【なぜハワイは日本の特撮ヒーローに大熱狂したのか?】東映ヒーローとハワイ政治の知られざる関係とは?
皆様、こんにちは!
文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)と申します。
特撮を活用した観光「特撮ツーリズム」の博士論文を執筆し、大学より「博士号(文学)」を授与された後、国内の学術学会や国際会議にて日々活動をさせて頂いております。
早いもので、5月もあっという間に後半。
皆様、いかがお過ごしでしょうか?
さて、今回のテーマは「ハワイで活躍する、日本の特撮ヒーロー」です。
特撮ヒーローというと、その代表格として今日も活躍しているのは、
ウルトラマンや仮面ライダー、スーパー戦隊シリーズなど・・・
私達が暮らしている日本では、たくさんの特撮ヒーローが誕生し、
今や親子3世代に愛される大人気シリーズとして定着しています。
本記事をご覧頂いている皆様の中には、「子どもの頃に観ていたよ」という方や、
「今は子どもと一緒に観ているよ」という方々もいらしゃるかと思います。
これら大衆的な支持を得ている日本の特撮ヒーロー達ですが、その活躍は海を超えて、
アメリカやブラジル、中国やマレーシア等、海外でも愛され続けています。
そんな各国でも人気者の日本の特撮ヒーローですが、
その中でも特に、これらのヒーロー達と非常に縁の深い場所をご存知でしょうか?
ポリネシア・カルチャーセンター( Polynesian Cultural Center)
住所:55-370 Kamehameha Hwy, Laie, HI 96762
TEL:+1 800-367-7060
公式サイト:https://polynesia.jp/(外部リンク)
その場所こそ、海外旅行自由化以降、
人気観光地として現在も定着しているハワイなのです。
突然ですが、皆様はハワイと聞くと、どのようなイメージを思い浮かべますか?
透き通るような青い海?
暖かな風に揺れる椰子の木?
童謡でお馴染み、カメハメハ大王でしょうか?
ハワイ州最高裁判所 アリイオラニ ハレ
住所:417 S King St, Honolulu, HI 96813
公式サイト:https://www.jhchawaii.net/(外部リンク)
このように、ひとくちにハワイと聞いて連想するものは様々ですが・・・
「ハワイと特撮ヒーローってなんの関係があるの?」という疑問をお持ちの方も多いと思います。
そこで今回は、ハワイと日本の特撮ヒーローの間にあった知られざる交流の歴史についてご紹介します。
※本記事は「私、ヒーローものにくわしくないわ」あるいは「ハワイに行ったことがない」という皆様にも気軽に読んで頂けますよう、概要的にお話をして参ります。お好きなものを片手に、ゆっくり本記事をお楽しみ頂ければと思います。
【ハワイの若者が特撮ソングでダンス♪ダンス♪】キカイダーがハワイで巻き起こした70年代特撮ヒーローブームとは?
「そもそも、どういった経緯でハワイに特撮ヒーローが入ってきたの?」という方も多いと思います。そこで、簡単にその背景をお話しすると、大きな要因は「ハワイでの日本語専門チャンネルの開設」でした。
日系人の多いハワイでは1960年代より、州内各局にて日本のテレビ番組の長時間放送を希望する声が現地の日系人達から高まりました。
そこで、1967年に海外で初の日本語テレビ局である「KIKU-TV」が開設されました。
当テレビ局の開設にあたり、KIKU-TVは日本からのテレビ番組の調達を開始します。その際に買い付けられたのが、株式会社東映(以降、東映)制作の特撮ヒーロー番組『人造人間キカイダー』でした。
本作が選出された背景として、総支配人のジョアン二宮氏によれば『人造人間キカイダー』の物語が内包していたヒーローの弱さや親しみが導入され、人間味のあるところが日系をはじめとするアジア系の多いハワイの視聴者にヒットするという確信だったそうです。
「そもそも・・・キカイダーってなに?」
キカイダーとは、仮面ライダーやスーパー戦隊シリーズの原作者である漫画家・石ノ森章太郎先生が生み出したスーパーヒーローです。キカイダーは人々を守るロボットでありながら、善悪を判別する装置(良心回路)を取り付けられたことにより、「何が良いことで何が悪いことか」について苦悩するヒーローでもありました。
そんな悩めるヒーローの姿が描かれた『人造人間キカイダー』は、1972年7月から1973年5月まで、NET(現在のテレビ朝日)にて、30分番組として放送されました。世界征服を企む悪の組織「ダーク」が送り込むロボットと、人間を守るキカイダーが戦う内容で毎週展開されました。
同じく東映制作の特撮ヒーロー番組『仮面ライダー』の爆発的ヒットにより企画されたこのキカイダーですが、残念ながら仮面ライダー程の爆発的ヒットには至りませんでした。原作者である石ノ森章太郎先生によれば、キカイダーが日本で大ヒットしなかった要因として、変身するヒーローが怪人を倒すという番組内容が仮面ライダーの二番煎じに捉えられかねなかったことや、キカイダーの放送時間には裏番組として、ザ・ドリフターズの『8時だョ!全員集合』が放送されていたことを挙げており、キカイダーはザ・ドリフターズの最盛期と戦っていたことが指摘されています(出典:人造人間キカイダーLD・BOXブックレットより)。
つまり、キカイダーにとって最強の敵は悪の組織ではなく、裏番組(ザ・ドリフターズ)といっても過言ではない状況だったのです。
そんな状況下においても視聴率は14~15%と健闘していたキカイダーですが、約1年間に渡る放送期間を終えた彼は、その活躍の場を異国の地へと移すことになります。
そのひとつこそ、私達がよく知るハワイでした。
「キカイダー」がハワイへ輸入されたのは、日本での放送が終了した1973年のこと。当時、海外ドラマは吹き替えが主流であった中で、なんと日本で放送された本編に英語字幕をつける形で、日本語テレビ局のKIKU-TVで放送が開始されました。するとこれが大ヒット!日系人が多いというハワイの土壌も手伝ってか、大ブームを巻き起こしました。
KIKU-TV史上最高視聴率である24%を記録したほか、当時のショッピングセンターで開催されたサイン会には1万人が押しかけ、やむなく中止になった等、ハワイに爆発的に拡大していったこのキカイダーブームは、なんと特撮ヒーロー番組を観る年齢層ではない若者にも浸透していきます。ディスコにも「人造人間キカイダー」の主題歌「ゴーゴー・キカイダー」がかかって皆が踊り出す現象も発生しました。
Bishop Museum
住所:1525 Bernice St, Honolulu, HI 96817
メール:claudette@bishopmuseum.org
電話番号:808-847-3511
URL:https://www.bishopmuseum.org/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E/(外部リンク)
このキカイダーのヒットに伴い、日本の各映像会社はそれに続かんと、自社の特撮ヒーロー番組を次々に輸出するようになりました。キカイダーを制作した東映は、『仮面ライダーV3』や『秘密戦隊ゴレンジャー』、『イナズマン』をハワイで放映し、円谷プロは『ウルトラセブン』、東宝は『愛の戦士レインボーマン』や『ダイヤモンド・アイ』、ピー・プロは『電人ザボーカー』といったように、数多くの日本の特撮ヒーロー番組がハワイで放送される中・・・
これら強力なライバル達を差し置き、圧倒的な支持を堅持したのがキカイダーでした。
このように大人気番組となった『人造人間キカイダー』ですが、放送終了後も再放送が何度も行なわれています。特に2001年11月にKIKU-TVで再放送された際はブームが再燃し、幼少期にキカイダーを観ていた30~40代の世代が親となり、子ども達と一緒にキカイダーを楽しむ現象は「ジェネレーション・キカイダー」と呼ばれ、現地で社会現象化しました。
「ハワイでキカイダーが昔人気だったのはわかった。でも今はどうなの?」
結論から言えば、ハワイでのキカイダーブームは隆盛と沈静を繰り返しており、ブームが周期的にやって来る状況にあると思います。
私もハワイで度々ロングステイをしていたので、現地でのキカイダーブームにはよく触れてきたのですが、キカイダーの新作映画が公開されれば大ヒットする、DVDが発売されれば即売り切れる、アロハスタジアムではハワイ大学のマーチングバンドがキカイダーの主題歌を演奏する、着ぐるみショーや主演俳優のトークショーには大勢が集まる・・・といったように、
ここ数年は新型コロナウイルスの影響を受けてしまいましたが、現在はイベントも再開される等(外部リンク)、ハワイでのキカイダーブームは衰えることを知りません。
日本では、半世紀に渡り人気シリーズとして定着してきたウルトラマン、仮面ライダー、スーパー戦隊シリーズがいわば「御三家」であり、大衆的な支持を得ていますが、ハワイではこの状況をひっくり返す力量を秘めていたのがキカイダー人気だったのです。
【敵の首領が選挙に立候補?】キカイダーがハワイの政治に与えた大きな影響とは?
ここまで、ハワイでのキカイダーの爆発的なヒットについてお話をして参りました。もはや社会現象ともいえる爆発的ヒットを巻き起こしたキカイダーですが、この大ブームはハワイの政治の世界にも影響を与えました。
The Hawaii State Capitol
住所:415 S. Beretania St. Honolulu HI 96813
電話番号:808-586-0178
URL:https://www.capitol.hawaii.gov/(外部リンク)
まず、『人造人間キカイダー』及びその続編『キカイダー01』にて主人公を演じた俳優の伴大介氏(キカイダー:ジロー役)と池田駿介氏(キカイダー01:イチロー役)がハワイにて名誉市民に認定されました。「なぜヒーロー俳優が外国で名誉市民に?」、その最大の理由とされているのが、「キカイダー」を観て育った子ども達が道徳的に成長したことに対する評価であるとされています。先述したように、TV番組の中でのキカイダーは、善と悪の狭間に葛藤するヒーローであり、「何が良いことで何が悪いことか」を子ども達に訴えた内容であったことが本作の特徴でした。つまり、ハワイは日本の特撮ヒーロー番組を教育的見地から評価していたのです。
さらに、キカイダー放送当時に行なわれたハワイ州議会議員選挙において、立候補者の一人が「ミスター・ギル」(キカイダーに登場する悪の組織の首領)を名乗って選挙に出馬し、キカイダー人気にあやかって票を得ようとしたところ、結局落選した逸話が残されています。
またハワイではキカイダーの記念日も制定されており、ハワイ州カエタノ知事により2002年より4月12日を「ジェネレーション・キカイダー・デイ」、マウイ市長により2007年から5月19日を「キカイダー・ブラザーズ・デイ」として制定されています。
「どこかの国で日本のアニメ・特撮番組が大ヒットした」という報道をよく耳にする昨今ですが、海外の政治の世界にまで日本の特撮ヒーロー番組が、ここまで影響するに至った事例は極めて希有なことでした。
いかがでしたか?
海外旅行の定番地としてよく知られているハワイも、視点を変えて掘り下げてみると、
今回の特撮ヒーローのように、
まだまだ私達の知らない新たな魅力をたくさん発見することができます。
皆様がもし、ハワイへ訪れる機会がありましたら、現地で活躍する日本のキャラクター達を是非探してみて下さい。意外な形で活躍する、彼らの魅力を感じ取ることができますよ。
(参考文献)
・MEIMU、キカイダー02 ①、株式会社角川書店
・大場吾郎、「テレビ番組海外展開60年史 文化交流とコンテンツビジネスの狭間で」、人文書院
・山下大樹・嶌田美智子(ノトーリアス)、「特撮ヒーローの常識 70年代篇」、双葉社
・大下英治、仮面ライダーから牙狼へ 渡邊亮徳・日本のキャラクタービジネスを築き上げた男、株式会社竹書房
・勝野 宏史、研究最前線 ハワイの『キカイダー』ブーム : ファンダム研究の視点から、人間科学研究
・ジェフリー, A・S・モニーツ、多様な社会における多文化教育アプローチとしての多様な視点の尊重と涵養、教育学部論集 19
本記事をご覧頂き、「海外での日本特撮やアニメ作品の展開に興味を持った」という皆様、私の過去の記事やTwitterにて、海外現地での様子や商品展開についてもお話をさせて頂いております。宜しければ、ご覧ください。
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・Masamitsu Futaesaku Ph.D(Twitter)(外部リンク)