「処刑台」に送られた北朝鮮女性10人…彼女らが「権力に反抗」した理由
世界最悪の監視国家である北朝鮮だが、今年、少なくとも2件の「反抗事件」が明らかになった。
ひとつは労働・経済面の処遇に端を発する自然発生的なものだが、もうひとつは反体制的な性格が明らかだった。
韓国紙・東亜日報は2月26日、中国に派遣された北朝鮮労働者約2000人が前月、賃金未払いに抗議して工場を占拠し、大規模なデモを行ったと伝えられる中、北朝鮮当局が暴動を主導した10人前後を北朝鮮に送還したと報じた。
暴動の現場となったのは縫製工場で、派遣されていたのは当局側管理者を除き全員が女性だ。読売新聞によると、20歳代の元女性兵士が多数含まれた労働者らは人質に取った管理職代表を暴行し、死亡させたという。
送還された10人は、まず間違いなく処刑されたと見られる。
(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為)
もうひとつは、北朝鮮当局が自ら、自由民主主義体制を求める新党を結成した人々を摘発したと明らかにしたものだ。
韓国のサンド研究所は1月28日、北朝鮮当局が国民向けに制作した映像を公開した。その主な内容は「不純録画物(韓国や外国のコンテンツ)は社会主義制度を蝕む危険な毒素」であることを、実例を挙げて紹介して警戒感を高めようとするもので、2021年か2022年に公開されたものと思われる。
中でも新党結成のくだりは驚きだ。
シン・テスという名の中学校教師が、韓国の放送と不純録画物に接して思想的に変質し、北朝鮮の制度に反感を持つに至った。普段から朝鮮労働党が自分を認めてくれないと不満を抱いていた彼は、自由民主主義に基づく新たな党を立ち上げ、10人の不純分子と国家転覆の陰謀を企んだが、人民の厳しい裁きを受けた、というものだ。
動画はシン氏の顔写真、メモ書きされた新党の綱領、組織原則を映し出している。これが事実だとすれば、シン氏らはもはや生きてはいないだろう。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
前者の中国での事例は、北朝鮮当局がきちんと賃金を払っていれば起きなかった可能性が高いものだ。ただ、怒りが頂点に達した労働者たちが、権力への服従より戦う道を選んだ背景は気になる。
北朝鮮では、権力に対するどのような反抗も命に危険が及ぶ。そして、国民はそのことをよくわかっている。
それでも敢えて反抗したのは、やはり韓流ドラマをはじめとする外部情報を通じ、「自由」や「人権」に対する意識を強くしているからではないか、と思われるのだ。
現在、北朝鮮の金正恩独裁体制を打倒しようという、外国からの国家レベルの取り組みは存在しない。あるのは、外部情報の流入を維持しようという細々とした努力だけだ。それに触発された少数の人々の反抗は、当局により各個撃破されて終わるだろう。
この傾向は今後もしばらく変わらないだろうが、北朝鮮国民が持ち始めた「自由への意識」に、国際社会がもっと注目する日の訪れを期待したい。