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「倍返し」のためならなんでもあり? 半沢直樹が再び犯した検査忌避罪とは

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 ドラマ「半沢直樹」が前半の山場を迎えている。企業買収の仕事を横取りした銀行の資金力に対し、子会社の証券会社が半沢の知恵でいかに「倍返し」するかが見ものだ。ただ、さすがに組織ぐるみの検査忌避は危うい。

ことの発端は?

 すなわち、これまでのあらすじは次のようなものだ。

「銀行の卑劣な買収計画からスパイラルを守ることには成功したが、依然ピンチであることに変わりはなかった。そこで半沢が次の手として瀬名(尾上松也)に提案したのは、なんと『逆買収』だった」

「そんなある日、突然、セントラル証券に証券取引等監視委員会が立ち入り検査にやってくる。半沢の目の前に現れたのは、黒崎駿一(片岡愛之助)だった」

「パソコンからゴミ箱の中まで徹底的に検査を進める黒崎は、ついにクラウド上の隠しファイルに迫ろうとしていた。もし、半沢たちが水面下で進めている逆買収の計画が見つかってしまうと、すべてが水の泡と化す」

「半沢から連絡を受けた瀬名は、すぐさま高坂(吉沢亮)に指示し、データを消去しようと試みるが…」

出典:「TBS日曜劇場『半沢直樹』#3あらすじ」より

 物語のテーマはIT大手の電脳雑伎集団による新興IT企業スパイラルに対する敵対的買収だ。

 もともと半沢ら東京セントラル証券は電脳側だったが、親会社である東京中央銀行に仕事を横取りされ、資金力を背景に悪どいやり方で買収工作が進められた。

 一転してスパイラル側に回った半沢らが買収阻止に向けて知恵をしぼり、水面下で計画を実行していたところ、証券取引等監視委員会の検査に至ったというわけだ。

金融商品取引法に違反

 証取委は金融庁に属するが、歴代のトップは特捜捜査の現場経験が豊富な大物検察OBであるうえ、特捜系の検事が幹部として出向し、そのノウハウに基づいて内偵調査が進められるなど、東京地検特捜部と関係が深い。

 半沢が示した知恵の詳細はネタバレになるので割愛するが、相場操縦やインサイダー取引とも思えるような証券マンにとっての「禁じ手」だった。

 株価の動きも不自然かつ派手で、前シリーズで半沢とやり合った黒崎が証取委の統括検査官として今回の買収案件に目をつけたのは当然だった。

 もっとも、これだけだと半沢の独断による暴走とも評価できる。しかし、証取委の立ち入りを知るや、社長や半沢ら社員総出で資料をシュレッダーにかけ、データの消去に及んだ。

 ドラマ的な盛り上がりはクラウド上に残されていた半沢の隠しファイルに外部からアクセスし、黒崎に見られる前に消去できるかという場面だったが、その成否やセキュリティのずさんさとは無関係に、半沢らはすでに大規模かつ大胆な違法行為に及んでいたことになる。

 というのも、半沢らの行為は明らかに金融商品取引法の検査忌避罪にあたるからだ。忌避とは「嫌って避ける」という意味だが、検査対象の資料を隠したり廃棄するのがその典型だ。

 証取委の検査を妨げ、忌避しただけで、その行為者は最高で懲役1年、証券会社も最高で罰金2億円に処される。業務停止処分も避けられない。

危ない橋、再び

 半沢は、前シリーズでも、ホテルの再建をめぐって東京中央銀行が黒崎ら金融庁検査局による検査を受けた際、彼らに見られるとマズい書類を自宅や銀行のボイラー室に「疎開」させ、隠していた。

 こちらも銀行法の検査忌避罪にあたり、個人・法人には先ほどと同様の刑罰が科される。現に行政処分を受けたり刑事告発されたケースは多々あり、経営破たんや統廃合に至った金融機関まである。

 今回も半沢は「倍返し」のために再び危ない橋を渡った。下手をすると同僚や部下、その家族ともども人生を棒に振るような危ういやり方だ。半沢は「顧客第一主義」をうたうが、顧客であるスパイラルの瀬名社長らまで検査忌避という不正に引きずり込んでいる。

 しかも、詳細は割愛するが、今回、黒崎はシュレッダーの裁断くずという半沢らによる検査忌避の動かぬ証拠を押さえた。関係者がどのような口裏合わせをしようと、この物証だけで完全にアウトだ。

「同じ穴のムジナ」?

 そうすると、黒崎がこれを凌駕するほどの悪質な不正の解明を目指しており、それも電脳や銀行関係者に対する刑事告発や特捜部による逮捕に値するほどの重大極まりないものでなければ、半沢らが犯した検査忌避罪とバランスがとれなくなる。

 株式の公開買付による買収だから、資金力を有するものが勝つことなど当たり前だ。

 「倍返し」のためならなんでもありということだと、半沢も親会社の銀行関係者と「同じ穴のムジナ」に成り下がるわけで、出向どころか懲戒解雇にすら値する。

 ドラマ版は東京中央銀行元常務の大和田暁を再登場させて半沢と絡ませ、キーマンであるかのように匂わせるなど、原作とかなりの食い違いが見られる。

 前半の大団円に向け、9日放送の第4話がどのような落としどころとなり、いかなるドラマ的カタルシスを与えてくれるのか、その行方が注目される。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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