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『THE W 2024』にぼしいわしが事務所無所属で優勝、お笑い界に風穴を開けるフリー芸人の快進撃

田辺ユウキ芸能ライター
出典:『女芸人No.1決定戦 THE W 2024』公式Xより

女性芸人が参加対象のお笑いの賞レース『女芸人No.1決定戦 THE W 2024』(日本テレビ系)の決勝戦が12月10日に開催され、にぼしいわし(香空にぼし、伽説いわし)が優勝に輝いた。

『THE W』はAブロック、Bブロック、Cブロックの各ブロックを勝ち上がった3組によって最終決戦が争われるシステム。にぼしいわしは、有名ブランド「シャネル」でおばんざいが売られているというシチュエーションの漫才でAブロックを制すると、最終決戦ではアイドルとトイレの大の関連について香空にぼし、伽説いわしが意見をぶつけ合う漫才を披露。対戦相手の紺野ぶるま、忠犬立ハチ高を下して8代目女王に就いた。

今回が4度目の決勝進出となった、にぼしいわし。優勝決定後「事務所に入らずフリーでやっていて」とコメントしていたように、二人は芸能事務所に所属せずに自分たちで活動を進めるフリー芸人だ。ちなみにフリーとは、事務所無所属だが本業は「お笑い」の芸人のこと。一方、アマチュアという立場もあり、こちらは事務所無所属で本業を別で持っている芸人のこと(もしくはお笑いを趣味的におこなっている芸人のこと)と言われている。

2024年はにぼしいわし、どくさいスイッチ企画など事務所無所属が飛躍

にぼしいわしはもともと大阪で活動。吉本興業が運営する芸能スクール「NSC大阪校」出身で、一時期は吉本興業に所属したが、退所。2018年から2020年8月まで別の芸能事務所にも在籍し、以降はフリーで活動してきた。そして2023年10月に拠点を東京へ移した。

大阪のお笑いのインディーズシーンではおなじみの存在だった、にぼしいわし。上京から約1年、悲願のビッグタイトルを掴んだ。事務所無所属の芸人が全国規模の大型お笑い賞レースで優勝したのはこれまで、2002年『R-1ぐらんぷり』(現『R-1グランプリ)のだいたひかる(フリー)のみ。まさに歴史的な快挙である。

事務所無所属のお笑い芸人の飛躍は、にぼしいわしだけではない。『R-1グランプリ2024』では、事務所無所属で会社勤務のアマチュア・どくさいスイッチ企画が決勝進出を果たし、4位の好成績を残した。どくさいスイッチ企画は2024年5月、拠点を大阪から東京へ移して肩書きもアマチュアからフリーに。お笑いを本業とし、芸人としてさらなるステップアップを遂げようとしている。

ほかにも2023年には大阪の若手登竜門『ytv漫才新人賞』の予選にあたる事前ROUNDに、「年間ライブ数1200本」の実績をひっさげるボニーボニーが、大会史上初めてフリーで参戦した。ボニーボニーは2023年だけではなく、2024年の『ytv漫才新人賞』事前ROUNDにも登場。すっかり同賞の常連となり、決勝戦進出を狙っている。大阪のお笑いのインディーズシーンの希望の星としても広く知られるようになった。

『M-1グランプリ2024』には、関西を拠点とするフリーの涼風、アマチュアの駐輪ガムが準々決勝まで駒を進めた。エントリー数が年々増加し、ついに1万組をこえた2024年の『M-1』で準々決勝まで食い込んだのは特筆すべき出来事だ。

事務所無所属の芸人たちを多く受け入れている、大阪のライブハウスの存在

大阪のライブハウス、楽屋Aと舞台袖を運営する加藤進之介さん/写真:筆者撮影
大阪のライブハウス、楽屋Aと舞台袖を運営する加藤進之介さん/写真:筆者撮影

にぼしいわし、どくさいスイッチ企画、ボニーボニーらの共通点は、芸人活動をする上で大阪に深い縁(ゆかり)があること。

大阪は東京に比べると、お笑い芸人を全国規模で活動させられたり、チャンスを与えられる芸能事務所がはるかに少ない。吉本興業、松竹芸能の大手事務所くらいである。大阪の中小規模の事務所に所属してもチャンスに恵まれないのであれば、自由度が高いフリーやアマチュアでの活動を選ぶのも納得できる。それでもインディーズライブを開催する会場自体が少なく、事務所無所属の立場が出演できるライブイベントも限られてくる。テレビなどの芸人仕事はほとんどない。つまり大阪のお笑いのインディーズシーンを取り巻く環境はかなり厳しいものがある。

そんななか、事務所無所属のお笑い芸人たちを多く受け入れながら、なんとか仕事を生み出そうとしている場所が、インディーズのお笑いイベントを行う大阪のライブハウスの楽屋Aと舞台袖だ。にぼしいわし、どくさいスイッチ企画、ボニーボニーらももちろん出演経験がある“ハコ”である。

2024年11月、両ライブハウスを運営する加藤進之介さんに別件でインタビューする機会があった。そのとき加藤進之介さんは「大阪のインディーズのお笑いシーンの衰退を防がなければいけない、と思いながら経営しています」と強い気持ちを語ってくれた。

「規模が大きいライブイベントへの出演や、東京で活躍する足がかりに」

『ytv漫才新人賞』史上初めて、フリーとして事前ROUNDに出場したボニーボニーのバリーとくのしん(左)、花﨑天神(中央)/写真:筆者撮影
『ytv漫才新人賞』史上初めて、フリーとして事前ROUNDに出場したボニーボニーのバリーとくのしん(左)、花﨑天神(中央)/写真:筆者撮影

しかし、ただただイベントを打って、そこにインディーズのお笑い芸人たちに出演してもらうだけでは、それぞれの目標も見えづらくなってしまう。

そのため楽屋Aでは、TOP3、Gakuya A、Gakuya Bというランク制を導入。入替戦も実施して競争心を生むなどし、勝者には賞金も授与。『THE W 2024』で優勝したにぼしいわしもかつて、そのトップメンバーを張っていた。ほかにも、大手ラジオ局の番組出演をかけた選抜メンバー争いを開くこともあった。加藤進之介さんは、そういったことが「インディーズで活動する芸人さんたちのモチベーションにもつながっているように思えます」と話していた。

さらに加藤進之介さんは、楽屋A、舞台袖を、関西で活動するフリー芸人、アマチュア芸人、学生芸人たちが腕を磨ける場にしたいと口にしていた。そして「規模が大きいライブイベントへの出演や、東京で活躍する足がかりにしてほしい」と願った。にぼしいわしの『THE W』優勝の偉業には、こういった背景も影響しているのではないだろうか。

2024年、にぼしいわし、どくさいスイッチ企画が全国規模の大型賞レースで結果を残したことは、間違いなくお笑い界に風穴を開けたと言える。今後、その穴からどんな個性的なフリーやアマチュアの芸人たちが現れるのか。2019年の『M-1』でアマチュアながら準決勝まで進み、その後は人気コンビとなったラランドの好例もあったように、事務所無所属でもやれるというムードがお笑い界に少しずつ浸透しているのではないだろうか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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