シリーズ続編ばかりのハリウッド大作への危機感 求められる多義的な“洋画復興”
コロナ禍以降の深刻な洋画市場の冷え込みが続いている。一昨年、昨年の邦画と洋画のシェアは7対3ほど。今年は夏までで8対2ほどと見られている。
1990年代から2000年代初頭は洋画シェアが6〜7割だった。その後、邦画に逆転されるが、2010年代後半の邦洋比は5.5対4.5ほど。なんとか5割ほどを保っていた。その均衡がコロナ禍で大きく崩れた。
近年の洋画市場のシュリンクは留まるところを知らず、シェアが下がり続けている。しかし、今年はわずかな追い風が吹いた。
社会的話題作など洋画の情報が飛び交った
今年の洋画の社会的なトピックといえば、まず3月公開の『オッペンハイマー』だろう。原爆の父と呼ばれた科学者を描くことから日本公開に紆余曲折あったが、アカデミー賞を総なめにして注目を集め、その内容や映像演出に賛否の声があがるなど社会的な話題になりながら、興収15億円を超えた。
そして、夏からは景気のいい話題が飛び交う。夏興行の本命だった『インサイド・ヘッド2』(53億円超え)はコロナ禍以降初のディズニーの50億円突破作品になったほか、『デッドプール&ウルヴァリン』(21億円)はシリーズ最高興収を記録し、『エイリアン:ロムルス』も前作を上回る10億円に迫るスマッシュヒット。
ほかにも、ハリウッドメジャー作品ではない『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の週末映画動員ランキング1位獲得や、米国で賛否両論を巻き起こした『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の作品性も話題になり、ネットニュースをにぎわせた。
近年すっかりちまたの話題にのぼることが少なくなっていた洋画だが、今年は状況が変わりつつあることを感じさせる。
著書『アメリカ映画に明日はあるか』でこの20年間の洋画興行を考察する映画ジャーナリストの大高宏雄氏は、「洋画の話題作が多かった年だと思います。個人的には、話題になった作品それぞれ見応えがありましたし、メディアが多く取り上げたことも重要です。興行は、質的側面が最重要ですが、情報が飛び交うことも大きな要素です」と今年の洋画シーンを振り返る。
続編の多さが特徴的だった洋画市場の難しさ
そして、話題になった作品の特徴についてはこう語る。
「人気シリーズや、続編(2作目)の多さも特徴的でした。コロナ禍により製作が遅れるなどして、国内では今年に公開が集中したこともありますが、作品の多彩さは壮観のひと言です。シリーズものの製作には米国でも批判的な見方がありますが、面白い作品が多かった点は強調したいところ。興奮させられる作品が何本もありました」(大高氏)
一方、シリーズ作品には特有の難しさもある。知名度があるから公開すればヒットする、というわけではない。
「もちろん、その面白さは、人によって感じ方が違います。今年のシリーズものの面白さは、やはりシリーズを見ていたり、知っていたりした人が感じることかもしれません。そうでない人には、その良さがなかなか届きにくい。とくに20〜30年以上前の続編になると、客層の広がりはかなり難しくなります」(大高氏)
同じシリーズものでも、洋画ファンでさえタイトルを忘れている作品もあり、そういったシリーズほど「アピールが難しい」という。最近では『ツイスターズ』や『ビートルジュース ビートルジュース』のような作品のクオリティは高くコアファンの支持を得ているものの、大ヒットにはつながらない作品がそれに当たる。
映画業界に不可欠な多義的『洋画復興』戦略
今年の洋画は、近年と比較して話題になっている一方、市場としての積年の課題は山積したままだ。それに対する業界の動きを大高氏はこう語る。
「当然ながら、映画業界も危機感をもっています。映画団体である『映画館に行こう!』実行委員会は今年、『コロナ禍後の映画館観客実態調査』を行いました。『観客実態調査』は以前にも実施していたのですが、コロナ禍によって様変わりした米国などの海外、国内の興行の現状把握と、具体的な対策を講じて、それらを映画業界全体で共有し、改めて考えていこうというものです。
その効果のほどはこれからですが、今後の洋画興行に関しては、さまざまな手立てを考えていく必要があると思います。多義的な『洋画復興』戦略ですね。洋画の面白さを、どのように伝えていくか。それは一筋縄ではいきません。
豊富な情報量、話題性をどう押し出していくか。もはや、洋画、映画だけの問題ではない気もしてきます。日本人の意識のありようにまでかかわる問題であるかもしれません。とはいえ、そのようなことを言っていては何も進むことはない。目先のことより、ある程度先のことを視野に入れる。“洋画復興”には、長期戦が求められるのではないでしょうか」
映画メディアが過渡期を迎えるいま、未来を見据えた戦略的な取り組みが必要になる。ただまずは、冷え込んだ洋画市場の現状を好転させるために、今年の話題性の高さを来年以降にどう継続させていくか。業界が一丸となり、知恵と力を合わせて取り組むべき喫緊の課題だろう。
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