存在感のある自家製麺 進化し続ける老舗の中華そば【ラーメン評論家の覆面ラーメン批評6】
銀座で三代続く中華そばの老舗
ラーメンブームと言われて久しい。日々新しいラーメン店が出来ては消えていく東京で、長い間味を守って営業を続けていくことはなかなか難しい。原価の高騰や人手不足など、ラーメン店を取り巻く環境も厳しくなっている。さらには店主が高齢になって事業継承が厳しく暖簾を畳む店もある。
屋台から始まって銀座に店舗を構えて70年近く、三代にわたりその味を守り続けているラーメン店が、1956(昭和31)年創業の老舗『中華そば 共楽』(東京都中央区銀座2-10-12)。現在の店舗は2019年に新たに建てられたものだが、店内の雰囲気は昭和の頃の落ち着きが今も感じられる。
東京はあらゆるものが集まる街だ。ラーメンも北は北海道から南は九州沖縄まで、日本全国のラーメンを食べることが出来る。さらにフレンチや和食などの技法を用いた革新的なラーメンも次々と生まれている。東京でラーメンを食べると、ラーメンという料理の多様性を体感することが出来る。
その一方で、地方のご当地ラーメンのように、東京特有のラーメン文化が育ちにくいという側面もある。東京で昔から愛されているラーメンは醤油味の中華そば。明治時代に浅草で生まれたとされる、日本のラーメンの原点のような存在が東京の中華そば。『中華そば 共楽』は、東京の中華そば文化を今に伝える貴重な一軒だ。
長年にわたり進化し続けている中華そば
『中華そば 共楽』の中華そばは、創業以来変わらぬ醤油味の一種類のみ。動物系素材と魚介系素材がバランスよく融合したスープに、深みのある醤油ダレが見事に調和する。しなやかな食感の中細ストレート麺に、脂身の少ない豚モモ肉のチャーシューはしっとり柔らか。乾燥メンマを4日かけて戻してから味付けした竹の子はコリコリとした歯応えがクセになる。
透明ではなくやや半濁したスープの色合いが実にいい。異なる旨味が複雑に重なり合う味の秘密は、門外不出の完全非公開。良くも悪くも素朴で平坦な味わいが多かった戦後の中華そばの中で、この味わいが突出していたことは想像に難くない。今の新しいラーメンと比べてもまったく古さを感じさせない、力強い味わいと堂々たる風格を持ったラーメンだ。
ベースとなる中華そばは醤油味の一種類のみ、という潔さも老舗の誇りを感じさせる。期間限定メニューなどで客の気を引かずとも、中華そばを食べたい人だけが来れば良いのだ。味は一種類だが具材は豊富。常連客はここにチャーシューやワンタン、竹の子に生卵など、自分好みの具材を足していく。さらには味の濃さや麺の硬さなども好みを伝えることが出来る。人それぞれ味の好みがある、というのがこの店の変わらぬスタンスだ。
自家製麺化によってパワーアップした麺
三代目の店主は中国料理の世界から家業を継いだ。祖父の代から受け継いだ伝統の中華そばの製法は変わらないが、これまで製麺所に頼んでいた麺とワンタンの皮を自分で作るようにした。創業者の祖父は製麺所に勤めていた経験を持ち、二代目の父も日本蕎麦打ちの経験がある。自分も麺が打てるようになりたいと、自家製麺のラーメン店で製麺を学んだ。
ノスタルジックな中華そばの麺は細くて縮れているのが定番のイメージだが、『中華そば 共楽』の麺は昔から太めで存在感のあるストレート麺。それが自家製麺になったことでさらにパワーアップ。しっかりと平ざるで茹で切った麺は、しなやかな食感に仕上がり茹で伸びすることなく、今まで以上にスープとしっかり馴染んでいる。やはりラーメンという食べ物は麺料理なのだということを感じさせる麺だ。
東京のラーメンシーンはトレンドに振り回されることが多々あり、店が次々と入れ替わり文化として定着がしづらい側面がある。地方へ食べ歩きに出ると、長年地元で愛され続けている老舗の存在を羨ましく思うことがある。しかしながら、若い三代目に受け継がれた『中華そば 共楽』は、私たち東京の人間が自信を持って語ることが出来る「東京の中華そば」をこれからも出し続けてくれることだろう。
※写真は筆者の撮影によるものです。
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