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豚骨スープに細麺の替玉 長浜ラーメンはここから生まれた【ラーメン評論家の覆面ラーメン批評9】

山路力也フードジャーナリスト
魚市場で働く人のために作られたラーメンがある。

福岡人のソウルフードとして

長浜市場の近くに店を構える『元祖長浜屋』。
長浜市場の近くに店を構える『元祖長浜屋』。

 1952(昭和27年)創業の『元祖長浜屋』(福岡県福岡市中央区長浜2-5-25)は、福岡人にとってはソウルフードのような存在の店だ。創業当初は中洲などの町中に出店していたがなかなか売れず、当時大浜にあった魚市場前で営業するようになると、魚市場で働く人たちの支持を受けて盛況となった。1955(昭和30)年に市場が長浜に移転したことにより、長浜に多くの屋台が軒を連ねるようになった。

 屋台で創業した元祖長浜屋は、後に長浜で路面店を二店舗構えたが、2010年に長浜エリアの道路拡張に伴い、本店と支店を統合して現在の店舗を開業した。似たような名前やスタイルの店が市内には点在しているが、現在はこの一店舗のみを経営している。

 競りなどで忙しく時間がない魚市場の人たちのために、素早く提供出来るように麺を細麺にして茹で時間を短縮。細麺は伸びやすいため、麺の量は少なくしてお替わりが出来る「替玉」を始めるなど、元祖長浜屋から始まり長浜ラーメンや博多ラーメンのベーシックなスタイルになっていたものは少なくない。元祖長浜屋はある意味、福岡の豚骨ラーメンの「元祖」とも言える存在なのだ。

肩肘張らない普段使いのラーメン

メニューはシンプルに「ラーメン」のみ。
メニューはシンプルに「ラーメン」のみ。

 元祖長浜屋のメニューはシンプルに「ラーメン」のみ。他に麺のお代わりの「替玉」と肉のお代わり「替肉」、あとはビールがあるだけだ。そしてラーメンそのものもシンプルの極致。軽めのスープにラードを浮かべ硬めに茹で上げた自家製の中細麺を合わせたもの。そこに塩気の強い肉とネギが乗るだけだ。

 メニューが一種類しかないため提供はすこぶる早い。入店して来た客の数を把握して、注文を聞く前に人数分の麺を茹で釜に投入する。注文時に麺の硬さや油の量を伝えることになるが、聞かれる前に食券を渡しながら「ベタ(油多め)ナマ(麺とても硬め)」などと言えたら、一連の流れが止まることなくスマートだ。

 あっさりとした豚骨スープは、朝でも夜中でも毎日でも食べられるライトな味わい。豚骨は濃厚というイメージを持つ人からすれば、驚くほどに軽くて食べやすいことに気づくだろう。昨今のラーメンはスープや具材に手間をかけていて、食事としての満足度が高くなっているが、元祖長浜屋のラーメンは肩肘張らずにサクッと小腹を満たす、古き良きノスタルジックなラーメンの立ち位置のままなのだ。

流行とは無縁の孤高の存在

替玉は元祖長浜屋で生まれたシステム。
替玉は元祖長浜屋で生まれたシステム。

 美味しさは人それぞれであり、美味しさを何で量るかには様々な考え方があるが、昨今人気を集めているラーメンと比べた場合、元祖長浜屋のラーメンはスープに含まれる旨味や素材の味、麺の味わいなどにおいては客観的にみて明らかに弱い。スープの濃度や旨味も日や時間によってバラつきがある。これは現代のラーメンでは善しとされないことだ。

 しかし元祖長浜屋のラーメンはこれでなければならない。こってりした味わいにしたければ油を足して貰えば良い。味が薄いと感じた時は卓上にあるタレで調節すれば良い。「今日は濃いねぇ」「あれ、今日は薄いかなぁ」なんて言いながら食べるのが美味しくて楽しい。何をそんなに気取っているのか、たかがラーメンじゃないか。

 日々味の進化を遂げてきたのがラーメンの歴史であり、それは個々のラーメン店が日々研鑽を重ねてきた結果によるものだ。ラーメンという食文化においては、どんどんラーメンは美味しくなっていかねばならないものだが、元祖長浜屋に関してはそんなに美味しくならなくていい。今のまま変わらずにいて欲しい。そう思える存在のラーメンは、ありそうでなかなかないものだ。

※写真は筆者の撮影によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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