製作委員会とは別の道を探る若手映画人がアジアで躍動 企画アワード受賞続く納得の背景
アジア最大級の映画祭『第29回釜山国際映画祭』に併設される映画マーケットACFM(Asian Contents & Film Market)、APM(Asian Project Market)が10月5日~8日まで開催され、プログラムごとに日本からもプロデューサーや監督らが参加。セミナーやワークショップへの出席のほか、積極的なミーティングなどでのネットワーキングから、新たな国際共同製作プロジェクトが決まったプロデューサーもいた。
そして、APM企画マーケットの「アジア・プロジェクト・アワード」では、全30企画のなかから、日本の3つのプロジェクトが各賞を受賞した。
●ONE COOLアワード
『Life Redo List』外山文治監督、井手陽子プロデューサー(アスミック・エース)
●TAICCAアワード
日台合作『Until That Day』松永大司監督、西川朝子・小川真司・Chang Sanlingプロデューサー(BRIDGEHEAD・Sky Films Entertainment)
●ARRIアワード
『90 meters』中川駿監督、辻本珠子・宇田川寧プロデューサー(TBS)
(受賞に関する詳細記事:TBS、アスミック・エースがアジアで栄誉 釜山映画祭「アジア・プロジェクト・アワード」受賞)
若手プロデューサー、監督のプロジェクトがアワード主要賞を受賞した今年7月の『第28回プチョン国際ファンタスティック映画祭』マーケットに続き、アジアにおける日本映画のストーリーテリングやアイデアなど企画性への評価の高さが示された。
国内では、一部の大作を除いた実写日本映画の興行成績の縮小傾向が続き、製作費が集まりにくくなる一方、アジアマーケットでは次世代を担う若手プロデューサーたちが躍動している。いま高い評価を受ける彼らの作品が世に出る2〜3年後には、アジア興収でヒットを連発する日本映画の新たな時代が到来しているかもしれない。
(関連記事:吉田大八監督、村上リ子監督が韓国プチョン映画祭で異例の栄誉 アニメだけではない日本映画が示した存在感)
日本インドネシア合作プロジェクトが決定
ACFMのプロデューサー向けプログラム「プラットフォーム釜山」には、日本から4人が参加。毎日行われる企画ピッチングに参加しながら、ワークショップやセミナーを通してプロデューサーとしての知見を深めるとともに、世界の映画人との交流を広げた。
日本からの参加者の1人である、東映で日韓合作プロジェクトを進めるチョン・ジニュン監督は、日韓のキャスト、スタッフが参加し、両国で撮影する作品を企画している。東映の小杉宝氏、さざなみの吉原裕幸氏の両プロデューサーと一緒に、韓国での製作パートナー探しや資金調達に向けて積極的にミーティングを持っていた。
昨年同プログラムに参加し、今年2回目となった古山知美プロデューサーは、今回のマーケットでインドネシアのプロデューサーとの4ヵ年計画で2本の合作映画を製作するプロジェクトの始動が決まった。
その1本目の『The Heirlooms』は、インドネシア主導で古山氏はマイナープロデューサーおよび女優として参画。2本目は『Dame Torment』を自らの主演、プロデュースでインドネシアのサポートを得ながら進めていく。まずは1本目の資金調達にそれぞれの国で動き、同時に制作準備を進めながら2026年の撮影開始を目指す。
今年初めて同プログラムに参加した村上リ子監督は、自身のピッチングのあと、さまざまなワークショップに参加。映像以外にもゲーム関係などいろいろなジャンルのエンターテインメント関係者とネットワーキングできたことを成果とし、「自分の足りない部分も感じられたので、より成長できるようにがんばりたい」と話す。
アジアのプロデューサーネットワーク構築へ
今年新たに始動したプログラム「プロデューサーハブ」は、アジアにおける国際共同製作のためのプロデューサー間のネットワーク構築を目的にし、世界19ヵ国から125人のプロデューサーが集まったなか、日本からは8人が参加した。
参加者たちは、各国の助成制度やファンド、プロジェクトなど映画製作に関する最新の情報共有のほか、さまざまなコンテンツ分野のプロデューサー間の国および業界横断的な交流を図った。
2日間のプログラムを終えた藤田可南子プロデューサーは「スピードミーティングやランチョンで多くの国の方と知り合えて、いろいろな話を聞けました。自由時間に回った出展ブースでは、ほかのビジネスの場とは異なる、映画祭マーケットならではのコミュニケーションがありました。このつながりをこれから役立てていきます」と笑顔を見せる。
藤田プロデューサーは、「プラットフォーム釜山」に参加した村上監督とともに、2人で手がけるプロジェクト『押しボタン症候群』の制作に向けてセールスやマーケティングにも動いていた。
『押しボタン症候群』は、今年7月の『第28回プチョン国際ファンタスティック映画祭』の企画ピッチングプログラム「NAFF It Project」でアジアン・ディスカバリー・アワードを受賞、『第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭』の企画コンペ「WomanInFAN」でファイナリストメンションを受賞するなど、世界が注目するプロジェクトだ。
一方、サイバー・エージェントの佐藤菜穂美プロデューサーは、アート系作品を企画するなか、本プログラムに参加。その理由を「日本では作家性の高い作品を商業的に成立させるのが難しい。そうしたなか資金調達の方法を考えたときに、海外との共同製作をひとつのオプションとして探りたいと思いました」と語る。
佐藤氏は前職のGAGAやNetflix時代に映画祭マーケットには参加しているが、プロデューサープログラムは初めて。今回の参加では「いま自分が抱えている課題に近いことを解決してきた方や、それを別の形にして成功している方に話を聞くことができ、とても有意義な時間でした。企画に対しても、ソリューションの相談ができたり、新しい企画を立てるうえでの国際合作におけるひとつの指針を得られました。今後の自分のキャリア戦略を形成していくうえで、とても有益な機会になっています」と手応えを得ていた。
監督も参加し例年以上ににぎわったVIPOブース
映像化へ向けたIPセールスの場になる「ストーリーマーケット」は、近年のACFMが力を入れているプログラムになり、年々規模が拡大している。今年もエリアが広がり、活発なミーティングが繰り広げられた。
日本からは6社(講談社『ねずみの初恋』、早川書房『魔術師』、KADOKAWA『エレファントヘッド』、徳間書店『愚かな薔薇』、日米出版『リト』、Vesuvius Pictures『希望の国のエクソダス』)が参加した。
日本IPは世界中から関心を集めているが、各社それぞれのファンタジー絵本、小説、コミックは、映像原作として注目され、多くのミーティングが持たれていた。
また、ACFM展示エリアに設けられたVIPOブースには、4作品(分福『thatdrive』、コギトワークス『Distance』『春雷』、DASH『石田徹也』)が出展された。
今年特徴的だったのは、それぞれの作品のプロデューサーだけでなく、監督も現地入りしてミーティングなどに参加していたこと。
監督が直接語る熱量の高いミーティングが活発に行われていたほか、自ら外国のブースに売り込みをかけ、国際共同製作を掲げて世界とのネットワークを構築しようとする若手監督、プロデューサーの姿が印象的だった。
進化している若い世代の映画人のマインド
一方、企画マーケットのAPMには、日本から4社(TBS『90 meter』、アスミック・エース『Life Redo List』、NEOPA『Burden to Carry』、BRIDGEHEAD・Sky Films Entertainment日台合作『Until That Day』)が参加。
メインステージでのショーケースでは、それぞれの企画ピッチングや作品プレゼンが行われ、世界中からの出資社、プロデューサーなど映画関係者、映画祭担当者の注目を集めた。
企画コンペティションの「アジア・プロジェクト・アワード」では、前述の通り、全30作のなかから日本の3つのプロジェクトが受賞。日本映画が存在感を示した。
毎年参加している映像産業振興機構(VIPO)の統括部長兼グローバル展開事業部長・森下美香氏は、今年のACFM、APMに関して「来場者が圧倒的に増えている」と話す。そして、若い世代のプロデューサーや監督たちが英語で積極的にミーティングに参加している様子から「若い世代の映画人のマインドがこれまでとは変わっていることを感じる」と時代の流れを指摘した。
今年新たなプログラム「プロデューサーハブ」をローンチした同マーケットだが、会期中を通して積極的にネットワーキングに動いた若い世代のプロデューサーたちは、それぞれの目的に対しての成果を得ていた。森下氏は「プロデューサーの階層別のプログラムができたことに意義がある」と同マーケットを評価する。
日本映画がアジアを市場にする未来へ
今年は、独立系プロデューサーだけでなく、大手映画会社の企画マーケットでの動きも目立った。国際共同製作のためのプロジェクトを始動させた東映のほか、TBSやアスミック・エースもそれぞれの企画をアジア市場に持ち込んでアピールしている。そしてそれが、アワード受賞という結果につながり、アジアおよび世界市場からの日本映画企画への期待の高さが、評価として示された。
日本映画への世界からの関心は高く、マーケットに出ればチャンスは多くある。これまでは完成した作品の売買がメインだったが、これからは、企画の段階からアジアへ売り込み、一緒に作って国際市場で売る時代がはじまろうとしている。
そこに積極的にアプローチする若い世代のプロデューサー、監督たちにとって、世界で成功するためのネットワーキングに励むのは特別なことではない。国際映画祭はそのための絶好の機会であり、当たり前のことをしているだけ。
英語が堪能な人もそうでない人も、アジアの英語ネイティブではない人同士で熱量高いコミュニケーションを図っており、そこからはプロデューサーそれぞれの成果が実際に生まれていた。
アジアを市場にする彼らの企画が世に出てくる2〜3年後には、これまでの国内興収に頼る製作委員会の商業大作映画とは異なる、アジア興収を基準にするようなヒット軸が生まれてくるかもしれない。
そしていずれ、それがメインストリームになり、彼らが日本を含むアジアの映画市場のメインプレイヤーになる時代が到来する。そんな時代の流れのはじまりを感じさせるマーケットだった。
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