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にぼしいわし優勝の『THE W』 なぜ「国民投票」が入ったほうがほとんど落ちてしまったのか

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

第8回女王はにぼしいわし

女芸人No.1決定戦『THE W』の新女王はにぼしいわしになった。

「アイドルはうんこをしないネタ」で優勝した。

見事であった。

最終決戦に勝ち上がった3組は、にぼしいわし、紺野ぶるま、忠犬立ハチ高だった。

最終得票は、にぼしいわし4、紺野ぶるま2、忠犬立ハチ高1、である。

視聴者投票は「敗者」への投票が多かった

今年の審査員は6人。

麒麟の川島。アンガールズの田中。笑い飯の西田。阿佐ヶ谷姉妹の江里子。マヂカルラブリーの野田クリスタル。さらば青春の光の森田。

さらにテレビ視聴者による投票が「国民投票」と称して1票に数えられる。

この国民投票が、かなり逆目に出ていた。

『THE W』の勝ち抜き審査法

『THE W』の投票は、どっちがおもしろかったのか、二者択一で選んでいく。

まず、やました、と、ぼる塾のパフォーマンスを見て、どっちがおもしろかったかを投票する。やましたが5票で2票のぼる塾に勝つ。

次に、にぼしいわし、の漫才がある。それが終わると、いまの漫才とさっき見たやましたとどっちがおもしろかったの投票がある。

にぼしいわし5票、やました2票で、にぼしいわしが勝ち抜く。

これが繰り返される。

合計10回の投票を繰り返す

審査員はその2択を9回繰り返して、3組を選ぶ。

最後にその3組がもういちどネタを見せて、その3組のうちの1位を選ぶ。最後だけ三択である。

合計10回投票。

6人の審査員の投票

投票したほうが果たして勝ち抜いたかどうか、つまり審査員の審査が結果に沿っていたのか、それぞれを〇×であらわすとこうなる。

      麒麟の川島 〇×〇〇〇××〇〇×

  アンガールズの田中 〇〇〇×〇〇〇〇〇〇

     笑い飯の西田 〇〇〇×〇〇〇〇〇×

 阿佐ヶ谷姉妹の江里子 〇〇××〇〇〇〇〇〇

マヂカルラブリーの野田 ×〇〇〇〇×〇〇〇〇

 さらば青春の光の森田 〇〇〇〇×〇〇〇〇〇

麒麟の川島だけが6割

勝ち抜いたほうを選んだ回数でいえば

 川島 6勝4敗

 田中 9勝1敗 

 西田 8勝2敗 

江里子 8勝2敗 

 野田 8勝2敗 

 森田 9勝1敗

かなり成績がいい。みんないい。

麒麟川島だけ6割で、残り5人は8割以上だ。

勝敗がつけやすかった対決が多かった、ということだろう。

Cグループの2つめ、3つめは、つまり通算8対決めと9対決めは、忠犬立ハチ高が7−0で相手を圧倒して、つまり審査員は(国民投票まで含めて)全員一致だった。

国民投票は3割しか勝ったほうに入れてない

ところが国民投票、つまりテレビ視聴者投票は、かなり、はずれていた。

こうだった。

国民投票 ×××〇×××〇〇×

3勝7敗だ。

おかずくらぶ投票のときしか国民投票は生かされていない

4対決めのレモンコマンドリとおかずくらぶの対決のとき、これは結局3対4だったのだが、そのときは国民投票はおかずくらぶに入って、おそらく国民投票の意思が反映されたのはこれだけだったと言えるだろう。

8対決目9対決目は、上に書いたように7−0圧勝の試合で、みんな同じ意見だった。

(足腰げんき教室はともかく、河邑ミクが0票負けしたのはちょっと気の毒であった)

国民の民意が3割しか反映されないわけ

国民投票の結果が、あまり審査員の投票と合わなかったのは、それはおそらく演者への距離の違いだろう。

国民投票は、すべてテレビ画面を通して見た投票である。

いっぽう残り6人は現場で見て審査している。

演芸は、目の前で見るのと、画像越しに見るものとは、かなり違う。

その点に尽きるだろう。

審査員が見ていたポイント

最終決戦での3組の対決などは、テレビで見てるぶんには3組の差がさほどにはわからなかった。

だから、楽しかったもの、笑えたものということで、国民投票は忠犬立ハチ高に票があつまったのだろう。これはテレビ前で見ていた者として、とてもわかる。

ただ審査員の視点はすこし違っていた。

もともと、喋りや掛け合いの技術について、講評で何回か触れていた。

ピン芸とコントと漫才を比較しなければいけないこの大会では、どれだけ受けていたかだけでは順位がつけづらくなるのだ。

プロの芸人である審査員は、現場の客の反応の違いと、それを引き起こす細かい技術につよく注目していたのだとおもわれる。

だから国民投票とは違う結果になった。

国民投票の結果もまた正しい

だからといって、べつだん国民投票が間違っていた、ということではない。

これはこれで正しい。

現場にいた人が感じたものと、テレビ(画面)越しに見えていたものが違っていたということでしかない。

そして「次代のテレビタレントの発掘」という点からは、国民投票の結果はとても注目すべきところだからだ。

テレビで放送されているお笑いコンテストは、演芸場で受ける人を探しているわけではない。テレビ越しにおもしろく見える人を見つけ出そうという企画でもある。

だから、今回勝ち抜けなかったにしても、国民投票で勝ち点が入っていた芸人は、今後、かなり注目すべき存在だと言える。

川島明の成績がもっとも悪かったわけ

たぶん、審査員のなかでもっとも「バラエティ番組に出ればこの人は映えるだろうな」という視点で見ていたとおもわれるのが、川島明である。

彼の選択が6勝4敗で国民投票に近かったということは、つまり、テレビ映えする人と、お笑い技術の高い人にすこし隔たりがあった、ということではないだろうか。

ほとんどの勝負が接戦だった、ということにもなる。

見応えのある『THE W』であった。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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