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食欲をかき立てるニンニクの香り 東京の豚骨ラーメンの先駆者 【ラーメン評論家の覆面ラーメン批評2】

山路力也フードジャーナリスト
ラーメン評論家が覆面で実食レポート。

東京に豚骨ラーメンを持ち込んだ先駆

1968(昭和43)年に東京に進出した『熊本ラーメン桂花』。
1968(昭和43)年に東京に進出した『熊本ラーメン桂花』。

 今でこそ都内をはじめ全国のあらゆる場所で、九州の豚骨ラーメンを食べることが出来るが、今からおよそ半世紀前の1960年代後半から70年代にかけては、東京でラーメンといえば醤油一択。豚骨ラーメンほぼ皆無と言っても良い状況だった。

 北海道札幌の味噌ラーメンに注目が集まりはじめ、東京の醤油ラーメンではない地方のラーメンが認知され始めた1968(昭和43)年に、九州から東京に進出して来たのが『熊本ラーメン桂花』(新宿末広店:東京都新宿区新宿3-7-2)。東京に九州の豚骨ラーメンを持ち込んだ先駆だ。

 『桂花』の創業は1955(昭和30)年のこと。熊本で人気を博したラーメンを日本の国民食にしたい、という創業者の思いで東京へ進出。創業当初は東京の人に豚骨ラーメンがなかなか理解して貰えずに苦労したと聞く。

ラーメンを栄養満点の「完全食」にしたい

独特な食感を持つ麺も特徴の一つ。
独特な食感を持つ麺も特徴の一つ。

 白濁した豚骨スープの上に浮かぶ黒いニンニクの焦がし油「マー油」。当時の東京ではかなり異質なラーメンだったことは想像に難くない。創業者が東京に進出する際に、東京の人向けに作ったラーメンが「太肉麺」(ターローメン)。これがメディアなどで徐々に取り上げられるようになり、豚骨ラーメンが受け入れられていった。

 栄養バランスを考えて一杯のラーメンを「完全食」にしたい、という思いから生まれた「太肉麺」。たっぷりの生キャベツと柔らかく煮込まれた豚の角煮。いずれもこれまでのラーメンにはなかった具材だ。そこに食欲をそそるマー油の香り。東京で生まれたラーメンだが今は熊本の店舗でも提供されており、『桂花』を代表する看板メニューになっている。

一杯の満足度が極めて高い『桂花』の「太肉麺」

『熊本ラーメン桂花』の「太肉麺」。
『熊本ラーメン桂花』の「太肉麺」。

 「太肉麺」はとにかく具だくさんのラーメンだ。存在感のある豚の角煮と生キャベツ、さらにコリコリとした食感が楽しいメンマと茎ワカメ。味がしっかり染み込んだ煮卵。具材も少なくおやつ感覚でサッと食べるようなラーメンが多かった時代に、しっかりと食事として満足して欲しいという思いが込められた一杯だ。

 多店舗展開している『桂花』だがスープは各店舗の厨房で一から炊く。豚骨と鶏ガラがベースの白濁スープは、時間帯や店によって若干味の深みや香りなどが異なることもある。それは同じく店内仕込みされる角煮やチャーシューも同様。工業製品ではない手作りのラーメンだからこその違いを楽しめるか否か。

 この日のスープはベストバランス。スープの奥深いコクとマー油が見事にマッチして、独特な食感を持つ中太ストレート麺と絶妙に絡む。柔らかな角煮、ザクザクとした生キャベツ、コリコリとした茎ワカメの食感のコントラスト。『桂花』の「太肉麺」は、世の中にある「全部乗せ」のようなラーメンとは、そもそもの思想が異なる崇高な志を持ったラーメンなのだ。

※写真は筆者の撮影によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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