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日本で記録的不入りだった三谷映画が韓国で大ウケ 三谷幸喜監督の驚きと感激のひと言に会場爆笑

武井保之ライター, 編集者
三谷幸喜監督が登壇したマスタークラス講演(筆者撮影)

三谷幸喜監督が7月7日、韓国・富川で開催中の『第28回プチョン国際ファンタスティック映画祭』のマスタークラス講演に登壇した。

“コメディ映画の巨匠”として本映画祭に招待された三谷監督は、『ステキな金縛り』『ギャラクシー街道』『記憶にございません!』の特別上映のあとステージで約1時間にわたり講演。大勢の若い世代がつめかけ、ほぼ満席となった韓国漫画博物館メインホールは、熱気に包まれた。

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酷評は落ち込むけど次のモチベーションに変える

3作上映後のステージに登壇した三谷幸喜監督は、メモを読みながらも韓国語でしっかりと挨拶。盛大な拍手と歓声を受けると「ベルリン映画祭やロシアの演劇上演などいろいろな国でその国の言葉で挨拶していますけど、今日がいちばんウケました」。さらに会場からは大きなリアクションが起こり、三谷監督もリラックスした表情を浮かべた。

講演の前半は、上映された3作品それぞれへの着想や脚本執筆の経緯などについて、MCの質問に三谷監督が答える。そのなかで、どの作品がよかったか観客へ問いかけると、『ギャラクシー街道』にもっとも拍手があがった。

すると三谷監督は驚きながら「日本では酷評されて、僕の映画のなかでいちばん観客が入らなかった作品です」と打ち明ける。さらに「この映画祭のために作った映画だった気がします」と冗談を交えてアピールすると、大きな笑いと拍手が沸き起こり、会場を一気にヒートアップさせた。

続けてMCから、自作が酷評を受けたり、興行が振るわなかったりしたときのメンタル管理について問われると「落ち込みますけど、次の作品で取り返そうというモチベーションに持っていきます」。

そして、コメディを作り続ける胸の内をこう語った。

「ずっとコメディを作り続けていますが、誰もが喜んで、笑ってもらえる話を作るのは、すごく難しい。そこで、誰に向けて作るかを考えたときに、自分自身が楽しくて笑える作品を作るところに落ち着きます。だから、あとはみなさんも同じ気持ちになってくれたらいいなと祈るだけ。それでずっと一致していたんですけど、初めてそうじゃなかった作品が『ギャラクシー街道』でした」

さらに『ギャラクシー街道』の不入りについて話を続け、「本当に落ち込みました。でも、明石家さんまさんに相談のメールをしたら、『おめでとう』って返ってきて(笑)。そのひと言で気持ちが楽になり、次こそみんなに笑ってもらえる作品を作ろうと思って完成したのが『記憶にございません!』です」と悔しさをモチベーションに変えたエピソードを披露した。

質疑応答での三谷監督の答えに拍手

大勢の若い世代が会場を埋め、三谷幸喜監督へ熱心な質問が投げかけられた(筆者撮影)
大勢の若い世代が会場を埋め、三谷幸喜監督へ熱心な質問が投げかけられた(筆者撮影)

後半は、観客からの質問の時間。会場の多くの観客がいっせいに挙手をすると、三谷監督は「こういうとき日本だとなかなか手が挙がらないのですが……」と驚きながら、作品のインスピレーションやコメディシーンのこだわりについての若い世代からの質問に丁寧に答えた。

そして、三谷流コメディの作り方について「人間は嘘を付く生き物。考えていることと話していることが違う。人を騙すこともある。それがコメディの基本。僕はいまお腹がへったなあと思っていますが、そんなことは決して観客に気づかれないように映画の話をしています」と話すと、ウィットに富んだ語り口に拍手が起こった。

また、最新作『スオミの話をしよう』(9月13日公開)の予行映像が流され、MCから「これまでの三谷作品の集大成」と紹介されると、三谷監督は「ミステリーコメディなのでストーリーは話せない」としながら、ふたつの制作ポイントについて言及した。

「僕は、家族といるときと、仕事の仲間と会っているときは、違う顔があります。家族といるときに仕事の人が来て、どっちの顔をすればいいかわからないことがあって、このシチュエーションって映画になると思いました。それがこの映画になっています。

もうひとつは、僕はもともと舞台の作家であり演出家ですから、舞台の手法で映画を作りたいと思っていました。ほぼワンシチュエーションで、長回しの長セリフ。カットを割らない。それを成立させるために芝居の上手な俳優を集めました。映画としては珍しい1ヶ月のリハーサルを経て、とても演劇的でおもしろい作品になったと思っています」

しっかりと観客の心を引き付けていた。

バースデーケーキと合唱のサプライズ

講演後のサイン会にも行列ができた(筆者撮影)
講演後のサイン会にも行列ができた(筆者撮影)

最後にサプライズ。翌日が誕生日の三谷監督へサプライズでケーキが出され、観客全員で韓国語のバースデーソングを合唱した。

バースデーケーキを前に感激の面持ちの三谷監督は、この日のイベントを振り返りながら「日本では、僕の作品や制作手法についてこうして観客とじっくり語り合う機会はほとんどありませんでした。みなさんの熱意が伝わってきて感激しています。いまのこの思いをひとつの言葉に集約して伝えるならば…『ペコパ!(腹へった)』」と叫び、会場中が爆笑。

三谷監督らしくマスタークラス講演を笑いで締めくくった。

なお、講演後にはサイン会が行われ、100人を超えるファンが行列を作った。三谷作品ファンの熱意と新作への期待が会場中を包みこんでいた。

ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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