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炎上中のSNSで流行している「顔面シュークリーム」に対する3つの懸念

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

「顔面シュークリーム」が流行

<“顔面シュークリーム”その是非は?>という記事で、「顔面シュークリーム」が流行していると紹介されています。Yahoo!ニュースのトピックスにも取り上げられていました。

若者を中心に、顔にシュークリームを押しつけてSNSに写真をアップする“顔面シュークリーム”が流行している。しかし、「食べ物を粗末にしているのではないか」という声もあり、その是非がインターネット上で話題になっている。「SNS映え」といった言葉も生まれる中で、新たな問題が生まれている。

出典:“顔面シュークリーム”その是非は?

「顔面シュークリーム」とは、シュークリームを投げたり押し付けたりして顔で潰すことです。「顔面シュークリーム」によって、顔や手や服が汚れた様子をSNSに投稿することが流行になっているということです。

私はこれまでに、食とSNSに関する記事を書いてきました。

「顔面シュークリーム」に対しては、食べ物を粗末にしているという批判が向けられていますが、さらに広がってSNS映えが原因のようにも言われています。

私はこの事象に対して以下のことを言及しておきたいです。

  • 食品ロスの発生
  • 食に対するリスペクト
  • SNS映えの違和感

食品ロスの発生

「食べ物を粗末にしている」という批判が最も多いようですが、食べ物を粗末にして食品ロスを引き起こしていることが問題です。

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食品ロスは外食産業における大きな課題であり、農林水産省と環境省が2018年4月17日に発表した最新の統計によると、2015年度の食品ロスは、約646万トンと推計されています。

農林水産省の統計では、2014年度は約621万トン、2013年度は約632万トン、2012年度は約642万トン、それ以前は大まかな約500~800万トンとなっているので、最新の統計である2015年度が最も大きな値となります。

食品ロスの改善がまだ数値として表れていない中で、食べ物を粗末にすることが楽しいことであったり、行ってもよいという風潮になったりすることに危惧を覚えます。

作り手のことを考えたら、ジョークや悪ふざけでシュークリームを潰すことなどできるでしょうか。シュークリームを作る際には、最高の状態で食べてもらうために、注文を受けてからクリームを注入するパティスリーも少なくありません。少しでもおいしく食べてもらいたいと思って作っている人のことを考えたら、心を込めて作られたシュー生地を潰すことなどできません。

工場で製造されている作り手が存在しない場合であったとしても、同じようなものでしょう。シュークリームの原材料となっている小麦粉や卵など、これらの命を無駄にしているからです。シュークリームを意図的に無駄にすることによって、こういった命を無駄にしていることに対して何も思わないのでしょうか。

シュークリームは遊ぶために存在しているわけではありません。シュークリームはシュー生地もフィリングのクリームも、しっかりと全て食べられるスイーツです。従って、どれも無駄にせず、きれいに全部を食べてもらいたいと思います。

お腹が一杯になったり、好みに合わなかったりして、全てを食べきれずに食べ残すこともあるでしょう。これも同じく食品ロスとなります。しかし、最初から食べ物を粗末に扱って食べ残してしまう食べ方と、全てを食べようとして食べ残してしまう食べ方とでは、食べ物を大切にしようとする考え方が異なるので、中長期的に鑑みれば食品ロスの分量は違ってくるのではないでしょうか。

ちなみに、演出のために用いられるシャンパンタワー、もしくは、かけ合うために利用されるビールかけも、「顔面シュークリーム」と同じようなものです。食べたり飲んだりすることを最優先にしない食料品は、捨てるために浪費することと同じではないでしょうか。こういった行為は、謙虚さを忘れた残念な自己満足であり、とても褒められるものではないと思います。

食に対するリスペクト

では、もしも「顔面シュークリーム」に使われているシュークリームが食用でなければよいのでしょうか。

例えば、以前まではよく、テレビのお笑い番組で、パイを投げあったり、相手の顔に押し当てたりする場面が見掛けられました。こういったパイは食べるために作られたパイではありません。単に紙のパイ皿にホイップクリームが載せられていたり、場合によっては、ホイップクリームですらなくシェービングクリームが使われていたりすることもあります。

このように食用ではないフェイクであったとしても、私は賛成しません。というのも、本当は食べ物ではないとしても、食べ物のようなものを粗末にしている映像が流されることによって、食に対するリスペクトが失われてしまうと思うからです。

テロップで「食用ではありません」「シェービングムースです」と表記があったとしても、パイのようなものを投げている時点で、視聴者にはパイを投げているように感じられるでしょう。その様子がYouTubeやテレビなど、多くの人が視聴するプラットフォームで放送されることによって、パイは投げてよいものだという認識に至る人は少なくありません。

割れ窓理論でも言及されているように、些細なことから食に対する尊厳は失われていくように思います。幼い頃に、お茶碗に残ったお米一粒も食べるように教育された人と、食事はいつもカップラーメンであったり、好き嫌いがあって残しても何も注意されなかったりした人とでは、食べ残しや食品廃棄に対する考えが全然異なるのではないでしょうか。

SNS映えの違和感

「顔面シュークリーム」がSNS映えを狙ったものであるのではないかという批判もありますが、SNS映えに責任を転嫁しているだけのような気がしています。

これからはますますインターネットの時代となり、個人がSNSで発信する機会も増えていくことは確かでしょう。そうであれば、「顔面シュークリーム」をSNS映えのせいだと批判するだけではあまり意味がありません。

なぜならば、インターネットや個人が発信するSNSが加速度的に発展していくこの世の中で、ただSNS映えが悪いとだけ述べても何も改善されないからです。もしも、「顔面シュークリーム」はSNS映えのせいだから、この世界からSNSをなくすことはもちろん、インターネットも消滅させるべきであると述べるのであれば、極論であり、支持はされないかも知れませんが、批判の論理はまだ理解できます。

SNS映えがなければ、「顔面シュークリーム」をアップロードする機会はないのかもしれません。しかし、SNS映えのためだけに、人は急にシュークリームを躊躇なく押し潰せるようになるのでしょうか。

食は人間の本能と直結しているだけに、食の習慣はその人のバックグラウンドや日々の行動に大きく関与しています。それだけに、いくらSNS映えがトレンドになっているからといって、普段は米一粒も残さない人が、突然シュークリームを平気で潰すようになるとは、とても思えません。

もともと、食に対するリスペクトが低い人がSNS映えを通して「顔面シュークリーム」という食への冒涜を発露しているだけではないでしょうか。そうであるとすれば、食の豊かさや素晴らしさを促進することにもなるSNSを批判するのではなく、食育が不足しているのではないかという論につなげなければ前進しないと思います。

食育が重要

「顔面シュークリーム」の流行に対して、多くの方が食べ物を粗末にしたという感覚を持っていたことはまだしもの幸いですが、それが食品ロスにつながったり、食への尊厳を低下させたりしていることは非常に重要なことです。

ただ、食に関連した問題が起こる度に、何でもかんでもSNS映えのせいであると結論付けるだけで満足してしまっては、インターネットやSNSがますます発展していく現代においては、ほぼ何も述べていないに等しいでしょう。

「顔面シュークリーム」のようなつまらないことが流行しないようにするためには、食を粗末に扱って見世物にする感覚が普通とならないように、しっかりと食育を行っていくしかないと私は考えています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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