岡田彰布、金本知憲、矢野燿大ら名だたる名将たちから学んだ岡﨑太一監督(NLB・石川ミリオンスターズ)
(前回「阪神タイガースからのハケン(派遣)監督・岡﨑太一氏が、石川ミリオンスターズのハケン(覇権)奪取を誓う」の続き)
■阪神タイガースからの派遣監督
独立リーグ・日本海リーグの石川ミリオンスターズで今季から指揮を執る岡﨑太一監督。阪神タイガースからの“派遣”という形で、指導者の道を歩みはじめた。
名門・智辯学園高校から松下電器(現パナソニック)を経て、2004年ドラフトにて自由獲得枠でタイガースに入団した。捕手という競争の激しいポジションでありながら16年間活躍し、2020年限りでタテジマを脱いだ翌年から3年間はプロスカウトとして、トレードをまとめるなど尽力した。
「いつかは指導者に…」。そんな目標をもっていた岡﨑氏にとって、ミリオンスターズの監督の話は願ってもないチャンスだった。2つ返事で引き受けると、年明けから石川県に腰を落ち着けた。現在、開幕から10試合を消化し、6勝4敗と善戦している。
■引退後の3年間で学んだこと
送り出したタイガースの球団本部長・嶌村聡氏は語る。
「指導者経験を積ませたいからと、誰でも出せるわけではない。岡﨑くんは3年間、球団できちんと教育をして、自信をもって送り出した人材。野球人として技術を伝えるのはもちろんだけど、“いち社会人”として人間教育的なこともしてきてほしいと願っている」。
嶌村氏から、プロスカウトの3年間はそういう学びの期間だったのだと聞かされ、その思いは岡﨑監督もありがたく受け止めている。
「本部長の元で多くのことを教わった。仕事はプロスカウトがメインですけど、本部長がアマチュアの試合を見にいかれるときには運転手でお供させていただいて、いろいろなことを話していただいたし、キャンプ中も役員号の運転をさせていただいて、本部長だけでなく社長ともお話しする機会もあって、すごくいい勉強になりました。いろんな角度から野球をご覧になっているんで」。
現役の間は相手をどう抑えるか、どうやって打つか、チームが勝つためには…と、野球に取り組むことが仕事だった。しかし引退後は「チームとして、組織として、どういうふうに運営していくのか、1軍もファームも含めて」という“経営側”の思考に触れ、日々勉強を重ねてきた。またパソコンなどの実務も覚え、スキルアップにも努めてきた。
嶌村氏の狙いどおり、岡﨑監督は選手たちに人としての教育も実践している。「まだまだ若い子たちだし、未熟な部分もあるとは思うんですけど、みんな素直な子たちばかりなんで、ちゃんと理由を話すとわかってくれる。そこはしっかりコミュニケーションをとってやっています」と自身も勉強しながら指導している。
■さまざまな指導者の“ええとこどり”
コーチ業を経ず、いきなりの監督業となったが、これまで師事してきた幾多の指導者すべてから、野球観や戦術などさまざまな影響を受けてきたという。
「見たり感じたりしてきました。たとえば岡田(彰布)監督でいえば、相手の一つの心の動きに対して一気に畳みかけるような戦術であったり、金本(知憲)さんであったら、若い選手を積極的に起用して、失敗を恐れず我慢して使い続けたり。そのときの選手が今の強いタイガースの主軸になっている。矢野(燿大)さんであれば、次の塁を積極的にどんどん狙っていくような、チャレンジする野球を徹底されていた」。
金本監督には目をかけられ、厳しく打撃のイロハを教わった。矢野監督は同じ捕手として、ほかの人が気づかないようなところにも目を留め、讃えて自信をつけてくれた。
「すべての監督を参考にというか、自分なりに感じたことをやらせてもらっていますね」と、さまざまな監督から“ええとこどり”し、さらに自身が経験してきたことも加味して、新人監督は独立リーガーたちと向き合っている。
■本から得ること
また、読書家の岡﨑監督は、本から得ることも少なくない。本を熱心に読みはじめたのは現役時代の30代半ばくらいからだという。
「最初は読むだけやったけど、やっぱ忘れちゃうので」と、気になった箇所はノートに書き出すようになった。とくに大事だと思うところはペンの色を変えて赤字で書き込んでいるが、丁寧な文字が人柄を表している。
「何かあったときに思い出せる。選手が相談してきたときも、この中から引っ張ってきてアドバイスできたりとか、ミーティングで何か話すときにも参考にしたりとか」。
すぐに読み返せるように常に持ち歩いているが、ぎっしり書き込んだノートもすでに5冊になった。
読む本も多種多様だという。自己啓発本もあれば心理学、仏教、経済学、ビジネス書…。
「『〇〇を買おう』って決めて本屋さんに行くんじゃないんです。とりあえず行ってみて、パッと目にとまったり、『ん?』って思ったりするのって、そのときの自分が疑問に感じていたり、こんなこと知りたいっていうことなので、それを買って読む」。
自らの内なる声に耳を澄まし、己の感性のまま手に取る。その本が何か答えをくれ、肥やしになり、それがまた教え子たちに響くことにもなるのだろう。
■選手以上に鍛え上げる
そんな岡﨑監督の朝は早い。起床は5時だ。ジムのオープン時間である5時半からトレーニングを開始して約2時間、みっちりと汗を流す。「ジムのお風呂がめっちゃいいんですよ(笑)」と30分ほど入浴し、球場に入る。
たいてい一番乗りで、今度はランニングだ。ナイターの日だとジムが8時半からで、11時半ごろに球場入りし、1時間ほど走る。
プロスカウトの3年間、座ってばかりで体がなまっていたからなのかと思いきや、まったく違った。その間も現役時代と変わらず、ずっとトレーニングは継続していたというから頭が下がる。
「朝6時から甲子園に行って走って、トレーニングしてから鳴尾浜(タイガースのファーム球場)とかに行ってましたよ。現役時代に近い状態で動ける体をキープしていました」と“来たるべきチャンス”に備えて、準備を欠かすことがなかったのだ。
実際、チームに合流した当初はセカンドスローなどの手本を現役さながらに披露することもしていたし、肉体的な疲れもまったくなかったという。
伝える術は言葉だけではない。その行動や体、動き…すべてが選手へのメッセージになっている。
■練習中も目まぐるしく動く
選手がウォーミングアップをしている間、岡﨑監督はポール間をレフトからライト、折り返してライトからレフトと、もくもくと何往復も歩く。
前の試合を省み、次の試合での選手起用や作戦など、さまざまなことに考えをめぐらせ頭の中を整理しているというのだが、歩きながら熟考するこの時間は非常に重要なようだ。
練習が始まると、その動きは目まぐるしい。打撃投手として投げ込むのは連続30分以上。「片田(敬太郎)コーチも桒原(凌)コーチも投げてくれるんで、そんなにたいしたことないですよ」と、こともなげに笑うが、毎日となるとかなりハードだ。
その後は守備練習をする選手にノックを打ち、ブルペンに投手のピッチングを見にいき、二遊間に移動すると内野ノックを受ける選手の送球を受ける。
捕手陣の練習も、専門だけにより熱が入る。捕手出身だからこそ教えられることを、惜しみなく伝授する。
もちろん終わったあとの球拾い、グラウンド整備、ネットなど用具の片づけも選手と一緒に行う。裏方のスタッフなどいない独立リーグでは、監督もスタッフのひとりとしてなんでもやるのだ。
■1日のすべての時間を選手のため、チームのために使う
現在、金沢には単身赴任中の岡﨑監督。「料理は好きで、現役のときもオフには1週間に2、3日は作っていたし、引退してからはほんまにちょくちょく作っていました。なんでもできますよ、だいたいは」と言い、今も自炊の日々だそうだ。
ただ、「毎日となると面倒くさくなってきて…。1週間の献立が同じになる(笑)。考えるのが面倒くさい。一人分だし」と、やや苦痛な様子。やることが多く、忙しすぎるのもあるのだという。
「帰ったら洗濯してごはん作って食べて、チャートを見ながら反省して、また次の対戦のことを考えて…。こっちがこうしたら、相手はこういう対応してくるんじゃないかとか、いろいろ考えだしたら時間が足りない(笑)」。
ちなみに『チャート』というのは、試合中の全投球の球種やコース、球速などを打撃結果とともに図に記入したものだ。NPBのファームではベンチ入りしていない投手がネット裏でつけることが多いが、ミリオンスターズではこれまでやっていなかった。
「バッテリーとしてもよくないし、野手も参考にすべき」とキャンプ中に導入を宣言し、紅白戦のときに横について記入の仕方をレクチャーした。フォーマットも自らExcelで作成した。選手のためになることは、なんでもやる。
■もう一つの使命とは
勝つこと、選手をNPBに輩出すること、そのどちらも追い求めつつ、石川の地にあるスポーツチームの長として今年はまた特別な使命も背負う。
今年の元日、能登地方で大震災が起こった。被災した選手も心配だったし、「どうなるんやろう、チームとしてやっていけるのかどうか…」と不安になった。
「シーズンをやるって決まったからには、じゃあ被災された方々にどうやって勇気や元気を送れるかといったら、プレーで見せるしかない。見てもらって、少しでも前向きな気持ちになってもらおうと思った」。
恩師・矢野氏の言葉に「誰かのために頑張れる人間は強い」というのがあった。「よくおっしゃっていて、本当にそのとおりだなと思う」と岡﨑監督もうなずく。
「選手たちはNPBに行きたいとか、それはもちろん自分のためにやるんだけど、両親とか家族とかお世話になった人とか、そこにプラスアルファで震災被害に遭われた方たちのためにっていう、そういう思いでやってくれていると思うし、僕もその思いでいます」。
スポンサーへのあいさつ回りで七尾は訪れた。珠洲では今後、チャリティーゲームも予定されている。そこでしっかりとできることをやると誓う。
■長男の姿にパパは感激
家族と離れての監督生活だが、充実の日々を送る。毎日連絡をとりあうというご家族は、5月5日の開幕戦に駆けつけてくれた。スタンドから長男が、自身の名前入りタオルを掲げてくれているのが目に入ったときは、感激した。
「あれにはね、ちょっとグッときましたね。高校1年生の男の子が自分の親父のタオルを持って…。なんかかわいいし、嬉しかったですね」。
現役時代、パパの1番のファンだった長男。初本塁打と初サヨナラ打で連日ゲットした記念球を持ち帰ると、その2つのボールでお手玉して遊んでいた日がなつかしく思い出される。
「僕が監督をやっていることは、あんまり興味ないと思う。それより自分のやりたいことがいっぱいあるから、そっちに集中してくれたらいい」。離れながらも、温かく成長を見守っている。
そして今、近くに“我が子”が大勢増えた。「かわいくてしかたがない」という選手たちのため、岡﨑監督は自分にできることを精いっぱいやり尽くすつもりだ。
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