話題にならない東京国際映画祭 世間が無関心な従来の映画祭フォーマットの是非
『第37回東京国際映画祭』(10月28日~11月6日)が閉幕した。トークイベントなどのネットニュースは飛び交うものの、今年も世の中的な話題になることはなかった。
今年で5回目を迎えた、世界の映画人のトークイベントなどを通して映画の魅力を伝える「交流ラウンジ」のほか、誰もが気軽に映画に触れる機会を提供する「屋外上映会」や、若い世代に向けた「TIFFティーンズ」など意欲的な取り組みがある一方、映画祭自体は例年と変わらぬクラシカルな映画祭フォーマットで開催され、周囲に足を運んだ人がほとんどいない状況は例年と変わらなかった。
映画祭の規模に反して、映画関係者や映画ファンの内向きなイベントになり、幅広く一般層に届いていないことを感じる。それを象徴的に示したのが、Amazonプライムによる『テイクワン賞』の終了だろう。
同賞は、Amazonプライムが東京国際映画祭のプレミアムパートナーとして協賛し、新たな才能の発掘と育成を掲げて2021年より提供してきたが、3年の契約期間を経て終了。今年も映画祭パートナーには名を連ねるが、賞の継続は叶わなかった。
その背景には、映画業界との関係性の構築において一定の成果を得たことと、プレミアムパートナーに対する費用対効果へのドラスティックな見切りがあるだろう。
実際、同映画祭は世の中的な関心事にはなっていない。それがいまにはじまったことではないのがまた問題だ。試行錯誤は重ねてきているが、結果にはなかなかつながっていない。
CHANELとNetflixがスポンサードした釜山国際映画祭
そんな同映画祭と対照的なのが釜山国際映画祭だ。
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10月初旬に開催された『第29回釜山国際映画祭』は、今年からCHANELがメインスポンサーに入り、賞の新設(カメリア賞:アジアにおける映画界での女性の芸術的貢献を表彰)や、ブランドショートストーリー(ペネロペ・クルスとブラッド・ピット出演)をすべての上映時に映画祭ジングルとあわせて上映するなど、映画祭を華々しく彩った。
注目すべきは、オープニング作品にNetflix映画『戦と乱』を選定したこと。アジア最大規模の国際映画祭のオープニング作品が、劇場公開映画ではなく、配信映画だったことは大きな波紋を呼んだ。
また、期間中には、映画祭イベントとしてアジアのメディア向けのカンファレンス「Netflix クリエイティブ・アジア・フォーラム」も開催された。日本から招待されたNetflixオリジナルドラマ『さよならのつづき』では、有村架純、坂口健太郎、黒崎博監督がトークショーなどいくつかの映画祭イベントに参加。現地のファンとの交流を持ちながら、映画祭を盛り上げた。
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メイン会場周辺にはNetflix作品の大型看板やポスターが目立ったほか、スタジオセットのようなフォトスポットも兼ねたNetflixカフェもオープンし、映画祭会場全体にNetflixカラーが色濃くにじんでいた。
こうしたNetflixとの大掛かりな取り組みの背景には、これまでの経緯がある。
釜山国際映画祭は、グローバルプラットフォームなど配信サービスの配信ドラマ・映画を上映するオンスクリーン部門を2021年に設け、積極的に配信映像コンテンツを取り込んできた。
2019年には、アジアのテレビドラマと配信ドラマを対象にしたアワード『アジアコンテンツアワード&グローバルOTTアワード』をスタート。6回目となる今年は、アジアの人気ドラマのスターが集結し、映画祭オープニングセレモニーをしのぐほどの華やかな一大イベントに成長を遂げていた。
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このように、映画だけに限らず、映像コンテンツの未来を見据えた映画祭へと進化させてきたことが、今日の結果につながっている。
王道を続けながら衰退していくのか
もちろんエンターテインメントへの熱量や国民性の違いもあるが、釜山国際映画祭の会場には、まるで日本の音楽イベントの夏フェスのような観客の熱気と盛り上がりがある。それに対して、毎年、釜山国際映画祭のすぐあとに開催される東京国際映画祭は、時間が止まってしまっているように見える。そこには、王道を続けながら衰退していく未来しか見えない。
いまの東京国際映画祭は、映画文化の未来の発展へ向けた企画もあるのに、それが映画界の外に届いていないと感じる。続けることが目的のルーティンに陥らず、誰のために映画祭をやるのかを突き詰め、世間の無関心と向き合っていくことが求められているのではないだろうか。
今年2月に就任した釜山国際映画祭の運営トップは「従来の映画祭フォーマットは今年で終わり」と宣言し、30周年を迎える来年の変革を掲げている。
時代が大きく動いているなか、東京国際映画祭はクラシックな王道スタイルをつらぬくのか。毎年の映画興行は、イベント的なアニメ大作で盛り上がる一方、映画業界の未来を切り開くはずの日本を代表する国際映画祭が世の中的な話題にならない現状をどうしていくのか。日本ならではの道があるはずだ。
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