「倍返し」のためならなんでもあり? 半沢直樹が再び犯した検査忌避罪とは
ドラマ「半沢直樹」が前半の山場を迎えている。企業買収の仕事を横取りした銀行の資金力に対し、子会社の証券会社が半沢の知恵でいかに「倍返し」するかが見ものだ。ただ、さすがに組織ぐるみの検査忌避は危うい。
ことの発端は?
すなわち、これまでのあらすじは次のようなものだ。
物語のテーマはIT大手の電脳雑伎集団による新興IT企業スパイラルに対する敵対的買収だ。
もともと半沢ら東京セントラル証券は電脳側だったが、親会社である東京中央銀行に仕事を横取りされ、資金力を背景に悪どいやり方で買収工作が進められた。
一転してスパイラル側に回った半沢らが買収阻止に向けて知恵をしぼり、水面下で計画を実行していたところ、証券取引等監視委員会の検査に至ったというわけだ。
金融商品取引法に違反
証取委は金融庁に属するが、歴代のトップは特捜捜査の現場経験が豊富な大物検察OBであるうえ、特捜系の検事が幹部として出向し、そのノウハウに基づいて内偵調査が進められるなど、東京地検特捜部と関係が深い。
半沢が示した知恵の詳細はネタバレになるので割愛するが、相場操縦やインサイダー取引とも思えるような証券マンにとっての「禁じ手」だった。
株価の動きも不自然かつ派手で、前シリーズで半沢とやり合った黒崎が証取委の統括検査官として今回の買収案件に目をつけたのは当然だった。
もっとも、これだけだと半沢の独断による暴走とも評価できる。しかし、証取委の立ち入りを知るや、社長や半沢ら社員総出で資料をシュレッダーにかけ、データの消去に及んだ。
ドラマ的な盛り上がりはクラウド上に残されていた半沢の隠しファイルに外部からアクセスし、黒崎に見られる前に消去できるかという場面だったが、その成否やセキュリティのずさんさとは無関係に、半沢らはすでに大規模かつ大胆な違法行為に及んでいたことになる。
というのも、半沢らの行為は明らかに金融商品取引法の検査忌避罪にあたるからだ。忌避とは「嫌って避ける」という意味だが、検査対象の資料を隠したり廃棄するのがその典型だ。
証取委の検査を妨げ、忌避しただけで、その行為者は最高で懲役1年、証券会社も最高で罰金2億円に処される。業務停止処分も避けられない。
危ない橋、再び
半沢は、前シリーズでも、ホテルの再建をめぐって東京中央銀行が黒崎ら金融庁検査局による検査を受けた際、彼らに見られるとマズい書類を自宅や銀行のボイラー室に「疎開」させ、隠していた。
こちらも銀行法の検査忌避罪にあたり、個人・法人には先ほどと同様の刑罰が科される。現に行政処分を受けたり刑事告発されたケースは多々あり、経営破たんや統廃合に至った金融機関まである。
今回も半沢は「倍返し」のために再び危ない橋を渡った。下手をすると同僚や部下、その家族ともども人生を棒に振るような危ういやり方だ。半沢は「顧客第一主義」をうたうが、顧客であるスパイラルの瀬名社長らまで検査忌避という不正に引きずり込んでいる。
しかも、詳細は割愛するが、今回、黒崎はシュレッダーの裁断くずという半沢らによる検査忌避の動かぬ証拠を押さえた。関係者がどのような口裏合わせをしようと、この物証だけで完全にアウトだ。
「同じ穴のムジナ」?
そうすると、黒崎がこれを凌駕するほどの悪質な不正の解明を目指しており、それも電脳や銀行関係者に対する刑事告発や特捜部による逮捕に値するほどの重大極まりないものでなければ、半沢らが犯した検査忌避罪とバランスがとれなくなる。
株式の公開買付による買収だから、資金力を有するものが勝つことなど当たり前だ。
「倍返し」のためならなんでもありということだと、半沢も親会社の銀行関係者と「同じ穴のムジナ」に成り下がるわけで、出向どころか懲戒解雇にすら値する。
ドラマ版は東京中央銀行元常務の大和田暁を再登場させて半沢と絡ませ、キーマンであるかのように匂わせるなど、原作とかなりの食い違いが見られる。
前半の大団円に向け、9日放送の第4話がどのような落としどころとなり、いかなるドラマ的カタルシスを与えてくれるのか、その行方が注目される。(了)