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米主導の有志連合にシリアを爆撃させ、無用となったアル=カーイダ系戦闘員を殺害させるトルコ

青山弘之東京外国語大学 教授
Sham Network、2019年10月31日

有志連合がまたしてもイドリブ県を爆撃

シリア北西部のイドリブ県で10月22日、米軍が主導する有志連合(生来の決戦作戦合同部隊(CJTF-OIR))がまたもや無人航空機(ドローン)で爆撃を行った。

爆撃が行われたのは、トルコ国境に近いジャカーラ村。シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安権限を掌握する地域。「シリア革命」の支持者が「解放区」と呼ぶ地域だ。

有志連合のドローンは、2020年に入って、6月14日、6月24日、8月13日、9月14日、10月15日にイドリブ県で爆撃を敢行し、フッラース・ディーン機構の外国人司令官ら8人を殺害している。

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フッラース・ディーン機構は、2018年2月に結成された新興のアル=カーイダ系組織。指導者のアブー・ハマーム・シャーミーは、アル=カーイダのメンバーとしてアフガニスタンやイラクでの戦歴を持ち、ヌスラ戦線メンバーでもあった。だが、ヌスラ戦線が2016年にアル=カーイダとの関係を解消したことを不服として離反、アル=カーイダの「再興」をめざして、フッラース・ディーン機構を結成した。

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有志連合はこれまでにもイドリブ県に対して爆撃を行ったことはある。例えば、2014年11月と2015年9月には、ホラサーンなる組織(実在していたかどうかは不明だが)に対する攻撃を行った。また、2019年に入ると、8月31日、12月3日に爆撃を実施し、新興のアル=カーイダ系組織の一つアンサール・タウヒードとシャーム解放機構の司令官ら5人を殺害していた。

だが、2020年半ば以降、爆撃の回数は増加傾向にある。なぜだろう?

詳細

有志連合の爆撃が頻度を増す理由を考える前に、Eldorar、Orient-news、Nedaa-sy、Enabbaladiといった反体制系メディア、英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団、そしてシャーム解放機構に近い「シリア革命の轟き」を名乗るSNS(ツイッター、インスタグラム)をもとに、今回の爆撃を詳しく見ておこう。

有志連合所属のドローン1機(シリア人権監視団によると有志連合所属と思われるドローン)が10月22日晩、ジャカーラ村の農場を爆撃した。標的となったのは農場に設営されていたテント。

農場の所有者はサーミル・スアードなる人物で、「シリア革命の轟き」によると25人以上(反体制系サイトやシリア人権監視団によると15人以上)が死亡、多数が負傷した。

氏名や所属が判明している犠牲者は以下の通り。

  • サーミル・スアード(シャーム解放機構の治安部門関係者、ただしEldorarによると地元の名士)
  • ムハンマド・ウライウィー・シャーシュ・アブー・ハサン(地元名士、アカイダート部族)
  • アフマド・ジャースィム(Eldorarによると民間人)
  • イブラーヒーム・スアード(サーミル・スアードの兄弟、シャーム解放機構治安部門関係者、Eldorarによると民間人)
  • アーミル・スアード(サーミル・スアードの兄弟、シャーム解放機構治安部門関係者、Eldorarによると民間人)
  • アブー・タルハ・ハディーディー(ファトフ大隊司令官)
  • ハンムード・スィハーラ(ヌスラ戦線アレッポ支部創設者、その後離反し、ファトフ大隊司令官となる)
  • ファーティフ・スィハーラ(ハムード・スィハーラのドライバー兼護衛)
  • ウサーマ・ムハージル(外国人、フッラース・ディーン機構司令官)
  • ウサーマ・ムハージルとともにシリアからトルコに密入国しようとしていたムハージリーン(外国人戦闘員)4人
  • ハーッジ・アフマド(フルネーム不明、民間人)
  • アブー・ハフス・ウルドゥンニー(ヨルダン人戦闘員、所属組織なし)

死傷者は、シャーム解放機構の支配下にあるサルキーン市の病院に搬送された。

殺害されたのは、いずれもシャーム解放機構と対立していた人物。爆撃が行われた時、彼らはテントのなかで夕食をとりながら、会合していたという。これに関して、「シリア革命の轟き」は、フッラース・ディーン機構と無所属の戦闘員の和解に向けた協議がテント内で行われていたとの情報があったとしている。またOrient-newsは、シャーム解放機構に近い複数のアカウントから収集した情報として、「堅固に持せよ」作戦司令室に所属していたファトフ大隊の会合が行われていたと伝えている。

ファトフ大隊は、ハマー県北部で活動していた武装集団。同地がシリア政府の支配下に復帰して以降、イドリブ県に転戦し、活動を継続していた。シャーム解放機構、トルコの支援を受ける国民解放戦線(シリア国民軍、Turkish-backed Free Syrian Army)、両組織が主導する「決戦」作戦司令室に属さない「無所属」の組織で、Enabbaladiによると、重火器は保有しておらず、戦闘員の数は約500人(2019年半ば時点)だという。

また、「堅固に持せよ」作戦司令室は、6月12日にフッラース・ディーン機構がジハード調整、アンサール戦士旅団、アンサール・イスラーム集団、アンサール・ディーン戦線といった新興のアル=カーイダ系組織と結成した武装連合体。シリア・ロシア軍との徹底抗戦を主唱したが、3月5日にロシアとトルコが交わした停戦合意を遵守しようとするシャーム解放機構と衝突、6月26日に解体を強いられていた。

Enabbaladi、2019年7月19日
Enabbaladi、2019年7月19日

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なお、シリア人権監視団は、犠牲者のなかに、イスラーム国の元治安部門関係者だったシャーム解放機構メンバーが含まれていたと指摘しているが、その氏名については明らかにしていない。

有志連合に「テロとの戦い」を代行させるトルコの思惑

有志連合が爆撃を行ったイドリブ県の「解放区」は、ロシア、トルコ、そしてイランがアスタナ会議で緊張緩和地帯第1ゾーン第3地区に指定した地域。同地は、トルコのイニシアチブのもとに反体制派をテロ組織と「合法的な反体制派」に峻別し、前者を撲滅、後者とシリア政府を休戦させることが、ロシア、トルコ、イランによって合意されている。

ロシアとトルコが3月5日に交わした停戦合意では、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路の安全を確保することが決められ、両国が合同パトロールを実施するなどしてきた。

これに対して、アル=カーイダの系譜を汲む組織の対応は割れた。シャーム解放機構や、国民解放戦線に属するシャーム自由人イスラーム運動は、合意に従う姿勢を示したのに対して、フッラース・ディーン機構をはじめとする新興のアル=カーイダ系組織は、シリア・ロシア軍との徹底抗戦を主張した。

前述の通り、フッラース・ディーン機構などの主戦派は、6月末にシャーム解放機構との戦闘に破れて弱体化した。シャーム解放機構は現在もフッラース・ディーン機構の司令官や戦闘員の摘発を続けている。

アル=カーイダによるアル=カーイダの粛正は、トルコの指示によるものだとされる。また、今回の爆撃は、有志連合が実施したが、イドリブ県の「解放区」、すなわち緊張緩和地帯第1ゾーン第3地区には、トルコ軍が70以上の監視所、拠点を設置し、シリア・ロシア軍の停戦違反だけでなく、反体制派の動きを監視している。トルコ軍が同地で「索敵」を行い、有志連合に情報を提供したと考えるのが妥当だろう。

だが、緊張緩和地帯第1ゾーン第3地区での「テロとの戦い」(そして停戦)を主導すべきトルコは、シャーム解放機構と有志連合にそれを代行させ、自らが直接手を下すことはない。フッラース・ディーン機構などのアル=カーイダ系組織は、ロシアとトルコの停戦合意に反発を続けているとはいえ、シリア・ロシア軍に長らく対峙し、シリア国内でのトルコの権益拡大に寄与してきた功労者だからだ。あからさまに彼らを切り捨てるような行為は、大きな反発を招くかもしれいない。

事実、イドリブ県内でトルコ軍が襲撃される事件も散発している。「シリア革命の轟き」は今回の爆撃について、トルコに外国人戦闘員を密入国させようとしていたために敢行されたとしている。

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有志連合、そしてシャーム解放機構に「テロとの戦い」を代行させるのは、かつての功労者が自らに牙をむくのを回避しようとするトルコの巧妙な戦術だと言える。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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