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ラーメンを日本食に変えた一杯 動物系と魚介系の二刀流スープ【ラーメン評論家の覆面ラーメン批評8】

山路力也フードジャーナリスト
中国生まれのラーメンが日本食になった。

日本のラーメンブームを牽引し続ける存在

『麺屋武蔵』グループの総本山『創始麺屋武蔵』。
『麺屋武蔵』グループの総本山『創始麺屋武蔵』。

 1996年の創業以来、常に革新的なラーメンを生み出し、ラーメン界に衝撃を与えてきた人気店『麺屋武蔵』。「革新にして上質」「唯一無二」が麺屋武蔵の変わらぬコンセプト。店舗ごとに味やテーマが異なる斬新かつ意欲的な出店を続け、長年日本のラーメンブームを牽引し続けるトップランナーだ。

 その総本山とも言うべき店が『創始麺屋武蔵』(東京都新宿区西新宿7-2-6)。1996年に南青山で創業した麺屋武蔵は、1998年に西新宿へと本店を移転。かつては「新宿総本店」と名乗っていた店舗だが、2020年に「創始」と屋号をあらためてリニューアル、新たなスタートを切った。

日本食としてのラーメンの確立

『創始麺屋武蔵』の「武蔵ら〜麺」。
『創始麺屋武蔵』の「武蔵ら〜麺」。

 今やラーメンは日本を代表する国民食として国内外に認知されているが、言うまでもなくそのルーツは中国の麺料理である。今でも「中華そば」「中華麺」などと中国由来である名残が点在しているが、麺屋武蔵のラーメンや店作りには中国の臭いが微塵も感じられない。日本の麺料理としての矜持が感じられるのだ。

 鶏ガラと豚骨の動物系スープと、秋刀魚節や秋刀魚煮干しの魚介系スープによる「二刀流」。口の中いっぱいに広がる醤油と和出汁の味わいを動物系スープの力強さで補完する。日本蕎麦と同じ系統の旨味や香りが明らかに存在し、動物系のスープによってラーメンとして成立させる。丼の中に中国が入り込む余地は一切ない。

 あっさりとこってりを選ぶことが出来るが、こってりにすることでよりラーメンらしさがブーストされる。具材のシンプルな「ら〜麺」も良いが、具材がたくさん乗る「武蔵ら〜麺」がおすすめ。一杯で満足させるべくこのラーメンだけのために仕込まれた具材が乗る。他店で見られるような「全部乗せ」とは設計思想が異なるのだ。

麺を主役にした「一汁一菜」

スープに負けない麺の存在感
スープに負けない麺の存在感

 そしてスープに負けない存在感ある太麺。ツルツルとした啜り心地と咀嚼する楽しさのある食感。ラーメンは得てしてスープ料理である、と言われることがあるが、このラーメンは麺料理であり、主役は間違いなく麺である。食べている上での意識は麺を主食として食べて、その間におかずとなる具材をつまみ、スープを飲んでいる。一杯の丼の中で麺を主役として「一汁一菜」が成立しているのだ。

 麺屋武蔵が日本のラーメンシーンに登場して、早いもので四半世紀以上が経っている。その間にラーメンは驚くほどに進化を遂げて来た。しかしながら、今食べてもまったく古さを感じさせないどころか、いまだ唯一無二の存在感を示すラーメンを出し続けている。ラーメンを日本食に定着させた一杯は今も健在だ。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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