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政府配布ではない謎のマスクが届いたときの正解は? 「送りつけ商法」の横行に注意【追記あり】

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 政府の布マスク配布に便乗して一方的にマスクを送りつけ、代金の支払いを求める「送りつけ商法」が横行しているという。消費者がとるべき対応は――。

まずは受け取らないこと

 例えば、宅配便を開封すると、中に箱入りのマスクのほか、「7日以内に代金を振り込むか、不要な場合は送料元払いでお返しください。返送がなければ、購入したとみなします」などと書かれた高額な請求書や振込用紙が同封されているというパターンだ。

 これまでも、健康食品や魚介類など、手を変え品を変えて繰り返されてきた古典的な悪質商法の手口だ。代金引換制度を悪用し、先に代金を手にする場合もある。

 ただ、それらの商品と違い、昨今の新型コロナ騒動でマスクは需給バランスが崩れており、簡単には手に入らない。身に覚えのない業者から送られてきたものであっても、また、代金が高かったとしても、マスクの品質に問題さえなければ、ようやく手に入ったんだから支払って使おうという消費者も多いだろう。悪徳業者は、そこに目をつけているわけだ。

 まず、注文していない商品が入った宅配便を受け取ったり、開封したからといって、それだけで売買契約が成立するわけではない。「返送がなければ、購入したとみなします」といった業者側による一方的な条件に縛られることもない。

 それでも、受け取ってしまえば、業者に付け入るすきを与えることになるし、特に代引きだと返金を得るのも一苦労だ。

 心当たりがない宅配便は拒否すべきだし、家族に確認したいのであれば、いったん受け取りを「保留」にしておくべきだ。

 拒否だと送り主に返送されるが、保留だと不在扱いで持ち帰りになる。もし家族が注文したものだと分かれば、再配達を依頼すればすむ。

じっと14日間待つこと

 では、代引でないことなどから安易に宅配便を受け取り、開封したところ、先ほどのようにマスクや請求書などが同封されていた場合、どうすればいいか。

 絶対にそのマスクを使ったり捨てたりせず、そのままの状態で保管し、14日間、じっと待つことだ。「不要な場合は送料元払いでお返しください」などと書かれていても、返送する必要などない。

 というのも、特定商取引法により、売買契約に基づかないで送付された商品については、業者側が引き取りを行わなければならないことになっているからだ。

 14日間、その商品の購入を承諾せず、送りつけた業者による引き取りもなければ、それだけで業者側は返還を請求できなくなる決まりだ。

 すなわち、たとえ代金を支払わなくても、14日間経過すれば、受け取った側が合法的にその物を自由に処分できるようになるというわけだ。廃棄せず、使用しても構わない。

 送りつけ商法の悪徳業者が魚介類を送りつけてくるのは、保存がきかないため、受け取った側がつい早めに食べたり捨てたりし、代金支払いに応じざるを得なくなることを狙っているからだ。

7日間に短縮も可能だが…

 もっとも、2週間となると長いと感じる人もいるだろう。

 商品を受け取った側から業者に対してその引取りを請求すれば、先ほどの特定商取引法により、14日間が7日間に短縮される決まりだ。その間に業者が引き取りに来なければ、やはり受け取った側が自由に使って構わなくなる。

 ただ、送りつけ商法をするような悪徳業者に連絡を入れると、個人情報を聞き出されて悪用される可能性が高い。手数料だけ支払ってほしいなどとうまく口車に乗せられたり、これから取り立てに行くと脅されたり、裁判を起こすぞと恫喝されたりする可能性もある。

 やはり放置したうえで、14日間待つのが賢明だろう。ただし、最寄りの消費生活センターと警察の相談窓口に電話などで業者名などを伝え、相談しておくべきだ。

 というのも、全国から同様の被害通報があり、情報を集積し、詐欺罪などで水面下の捜査が進められている可能性もあるからだ。

 また、忘れたころに業者から連絡があり、代金の支払いを請求されるかもしれない。送りつけられた側に責められるべき事情はないのだから、毅然とした態度を示し、警察にも通報済みだと伝えるといいだろう。(了)

(追記)

 2021年7月6日に改正特定商取引法が施行され、本稿で触れた「14日間ルール」が撤廃された。以後は注文していない不審な商品が一方的に送りつけられても、すぐに捨てて構わなくなった。詳しくは拙稿「きょうから『送りつけ商法』の規制強化 不審な商品はすぐに捨ててもOKに」を参照されたい。

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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