【なぜ日本の特撮ヒーローは米国で大ヒットした?】日本のグループヒーローが米国で受け入れられた背景
こんにちは!
文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
寒暖差の激しい日々が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
さて、今回お話しするのは「スーパーヒーロー」です。
突然ですが、皆様はスーパーヒーローと聞くと、誰を思い浮かべますか?
日本のヒーローなら、ウルトラマン? 仮面ライダー? スーパー戦隊?
アメリカのヒーローなら、スパイダーマン? バットマン? アイアンマン?
両国共に、たくさんのスーパーヒーロー達が生み出され、長い歴史を経ながら
世界を舞台に活躍しています。
今年2023年も、たくさんのスーパーヒーロー映画が公開予定です。日本映画では、現在円谷プロ制作の『ウルトラマンデッカー 最終章 旅立ちの彼方へ・・・』が全国劇場にて公開の他、3月には東映配給の『シン・仮面ライダー』や、TRIGGER制作のアニメ作品『グリッドマン・ユニバース』が公開予定です。
一方でアメリカ映画も、マーベル映画『アントマン&ワスプ クアントマニア』が現在公開中のほか、5月には『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』、以降も『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース 』等が公開予定です。
このように、次々と新たなヒーロー映画が量産される「ヒーロー大国」である日本とアメリカですが、この2国間のヒーロー番組には知られざる交流があることはご存知でしたか?
そこで今回は、日本とアメリカ、2カ国のスーパーヒーローを通じた交流について特集します。
※本記事は「私、スーパーヒーロー映画にくわしくないわ」という方にも気軽に読んで頂けますよう、概要的にお話をしておりますので、肩の力を抜いてゆっくり本記事をお楽しみ頂ければと思います。
【日本人が変身するスパイダーマン?】情け無用の男!東映版スパイダーマンとは何者か?
皆様は、アメリカ生まれのスーパーヒーロー「スパイダーマン」をご存知でしょうか?
数多くのスーパーヒーローを生み出した巨匠、スタン・リー氏の原作で、マーベル・コミック出版のコミックに登場する、蜘蛛の力を宿したスーパーヒーローのことです。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
・住所:〒554-0031 大阪府大阪市此花区桜島2丁目1番33号
・TEL:0570-200-606
・公式サイト:https://www.usj.co.jp/web/ja/jp(外部リンク)
「スパイダーマン」は、科学オタクである高校生の主人公、ピーター・パーカーが放射能を浴びたクモに刺されたことで、蜘蛛の超能力を宿した超人となり、自らが宿した力と責任の狭間に苦悩しながらも、市民を脅かす悪と戦う物語。
実はこのスパイダーマン、日本の特撮ヒーロー番組として放送されたことがあるのをご存知でしょうか?
スパイダーマンは1978年から1979年にかけて、東映制作の30分特撮ヒーロー番組『スパイダーマン』として放送されていました。つまり、「仮面ライダーや戦隊ものを手がけた会社が、スパイダーマンをつくった」時期があったのです。
本作の物語は、オートレーサーの山城拓也が、悪の組織(鉄十字団)の首領・モンスター教授に殺されるも、故郷を失ったスパイダー星人・ガリアから、蜘蛛の能力を与えられてスパイダーマンとして蘇り、鉄十字団と戦う物語。
「全然原作と違うじゃないか!!」
・・・ごもっともです。しかもこの作品、スパイダーマンが乗り込む巨大ロボット(レオパルドン)の登場や、ブレスレットを使用した変身など、自由な発想に溢れた作品でした。
このようなロボットを導入する判断に至った背景には、東映プロデューサーの渡邊亮徳氏による意図があり、商品化をにらんだ背景であることや、原作のスパイダーマンにあった人間的弱さは日本では受けないと判断し、ヒーロー性を強調したかったからだそうです。
マーベル・コミックもこのアイディアには当初抵抗感はあったものの、最終的には実現に至り、原作者のスタン・リー氏も絶賛したのだとか。
こうして国内で放送されることとなった『スパイダーマン』は、東京12チャンネルで毎週水曜日夜7時半の時間枠で、平均視聴率13%と同チャンネルの番組ではトップクラスの視聴率を記録しました。
実は、この東映版『スパイダーマン』が放送されていた当時、日本の子ども達の間ではいわゆる「実写離れ」が進んでいた時代でした。当時は東映アニメ製作の合体ロボットを筆頭に、アニメ作品の人気が子ども達の間で高まっていたのです。『スパイダーマン』の放送が終了した1979年は、日本サンライズ制作の『機動戦士ガンダム』の放送が開始され爆発的なブームを起こすことになったほか、もともと実写のヒーローであった円谷プロのウルトラマンシリーズも、シリーズ初のアニメ作品『ザ☆ウルトラマン』を放送する状況でした。そんな中、実写作品でありながらも健闘した『スパイダーマン』の中で導入された、巨大ロボットの登場やブレスレットによる変身描写は、同じく東映制作のスーパー戦隊シリーズに継承されていくことになります。
【米国では受け入れがたかった?】日本のグループヒーローがアメリカに浸透していくまでの経緯
突然ですが、皆さんは集団で悪と戦うグループヒーローが登場するアニメや特撮作品をご覧になったことはありますか?
「観たことがあるよ!」という方の中でも、多くの方は東映制作のスーパー戦隊シリーズや、東映アニメ制作のプリキュアシリーズなど、現在も毎週日曜朝に放送されているシリーズを挙げる方が多いのではないでしょうか?
アメリカでも、たくさんのチームヒーローが活躍するアニメや特撮作品が日本から輸入されました。
アニメ作品では、東映アニメ制作の「美少女戦士セーラームーン」は1990年代よりアメリカで放送されるようになり番組は大ヒット、人形等の玩具が流通するようになったほか、同じく東映アニメの「プリキュア」シリーズも、シリーズ第9作『スマイルプリキュア(2012)』を『グリッターフォース(Glitter Force)』と題して、2015年にNETFLIXで配信されました。
一方特撮作品では、東映は1993年に放送したスーパー戦隊シリーズ第16作『恐竜戦隊ジュウレンジャー(1992)』をベースに、『マイティ・モーフィン・パワーレンジャー(Mighty Morphin Power Rangers)』と題し、ロサンゼルスやニューヨーク等の大都市圏で放送しました。
このように、アメリカでも数多くのグループヒーロー番組が日本から輸入されていますが、こうした「ヒーローが集団となって悪と戦う」という日本の子ども番組の認識が、アメリカでは理解されずらかった時代がありました。
「おい待て!アメリカにはアベンジャーズがいるだろう?チームヒーローが米国では流行っていないというのは嘘だ!」
確かに、マーベルコミックは1963年にヒーローチームを主役とした「アベンジャーズ」を発表してシリーズ化し、スーパーマンやバットマンを出版したDCコミックスも1960年よりヒーローチーム「ジャスティス・リーグ」を発表しています。
しかしながら、パワーレンジャーの企画が立ち上がった1990年代前半は、グループヒーローに対するアメリカでの認識は、今ほど高くはありませんでした。
背景の一因はアメリカがキリスト教国家であるという点です。真の神であるキリストは唯一無二。すなわち、「神はひとり」という国の中で、日本のグループヒーローを売り込む状況であったわけです。
ヒーロー同士協力することはあれど、スーパーマンやスパイダーマンも基本はひとりで戦う。ヒーロー達がグループとなって毎週戦うテレビ番組への理解が困難だったのだとか。
そこでパワーレンジャーの制作にあたり、当時の東映プロデューサーが力説したのは「5人で力を合わせて、お互いの欠点を補完し合いながら戦う」旨を説明し、理解を得ることが出来たそうです。
今でこそ『アベンジャーズ』は米国でたくさんシリーズが次々に制作される状況に至っていますが、この一因には先述したようなパワーレンジャーのヒットに伴うグループヒーローへの認識が確立されたことも一因であったのかなとも思います。
結果的に、パワーレンジャーは日本の特撮ヒーロー番組初の全米ネットワーク規模での放送を成し遂げた上、本作関連商品は入荷直後にすぐ完売、玩具メーカー・バンダイの現地法人であるバンダイアメリカが販売した本作関連商品のセールスは320億円(1994年度)に達するなど、「アメリカの歴史上、もっとも成功した子ども番組」と呼ばれるまでに至りました。
その後も『忍者戦隊カクレンジャー(1994)』や『超力戦隊オーレンジャー(1995)』等、後に放送された日本のスーパー戦隊シリーズを題材に、パワーレンジャーシリーズが継続されていきました。米国放送開始30年目に当たる2023年には『騎士竜戦隊リュウソウジャー(2019)』をモチーフとした最新作“Power Rangers Cosmic Fury”のNetflixでの配信がスタートする等、その人気は留まることを知りません。
私もコロナ前までアメリカ本土によく出張したり、ハワイでロングステイする機会が度々ありました。食料品の買い出しや生活必需品を揃えるために、ステイ先のショッピングセンターやスーパーに出掛けることがよくあったのですが、そこで感じたのは「どんな小さな小売店でも、必ず置いてあるのがパワーレンジャーの商品」であることでした。
それは玩具だったり、お菓子のパッケージだったり、洋服だったり、クリスマスカードだったり。アベンジャーズ達と肩を並べ、ホノルル市内のウォルマートやターゲット、ロスやドンキ・ホーテなどの小売店で、彼らの商品をすぐに見かけることができるんです。
そんなパワーレンジャーも今年でアメリカで放送されて今年で30周年。当時のキャストが集結した新作も予定されているとのことなので、続報が楽しみですね♪
いかがでしたか?
「日本あるいはアメリカで人気のある作品を異国に持ち込む」というのも、このような作り手同士のやりとりや創意工夫が行なわれてきたのだと思うと、改めてキャラクタービジネスの難しさを感じると共に、自分が子どもの頃に大好きだったものが、外国でどう受け入れられているかを知る面白さも感じられるかなと思います♪
皆様が今後、外国にお出かけされる機会がございましたら、有名な観光地や免税店だけでなく、是非スーパーやコンビニなど、地元の人達が利用するお店を尋ねてみてください。
もしかしたら、皆様が子どもの頃に大好きだったスーパーヒーロー達が、意外な形で現地の生活圏に浸透しているかもしれません。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
(参考文献)
・鈴木武幸、夢(スーパーヒーロー)を追い続ける男、株式会社講談社
・大下英治、仮面ライダーから牙狼へ 渡邊亮徳・日本のキャラクタービジネスを築き上げた男、株式会社竹書房
・奥津英敏・小出善哉(STUDIO HARD Deluxe)、スーパー戦隊画報第2巻 正義のチームワーク三十年の歩み、株式会社竹書房
・長澤博文・今井智司(ノトーリアス)、「スーパー戦隊の常識 ド派手に行くぜ!レジェンド戦隊篇」、双葉社
この記事を読んで頂き、「海外での日本特撮やアニメ作品の展開に興味を持った」という皆様、私の過去の記事やTwitterにて、海外現地での様子や商品展開についてもお話をさせて頂いております。宜しければ、ご覧ください。
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