ドラマ制作の根本が10年前と変わらないテレビ業界 新時代に向けたOTTの役割への期待
今期ドラマを見ていて思うことがある。
NHK土曜ドラマ『3000万』(NHK総合)が群を抜いておもしろい。
本作はNHKの脚本開発プロジェクトから生まれた若手脚本家4人の共同執筆による連続ドラマ。ごくふつうのありふれた家族が、深夜の山中という誰にも見られていないシチュエーションで、目の前に3000万円が置かれる事態に遭遇し、出来心と生活を楽にしたい欲から懐に入れてしまう。
しかし、それは特殊詐欺グループの金であり、反社会組織の人物をリーダーにする素人の若者たちとの闇バイトに巻き込まれていく。
そこで描かれるのは、いままさに社会問題になっている事象や事件を題材にした、子どもを巻き込んだある家族の後悔と葛藤と苦しみの物語であり、いまの社会をリアルに反映したヒリつかせる人間ドラマになっている。
時代に求められるドラマ制作の抜本的な変革
毎期数多くのドラマが放送されるなかで、ごく一部を除いて、ほとんどのドラマに驚きや新しさが感じられず、まるでそれが当たり前のように3ヶ月が過ぎ去っていく。そして、次の期にはまた同じようなドラマばかり出てくる。
そんななかで『3000万』が異色の輝きを放つ背景には、その制作手法において、従来の日本村のテレビ業界とは一線を画す取り組みがあったからではないだろうか。
若手の脚本家の起用はあちこちで進められているが、ここ数年のドラマからは、根本的なドラマの作り方が変わらない以上、生まれてくるドラマが大きく変わることはないことを感じる。
そこで思うのは、現場プロデューサーの世代交代を一気に進めたらどうなるかということ。
メディア環境がこれだけ変わっている時代に、10年前と変わらぬドラマが多く生まれている背景には、テレビ局や制作会社の会社員プロデューサーたちが、組織のなかで連綿と受け継がれてきた、それまでのクリエイターとのネットワークや制作手法を脱していないことがあり、そこへの危機意識が薄いことに起因する気がする。ただ、今期でも名作はあり、そういう一部を除いて。
もちろんテレビ業界の文化のよいところもたくさんある。しかし、ドラマ制作においては、制作の根本に井戸の外の若い血を入れることで外の世界とのつながりを深め、いまの社会とリンクしていかないと時代に取り残される。そう感じさせられるドラマが多い。
映画業界では若手の独立系プロデューサーがアジアで高評価
Netflixでは、映画業界から移ったプロデューサーが話題作を連発している。
そこで思いを馳せたのは、アジアで評価を受ける若手のインディペンデント系プロデューサーたち。彼らを取り込んだら、きっとこれまでとは違うものが生まれるに違いない。
今年の夏と秋に韓国で開催されたアジア映画企画マーケットを見てきたが、20代をはじめとする若手日本人プロデューサーたちが、アジア各国のプロデューサー、制作会社、投資家、映画団体に向けて、英語でオリジナル企画をプレゼンし、日本の企画力を示すのと同時に高い評価を受けていた。
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とくに、藤田可南子プロデューサー、古山知美プロデューサー、村上リ子監督らは、企画コンペティションで主要賞を受賞したり、インドネシアとのプロジェクトを始動させたりと、すでにアジアで顔を売り、注目される存在になっている。
彼女たちには、アイデアがあり、海外に出てそれを英語でプレゼンする行動力とエンターテインメントへの熱量を持ち合わせ、自ら道を切り開いていくバイタリティに満ちあふれている。
そんな世代が日本村のドラマシーンに加われば、景色が変わってくるのではないかと思わせられる。とうとつにただ韓国俳優が登場するようないまの日本ドラマとはフェーズが異なる、世界市場を意識したドラマ制作に変わり、世界ヒットが当たり前になっていく時代が来るかもしれない。
それは、グローバルプラットフォームのローカルプロダクションなどOTTに期待することでもある。
ヒットメイカーのクリエイターを取り込むことで、従来のテレビドラマや映画の延長のような話題作を連発する一方、次なる時代の日本のエンターテインメント創出に向けて、若い才能を発掘し、育てていく役割を担うことが期待される。
そこからエンターテインメントメディアをけん引する、確固たる主役になる時代へとつながっていくのではないだろうか。