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深夜に食べると美味しさが増す ワイルドな背脂チャッチャ系【ラーメン評論家の覆面ラーメン批評5】

山路力也フードジャーナリスト
人はなぜ夜中に背脂を欲するのだろうか。

背脂チャッチャ系を進化させた名店

浅草に本店を構える『らーめん弁慶』。
浅草に本店を構える『らーめん弁慶』。

 ラーメンの上に背脂を振りかけるという発明。スープにコクや甘味を加え、スープの熱さを保つ働きもする。脂の量を増減することで客の好みに合わせることが出来る。東京のラーメンを語る上で欠かすことの出来ない存在が、屋台から生まれた背脂醤油ラーメン、いわゆる「背脂チャッチャ系」のラーメンだ。

 東京で背脂チャッチャ系を生み出したと言われているのが、1960(昭和35)年創業の老舗『ホープ軒』。液体ではない固形の背脂を浮かべたラーメンは多くの人たちに愛され一世を風靡した。そして『ホープ軒』からは多くの人気ラーメン店が生まれている。

 浅草に本店を構える『らーめん弁慶』(本店:東京都台東区花川戸2-17-9)もその一つ。創業者はタクシーの運転手時代に通っていた屋台時代の『ホープ軒』の味に魅せられて手伝うようになった。そして1973(昭和48)年に屋台として独立。1985(昭和60)年に堀切に店舗を構えて現在は4店舗。浅草本店は2013年から営業している。

 背脂ラーメンの脂をたっぷり振りかけることを「ギタギタ」というが、背脂チャッチャ系をワイルドに進化させたのが『らーめん弁慶』。きっかけは屋台時代の常連客に「脂をギタギタにしてくれ」と頼まれたこと。修業先の『ホープ軒』はもちろん、他のどの背脂ラーメン店よりも脂っぽくしようと、ギタギタな背脂ラーメンに振り切ったことで人気に火がついた。

脂たっぷりなのにしつこくない理由

『らーめん弁慶』の「らーめん」。
『らーめん弁慶』の「らーめん」。

 スープの表面にビッシリと浮いた大粒の背脂。振りかけ方も豪快で丼の周りにまで背脂が飛び散っている。恐る恐るスープを啜ると、想像以上にしつこさがないことに気づくはず。厳選した良質な背脂を丁寧に炊くことで、クセのないまろやかな甘みだけを残した背脂になる。さらに溶けた液体の油分ではなく固形の脂分を振りかけるため、しつこさを感じないのだ。

 豚骨や鶏ガラベースのスープに合わせる醤油は屋台時代から同じものを使用。背脂の甘さと醤油のキレが調和して、地元の老舗製麺所『浅草開化楼』に特注した縮れ麺と背脂がしっかりと絡み合う。シャキシャキとした食感のモヤシとメンマがアクセントとなり、長ネギのほのかな辛味が口の中をリセットする。背脂を身にまとった麺とモヤシを一緒に頬張り、啜るのではなくワシワシと食べるのが美味しい。

令和のラーメンにも負けない存在感

脂をたっぷりと飲み込むという背徳感がたまらない。
脂をたっぷりと飲み込むという背徳感がたまらない。

 ラーメンが劇的に進化した今の時代、どこか上品で繊細なラーメンが増えている中で、脂ギトギトな背脂ラーメンは真逆と言うべき存在なのかも知れない。しかしながら、今流行のラーメンと比べてもまったく負けないラーメンの存在感。舌の記憶に強烈に刻まれて、ふとした時に猛烈に食べたくなる中毒性。今こそ背脂ラーメンが再評価されても良いのではないか。

 弁慶のらーめんは夜がすこぶる美味い。夜の時間帯だとスープがどうこう、ということではなく、ただただ夜に無性に食べたくなるラーメンなのだ。昼間の明るいうちに食べているとどうにも落ち着かない。弁慶のらーめんは車を飛ばして夜な夜なラーメンを食べ歩いていた若かりし頃を思い出させてくれる味なのだ。

※写真は筆者の撮影によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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