。今の選手たちの試合に対する準備力の高さっていうのは、本当にすごいなというのを常に感じていました」。
たとえばと、例に挙げたのは木浪聖也選手と熊谷敬宥選手だ。
「木浪であればキャンプ中も朝5時からバッティングしていたり、熊谷であれば試合開始の8時間くらい前から球場に来てランニングしてバント練習している。その試合に自分が出るか出ないかわからない状況でも、しっかり準備できる姿を見てきました。そういう準備のたいせつさっていうのを、(ミリオンスターズの)選手たちにはしっかり伝えたい」。
成長するために、そして勝つために、“日本一のエッセンス”をミリスタナインにどんどん注入していくつもりだ。
■独立リーグとの連携を強める
今回の背景を嶌村球団本部長が説明する。現在NPBでは、プロ野球の発展および野球振興を目的に「ファーム拡大構想」が進行中で、来季はウエスタン、イースタン各リーグにそれぞれ静岡、新潟が新加盟する予定になっている。これは「日本全国のプロ野球団のない空白地域を埋めていき、全国に拡大するという施策」であるという。
「ゆるやかな三層構造というのがあり、一層目がNPB12球団、二層目がファーム組織、そして三層目が独立リーグや社会人クラブチーム。その三層目との連携も図っていく中で、指導者の派遣もその一環です」。
タイガースとしても独立リーグとの連携を強めていきたいという意向を打ち出しており、NPBの方向性にも乗じているということだ。
■かつては“男前”藤井彰人氏も
この指導者派遣には大きな意義がある。タイガースは2016年にも現役引退直後の藤井彰人氏(現広島東洋カープ・ヘッドコーチ)を福井ミラクルエレファンツにコーチ派遣している。
「いずれ指導者になって、これまで教わってきたいろいろなことを伝えたい」と考えていた藤井氏は、当時「『修業してこい』と言われたのが嬉しかった。指導者としてはド素人やから、まずは勉強をさせてくれるのはありがたかった」と話していた。
そして、その気さくな性格と確固たる理論に基づく指導で選手たちに慕われ、彼らは大きく成長した。当時、藤井コーチから薫陶を受けた片山雄哉選手はその後、2018年の育成ドラフト1位でタイガースに入団した。
藤井氏自身も「福井で勉強できたことが大きかった」と指導者としての土台となった独立リーグへの派遣を、貴重な財産としている。(藤井彰人氏の詳細記事⇒「虎の男前」藤井彰人コーチ、古巣に里帰り―“藤井チルドレン”と久々の再会)
NPB球団にとっては指導者経験の場ができ、その地域における球団の人気拡大にもつながる。独立球団にとってはレベルの高い指導を享受でき、なおかつ人件費が不要となり経費の削減にもなる。また、NPB球団のブランド力による知名度向上にも期待できる。
双方にとってWIN-WINなのだ。
■深い友好関係の両球団
今回はミリオンスターズとの間で合意に至ったが、そもそも両球団には深い友好関係があった。
コロナ期間を除いて毎年、交流試合を開催し、2016年のミリオンスターズ設立10周年記念試合には、掛布雅之監督率いるタイガースのファームが招待された。また、その前年にはネルソン・ペレス選手がタイガースに移籍している。(ネルソン・ペレス選手の入団記事⇒「阪神タイガースのネルソン・ペレス選手」が誕生した日)
嶌村本部長も「由緒正しき伝統球団」と評し、人柄もよく知る端保社長だから安心して預けられると明かした。
「岡崎くんにとってもキャリアアップになるいい機会。彼には野球に対する情熱がある。それがないと成功しない。そこが一番。プロスカウトとして3年間で彼の人となりというのが、よくわかっている。彼だったらいける」。
そう太鼓判を押して送り出す。
■チーム強化、選手育成、そして野球振興
今後、監督として采配を振るだけでなく、野球を広めるための振興にも力を入れるという岡崎監督。そのため、ミリオンスターズの活動や行事には積極的に参加する。これは北陸のタイガースファンも楽しみだろう。
監督としての最初の仕事に「トライアウト」を挙げる。11月18日、ボールパーク高岡にて日本海リーグのトライアウトが行われるが、そこで自らダイヤの原石を発掘すべく、目を光らせる。
もしかすると将来、虎戦士になるという可能性もあるわけだ。どんな“岡崎チルドレン”が誕生するのか、期待したい。
■日本酒がおいしい石川県
幼いころからお母さんに「驕らず謙虚に、感謝の気持ちを持ちなさい」と教えられてきた岡崎監督は、常に周りの人を思いやり、相手の立場に立って考えられる人物だ。
「プロ野球選手だから」ではなく、人としてたいせつなことだと、ずっと守ってきた。
そんな岡崎監督に石川県のイメージを問うと、「米どころ。お酒がおいしい。日本酒は好きですね(笑)。あと、海がきれい。日本海がほんとにきれいだなと思います」との答えが返ってきた。
端保社長やナインともお酒を酌み交わしながら、野球談議に花を咲かせる姿が目に浮かぶ。
「NPBだけでなく、独立リーグの発展にも貢献していけるように頑張っていきたい」。
自らの使命をしっかりと胸に刻み、北陸の地で新たな一歩を踏みだす。
(撮影はすべて筆者)