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シャーム解放機構は「堅固に持せよ」作戦司令室を武力で圧倒、「シリア革命」の覇者としての存在を誇示

青山弘之東京外国語大学 教授
Alsouria、2020年6月28日

シャーム解放機構の迎合がもたらした対立

シリアのイドリブ県で6月23日に激化したアル=カーイダ系組織どうしの武力衝突は、4日目となる26日に停戦合意が交わさせることでひとまず決着した。

衝突していたのは、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)と同じくアル=カーイダの系譜を汲む「堅固に持せよ」作戦司令室。

シャーム解放機構は、トルコの支援を受ける国民解放戦線(国民軍)と「決戦」作戦司令室を結成し、イドリブ県ザーウィヤ山地方、ハマー県ガーブ平原、ラタキア県トルコマン山地方でシリア軍と散発的に交戦を続けている。だが、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路沿線の南北に総幅12キロの「安全回廊」を設置することを定めた3月5日のロシアとトルコの合意に従い、同高速道路沿線から部隊を撤退させるなど、支援国であるトルコに従順な姿勢を示すようになっている。

一方、「堅固に持せよ」作戦司令室は、こうした動きに反発する新興のアル=カーイダ系組織のフッラース・ディーン機構が6月12日に、ジハード調整、アンサール戦士旅団、アンサール・イスラーム集団、アンサール・ディーン戦線とともに結成した武装連合体。シャーム解放機構の迎合に異を唱えて、離反した幹部やメンバーも多数これに参加した。

その筆頭にあげられるのが、シャーム解放機構指揮下のタウヒード・ワ・ジハード大隊を率いていたウズベク人司令官アブー・サーリフ・ウーズビキー(本名スィロジディン・ムフタロフ)、2014年のダマスカス郊外県マアルーラー市襲撃と聖タクラー教会修道女拉致の首謀者であるアブー・マーリク・タッリー(本名ジャマール・アイニーヤ)らである。

戦闘は、シャーム解放機構がこれらの元幹部を逮捕したことを受けて発生していた(「シリアでアル=カーイダどうしの戦闘が激化する中、トルコ軍は政府軍を砲撃、有志連合もドローン爆撃を実施」を参照)。

劣勢に立たされる「堅固に持せよ」作戦司令室

攻撃を仕掛けたのは「堅固に持せよ」作戦司令室だった。6月23日、イドリブ市西にあるシャーム解放機構の検問所(クーンサルーワ検問所)を襲撃し、これを制圧したのだ。

これに対して、シャーム解放機構もイドリブ市近郊にある「堅固に持せよ」作戦司令室の検問所を襲撃、両者はイドリブ市の北西に位置するアラブ・サイード村一帯やルージュ平原で激しく交戦した。

戦闘は、シリア北西部の「解放区」における軍事・治安権限を握るシャーム解放戦線が終始に進め、「堅固に持せよ」作戦司令室は徐々に劣勢を強いられていった。

6月25日、フッラース・ディーン機構は、戦闘を停止させるために仲裁を開始したジスル・シュグール市一帯の地元名士、シャイフ、ウラマーの要請に応じるかたちで、24日の戦闘で制圧したヤアクービーヤ村の検問所から撤退、ジスル・シュグール市北のザルズール村方面に移動した。

だが、この仲裁に関して、シャーム解放機構は声明を出し、「道路を封鎖し、検問所を設置した側が戦闘を停止し…、戦闘は、「解放区」の治安と安定を見出した者への制裁と再発防止をもって終わる」と表明、ルージュ平原地方に増援部隊を派遣した。

停戦合意

「堅固に持せよ」作戦司令室は6月26日、シャーム解放機構の攻勢を回避するため、声明を出し、同機構の傘下で活動するチェチェン人戦闘員からなるジュヌード・シャームとコーカサスの兵の仲介のもとに交渉に応じる用意があると表明した。「堅固に持せよ」作戦司令室はまた、シャーム解放機構が逮捕したウズベキーやタッリーらの処遇を協議するための司法委員会を設置し、交渉を行うことを求めた。

シャーム解放機構はこの声明に応じ、6月26日、両者は停戦合意を交わした。

合意は以下5項目からなっていた。

  1. アラブ・サイード村、ルージュ平原一帯での戦闘を停止し、同地に設置した検問所や監視所を撤去する。
  2. アラブ・サイード村の「同志住民」(フッラース・ディーン機構メンバーのこと)は、私用の武器を携帯して同地にとどまることを認められる。
  3. アラブ・サイード村から退去を希望する者(フッラース・ディーン機構メンバー)は、私用の武器を携帯して同地を去ることを認める。
  4. 「トルキスタンの同志」(ジュヌード・シャームとコーカサスの兵と思われる)仲介したから告発を受けている「同志」(フッラース・ディーン機構メンバー)について、「トルキスタンの同志」に身柄を引き渡し、法廷で審理を行う。
  5. フッラース・ディーン機構はアラブ・サイード村にある本部を閉鎖し、今後同地に検問所を設置しないことを誓約する。
Eldorar、2020年6月26日
Eldorar、2020年6月26日

かくして、4日続いた戦闘は収束し、シャーム解放機構は、アラブ・サイード村からルージュ平原に至る街道に小火器・中火器を携帯した戦闘員を展開させ、街道を再開、事態収拾にあたった。

一方、「堅固に持せよ」作戦司令室を主導するフッラース・ディーン機構は、アラブ・サイード村にある本部を閉鎖し、同地から撤退した。

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、4日間の戦闘での死者数は29人、うち18人が「堅固に持せよ」作戦司令室側の戦闘員、11人がシャーム解放機構の戦闘員だった。

追い打ちをかけるシャーム解放機構

停戦合意後もシャーム解放機構による執拗な攻撃は続いた。

停戦合意が交わされた数時間語、シャーム解放機構は合意の数時間後、ジスル・シュグール市北のハマーマ村およびその一帯にある「堅固に持せよ」作戦司令室の検問所複数カ所とサルマダー市にある本部を攻撃した。

フッラース・ディーン作戦司令室は声明を出し、「あからさまな裏切り行為」と非難したが、攻撃を前になす術はなかった。

シャーム解放機構はまた6月28日、アラブ・サイード村に至るすべての街道を封鎖し、同村にあるフッラース・ディーン機構の幹部の1人アブー・ウマル・マンビジュ氏の自宅を包囲、同氏を逮捕した。

イドリブ県の覇者としての存在を誇示するシャーム解放機構

シャーム解放機構はさらに6月26日、軍事部門が声明を出し、「決戦」作戦司令室の指揮下に軍事活動を統合するため、同司令室以外の作戦司令室の設置、同司令室の裁定に基づかない軍事組織の結成を禁止すると発表した。

Eldorar、2020年6月26日
Eldorar、2020年6月26日

また、軍事分野での貢献を望む者は「決戦」作戦司令室を通じてこれを行うよう呼びかけた。

この声明を通じて、「堅固に持せよ」作戦司令室の存続を認めない姿勢を示したシャーム解放機構は、「シリア革命」最後の牙城であるイドリブ県の軍事・治安権限を掌握する覇者としての存在を改めて誇示した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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