東京でいち早く家系を広めた 黄金バランスの家系ラーメン【ラーメン評論家の覆面ラーメン批評10】
都内屈指の古参家系ラーメン店
1974(昭和49)年に、家系ラーメン発祥の店である『吉村家』が創業して今年で50年。ここ数年再び「家系ブーム」と呼ぶべき現象が起こっている。かつては「横浜家系」と言われ、横浜のご当地ラーメン的な捉えられ方をされていたが、家系出身者による独立やチェーン店などの展開によって、家系ラーメンは一ジャンルとして全国区のラーメンとなっている。
今でこそどこでも食べられる家系ラーメンだが、今から四半世紀ほど前の1990年代後半は、横浜まで行かなければなかなか食べることが出来なかった。まだ家系ラーメンという言葉が一般的ではなかった1996年、都内でいち早くオープンした家系ラーメン店が『『まこと家』(東京都品川区南品川3-1-10)である。
京浜急行「青物横丁」駅から徒歩1分、第一京浜にも面した好立地で、新調したテント地の黄色い屋根看板が目印。古き良きノスタルジックな家系ラーメンを楽しめるほか、立地の良さや営業時間の長さなどの利便性も含めて、個人的にもこの四半世紀のあいだ何度も足を運んでいる店だ。
スープ・タレ・油の絶妙な黄金比
家系総本山である『吉村家』をはじめ、昨今の家系ラーメンのトレンドは、スープが濃厚で醤油ダレも強めのバランスになっている。50年の歳月を経てラーメンのスタイルやバランスが変わっていくのは当然のことだが、1990年代後半に慣れ親しんだクラシカルな家系ラーメンが少なくなってしまったのは寂しいことだ。
しかし『まこと家』は、今も変わらぬ古き良きクラシックタイプの家系ラーメンを提供している。家系御三家の一つと言われる『本牧家』の流れを汲む店だけあって、豚骨スープと醤油ダレ、鶏油のバランスが秀逸。ほんのりと香る豚臭さと鼻に抜ける醤油と甘い鶏油の香り。いずれも突出することなくお互いを補完しあっているスープはついつい後を引く。
昨今の家系のようなスープのインパクト、醤油のキレなどはない、まろやかな味わいの家系ラーメンは、人によっては物足りなさを感じるかもしれない。しかし初めて家系を食べた頃の刷り込みもあるのだろうが、豚骨の旨味と醤油の風味、そして鶏油の香りと甘味が渾然一体になってこそ家系ラーメンだと思うのだ。
しっかりと茹でてこそ美味しい麺
麺は家系ラーメン店御用達の『酒井製麺』。その中でも一部の店にしか卸されない特別な麺を使っている。茹で加減を指定することが出来るが、お店にお任せする普通がお勧め。博多ラーメンのようなカタだと美味しさは半減する。この麺はしっかり茹でてこそ美味しい麺なのだ。
家系ラーメンに欠かせない具材の海苔。たまたまなのかこの時だけなのかは分からないが、従来の海苔とは違うものを使っていた。これまでの海苔はスープに負けないしっかり厚みのあるものだったが、この時の海苔は薄くてスープに溶けてしまう。これだとライスと一緒に食べる時に食べにくいので、有料でも良いので元の海苔に戻して欲しい。
家系ラーメンに欠かせないもう一つの具材、ほうれん草は国産のものを使用。食感もあってスープにもマッチする。一般的な家系ラーメン店の場合、ほうれん草は最初から乗ってくるが、こちらでは有料トッピングで追加しないと乗ってこないので、ほうれん草好きの人は忘れずに注文して欲しい。
家系ラーメンが生まれて50年が経ち、様々なスタイルやアプローチの家系ラーメンが増えてきたことは健全で喜ばしいことだ。これからもどんどん進化して変わり続けて欲しいと思うと同時に、変わらずにクラシックスタイルを貫き続ける店もあって欲しい。『まこと家』はこれからもそういう存在であり続けて欲しいと願う。
※写真は筆者の撮影によるものです。
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