「シリア革命」継続を訴えるデモが誰の目にも触れず続けられる中、イドリブ県でトルコ軍拠点が襲撃を受ける
見捨てられた革命運動
自由と尊厳の実現をめざす「シリア革命」の熱烈な支持者さえも関心を示さなくなったシリア北西部のイドリブ県。
「解放区」と称される同地では、8月28日、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路沿線のアリーハー市で、革命継続をめざす抗議デモが行われた。
廃墟に集った参加者たちは、巨大な革命旗(委任統治領シリアの国旗)の垂れ幕を前に、肩を組んで歌い、体制打倒を主唱し、自らの町や村をシリア軍から解放し、避難生活を余儀なくされている住民を帰還させるよう訴えた。
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、抗議デモは、同地一帯に展開するトルコ軍部隊の通過に合わせて行われたという。
だが、ザマーン・ワスル、イナブ・バラディー、オリエント・ネット、シャーム・ネットワークなど、革命を唱導してきた名だたる反体制系サイトがこれを報じることはなかった。当然のことながら、こうした不断の営為に連帯を示そうとする動きも見られなかった。
(デモを唯一報じたUFUQが配信した映像)
トルコ軍の拠点が襲撃を受ける
こうしたイドリブ県では、これまでとは異なった新たな事件が発生した。
シャーム・ネットワークによると、8月28日にM4高速道路沿線の要衝都市ジスル・シュグール市の南に位置するサッラト・ズフール村で、トルコ軍の拠点を狙った攻撃が行われたのだ。
拠点は、村の中学校をトルコ軍が接収し、軍事転用したもの。
ジスル・シュグール市一帯は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの支援を受ける国民解放戦線(国民軍、Turkish-backed Free Syrian Army:TFSA)を主体とする「決戦」作戦司令室の支配下にあり、中国新疆ウイグル自治区出身者によって構成されるトルキスタン・イスラーム党が活動を続けている。
トルコは、イドリブ県での戦闘停止とM4高速道路の安全確保を骨子とした3月5日のロシアとの停戦合意に基づいて、県内各所に71もの監視所や拠点を設置している。
攻撃は正体不明の武装集団によって行われた。
彼らは、爆弾を仕掛けたオートバイ(シリア人権監視団によると車)で突入を試みたが、トルコ軍部隊と、警備にあたっていたシャーム軍団が、拠点に到達する前にこれを破壊した。
だが、その際の爆発で警備にあたっていたシャーム軍団のメンバー1人(シリア人権監視団によると住民1人)が死亡した。
シャーム軍団とは、国民解放戦線を主導する武装集団の一つでシリア・ムスリム同胞団の系譜を汲む。
武装集団は、オートバイが爆発した後も攻撃を続け、シャーム軍団数人を負傷させた。これに対して、トルコ軍部隊が応戦したが、無差別発砲の巻き添えとなって住民多数が負傷したという。
シリア人権監視団によると、この事件と前後して、アリーハー市の南に位置するダイル・サンバル村でも、国民解放戦線に所属するハムザ師団の本部が正体不明の武装集団の襲撃を受け、戦闘員複数が負傷した。
事態を受けて、トルコ軍はイシュタブリク村(ジスル・シュグール市南)からナフラヤー村(アリーハー市北)にいたるM4高速道路沿線一帯で厳戒態勢を敷き、無人偵察機(ドローン)を投入して偵察活動を強化した。
M4高速道路沿線では、8月17日と25日にロシア・トルコ軍合同パトロール部隊が、RPG弾による攻撃を受けて、トルコ軍装甲車とロシア軍装甲車が被害を受けるという事件が発生している。
いずれの攻撃も「ハッターブ・シーシャーニー大隊」を名乗るグループが関与を認める声明を出した(「シリアのイドリブ県で「ハッターブ・シーシャーニー大隊」を名乗るグループがロシア軍を襲撃」を参照)。今回のトルコ軍拠点への攻撃がこのグループによるものかどうかは不明である。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)