2020年に反響が大きかった10の事件、その後どうなった?
2020年に配信した拙稿のうち、反響が大きかった10の事件を挙げ、この1年の動きやその後の状況について振り返ってみました。
【第1位】
「政府配布ではない謎のマスクが届いたときの正解は? 「送りつけ商法」の横行に注意」
「マスクの新規制は『転売ヤー』に大打撃 転売サイト側を共犯として立件も」
「マスク転売で1円でも利益得たら犯罪に 問われる警察のやる気と転売サイトの本気度」
拙稿で最も読まれたのは、新型コロナウイルスの流行に伴う深刻なマスク不足に便乗した送りつけ詐欺や、不正転売に関する記事でした。
「新語・流行語大賞」にも『アベノマスク』が入賞したように、2020年を象徴するアイテムはやはりマスクということなるでしょう。
手作りの布マスクやデザイン性、機能性を高めたものなども登場しましたし、「マスク会食」といった言葉まで生まれました。
不正転売の検挙例もいくつかありましたが、需給バランスが落ち着いてきたということで、転売規制は8月29日に解除されています。
【第2位】
「地検前でテンピン麻雀『黒川杯』を開催したら逮捕される? 賭博罪の告発の行方は」
「検事長を懲戒処分せず、退職金6000万円支給は温情? 本来のあるべき処分とは」
検察官の定年延長問題も、芸能人らにツイッターで拡散されるなど、社会の大きな関心を集めました。
極めつけは、「三密」の回避が求められていたさなかに次の検事総長と目されていた黒川弘務氏が新聞記者らと「賭け麻雀」に興じていたことがバレたことでした。
この件で問われるべきは検察幹部とマスコミの「ズブズブ」の関係であり、取材のあり方や捜査当局によるリーク、メディアコントロールにもメスを入れるべきでした。しかし、検察は早々と不起訴にし、早期の幕引きを図ろうとしました。
これに対し、告発人らが検察審査会に審査を申し立てたところ、黒川氏について単純賭博罪で「起訴相当」、記者ら3人について「不起訴不当」の議決が下っています。
検察による再捜査が行われていますが、「身内に甘い」と批判されないように、改めて徹底した捜査を尽くし、検察自らの判断により、黒川氏らに対する厳正な刑事処分が求められます。
【第3位】
「国や自治体の給付金に税金はかかる? 知っておきたい課税と非課税の境界線」
2020年は、外出・営業自粛要請などに伴う経済活動の冷え込みを踏まえ、国や自治体からさまざまな給付金や協力金などの支給が行われた1年でもありました。
ただ、課税されるものと非課税のものがあり、自分が給付の対象なのか否かといった点だけでなく、課税の対象か否かについても注意しておく必要があります。
何かと話題の「Go To Eat」や「Go To トラベル」も、予約サイトを通じて付与されるポイントや食事券のプレミアム分、旅行代金の支援額分は「一時所得」として課税の対象になります。
50万円分の特別控除があるので、生命保険の一時金や損害保険の満期返戻金など一時所得に分類されるほかの収入と合わせて50万円を超えていなければ確定申告や納税は不要ですが、度が過ぎると課税の問題が生じるということを知っておくとよいでしょう。
【第4位】
「『10万円が2回振り込まれてラッキー』誤入金された給付金、使ったら犯罪になる?」
「きょうから受付始まる持続化給付金、不正受給を防ぐには? 審査がザルのおそれも」
国から1人10万円の特別定額給付金が支給されるという一大イベントもありましたが、事務負担が増え、自治体にしわ寄せがいき、入金の誤りなども目立ちました。
便乗詐欺も活発であり、「2回目の特別定額給付金の特設サイトを開設しました」といったうたい文句で総務省や自治体などを語ったフィッシング詐欺メールも横行しています。
絶対に引っかからないように注意を要します。
一方、コロナ禍の事業者救済策として始まった持続化給付金ですが、指南役の助言で学生らまで安易に不正受給に手を染める事態となりました。たとえ1件100万円でも立派な詐欺です。
現に次々と警察による捜査のメスが入り、逮捕者も続出している状況です。
【第5位】
「『倍返し』のためならなんでもあり? 半沢直樹が再び犯した検査忌避罪とは」
新型コロナウイルスの驚異は人気ドラマの撮影・放映スケジュールにも影響を及ぼしました。7年ぶりの登場となった『半沢直樹』もその一つでした。
出演陣の名演も相まって最高の「倍返し」となりましたが、特に第6話は痛快でした。
幹事長や大臣の肝いりでタスクフォースのリーダーを務めていた嫌味な弁護士に対し、半沢が「あなたがたタスクフォースの法的根拠は何ですか?」と毅然と言い放った場面です。
法律の専門家であるはずの弁護士はまともに答えられず、「国民の総意だ」と論点ずらしに終始しました。
半沢から「大臣の御威光だというのなら、強権発動でもして、債権放棄を命じればいいじゃありませんか」と痛いところを突かれると、「おまえ、国に盾突くつもりか」と激怒する始末。
法治国家である以上、法的根拠に基づかない行政措置には必ずどこかで無理や歪みが生じるという典型でしょう。
【第6位】
「買い物や通勤は…新型コロナ『緊急事態宣言』が出たら、何が処罰の対象に?」
「『緊急事態宣言』しても感染拡大なら治安崩壊の危機 捜査や裁判への深刻な影響は」
「外出自粛で定期券を継続せず、通勤手当はどうなる? 減額や不支給になるケースも」
2020年はコロナ禍という戦後最大の国難を背景とした異例の「緊急事態宣言」により、勤務形態や日々の生活のあり方にまで大きな影響が生じた1年でした。
一方で、知事の権限が弱いとか、外出自粛は要請まで、営業自粛も要請や指示どまりであり、違反に対する罰則がないとか、十分な金銭的補償もないといった問題も浮き彫りになりました。
しかし、いまだに特措法は改正されていません。
もし再び「緊急事態宣言」が出されたとしても、現状のままだと、生活のために休業要請に応じられない業者が出るはずです。
また、そうした業者を叩くことで自粛生活で溜まったうっぷんを晴らすとか、歪んだ正義感に基づいた「自粛警察」が暗躍するなど、前回と同じ状況が繰り返されることでしょう。
第3波の流行を受け、ようやく政府は特措法の改正に乗り出し、2021年1月召集の通常国会に法案を提出する方針です。
明らかに後手後手であり、泥縄的な対応と言わざるを得ません。
【第7位】
「なぜカルロス・ゴーン氏は逃亡できた? もはや検察もお手上げか、今後の展開は」
2019年末のゴーン氏による電撃的な逃亡劇は、2020年に入っても尾を引いています。
逃亡を手助けしたとされる米国人親子の身柄が確保され、日本に移送されるのではないかと言われている状況です。
日本は米国との間で犯罪人引渡条約を締結しており、自国民の引き渡しも可能ですが、それでも実現されれば画期的でしょう。
2人に対する容疑は犯人隠避と密出国幇助ですが、より重い前者ですら最高刑は懲役3年どまりだからです。
もし引き渡されれば、日本国内の協力者の有無や関与状況、逃亡計画の立案や実施状況などについて解明が行われ、捜査の進展も期待できます。
ただ、主役のゴーン氏が不在であることは変わらず、虚しさは残ります。
【第8位】
「なぜ2年も前の事件で? 槇原敬之氏、これからの捜査や裁判はどうなるか」
2020年も芸能人の薬物汚染が目立った1年でした。
芸能マスコミを含めてメディアの関心が高く、大きく報じられるため、捜査当局も「一罰百戒」の観点から検挙に力を入れています。
彼らを逮捕した際、警視庁の東京湾岸警察署に留置するのがお決まりのパターンになっていますが、民家がなく、マスコミが殺到しても苦情が出ないし、周辺の道路も広く、テレビ中継車を停められるからです。
正面玄関が大きく、正門まで一直線なので、釈放時に顔を撮影させることもできます。
【第9位】
「オリンピック中止・延期なら、海の日、スポーツの日、山の日はどうなる?【追記あり】」
政府や関係機関は五輪開催を2021年7月に延期すると決定しましたが、感染拡大の現状や世界情勢、今後の見通しなどを踏まえると、それすらも危ぶまれます。
ただ、準備だけは進めておく必要があるので、11月の臨時国会で改正五輪特措法が成立し、2021年の「海の日」「スポーツの日」「山の日」は、それぞれ次のようになることが決まっています。
「海の日」:7月22日
「スポーツの日」:開会式の7月23日
「山の日」:閉会式の8月8日(日曜であり翌9日が振替休日)
まだ2021年のカレンダーや手帳には反映されていないので、平日と休日を間違えないように、注意を要します。
【第10位】
「『いつ死ぬの?』テラハ・木村花さんを誹謗中傷の男、なぜ逮捕されなかったか」
2020年はネット上の匿名による誹謗中傷が社会問題化した1年でもありました。
手順を踏めば犯人が特定されるし、刑事・民事の法的責任も問われる事態になるわけですが、手間と時間を要するうえ、侮辱罪の刑罰が極めて軽いなど、限界も明らかになりました。
現状のように自殺者が出るまで警察が動かないということだと、自殺を誘発する事態にもなりかねません。
ネットを介した誹謗中傷を通常よりも厳罰化するとか、発信者がどこの誰なのか開示手続を簡略化するなど、早急な法整備が求められます。
「責任ある言論」の熟成に向けた仕組みづくりのためには、サイト運営者による積極的な対応も重要となるでしょう。