【天の道を駆け抜けた仮面ライダーとは?】止まらぬ進化を続ける仮面ライダーカブトが守り抜いたものは何?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
11月も終盤ー。本当に1年って早いなと感じておりますが、
皆さまいかがお過ごしですか?
さて、今回のテーマは「脱皮」です。
着々と近づいてくる年の瀬ー。
新しい年号である2025年を視野に、来年の目標を立てたりと、「新しくなりたい自分」をイメージされている方も多いのではないでしょうか?
「脱皮」とは「は虫類・昆虫類などが成長するにつれて、古い皮を脱ぎ捨てること。」という意味のほか、「古い考えや習慣を脱して進歩すること」と定義されています(広辞苑)。このように、実は「脱皮」という言葉も、生態のみならず物事の比喩としても用いられることが多いようです。
そんな新しい進化という意味合いを含む「脱皮」ですが、我が国が世界に誇る特撮ヒーロー番組においても、度々用いられてきた要素でもありました。
その中でも、私が特に印象的だったのは、東映制作の特撮ヒーロー番組『仮面ライダーカブト(2006)』。
本作は、国民的特撮ヒーロー番組である『仮面ライダー』シリーズの1作品であり、カブトムシモチーフの仮面ライダーが活躍する物語。そしてこの作品には複数の仮面ライダー達が登場し、なんとヒーローも敵も脱皮して戦うという極めて斬新な描写が用いられました。
そこで今回は『仮面ライダーカブト(2006)』に焦点を当て、本作がいったいどんな作品なのか、少し紐解いていきたいと思います。
※本記事は「私、アニメや特撮にくわしくないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けたらと思います。
【少しおさらい♪仮面ライダーシリーズの歴史】お約束からの脱却!新ヒーロー像を確立した平成仮面ライダーシリーズとは?
さてさて、本記事ではこれより仮面ライダーカブトのお話に入っていきますが・・・少しだけ、仮面ライダーシリーズについてご紹介をさせてください。
仮面ライダーは、漫画家・石ノ森章太郎先生の原作で生み出された特撮ヒーローのことです。1971年にシリーズ第1作『仮面ライダー(1971)』の放送が開始され、主人公が悪の秘密結社ショッカーによって改造手術を施されて、バッタの能力を持った大自然の使者・仮面ライダーとなり、人間の自由と世界の平和を守るため、毎週ショッカーが送り込む恐ろしい怪人と戦う物語が展開されました。
その結果、『仮面ライダー(1971)』は国内で社会現象的な大ヒットを巻き起こすことになりました。その後、次回作『仮面ライダーV3(1973)』や『仮面ライダーBLACK RX(1988)』等の派生作品が次々に放送され、昭和の仮面ライダーシリーズとして定着していくことになります。
しかし時代が昭和から「平成」に変わると、平成仮面ライダーシリーズの放送が開始されました。その第1作となったのが『仮面ライダークウガ(2000)』であり、本作で試みられたのが、仮面ライダーシリーズにおける「既成概念の破壊」でした。
つまり「仮面ライダー=改造人間」、「仮面ライダー対悪の秘密結社」、「奇声を放つ戦闘員の集団と、それを率いる悪の怪人」といった、昭和の仮面ライダーシリーズで定着していた概念、いわば「お約束」を破壊し、平成という時代に適合した新たな仮面ライダーの創造が試みられたのです。
これまでの仮面ライダーシリーズの既成概念を破壊する、全く新しい世界観で好評を得た『仮面ライダークウガ(2000)』は無事放送を終了します。シリーズのバトンは『仮面ライダーアギト(2001)』や『仮面ライダー龍騎(2002)』といった後続の仮面ライダーシリーズに次々と受け継がれることとなり、元号が平成から令和に変わるまで放送された全20作の仮面ライダーシリーズは、「平成仮面ライダーシリーズ」として定着することになりました。
この平成仮面ライダーシリーズで共通して行なわれたのは、やはり先述した「既成概念の破壊」でした。ざっくりいえば「どこまでやれば仮面ライダーとして許されるのか?」といった、まるで世間の仮面ライダーに対するイメージを解体するような挑戦が続いていたのです。
「世界平和ではなく自らの願いのために戦うのは仮面ライダーじゃないのか?」
「バイクに乗らなければ仮面ライダーじゃないのか?」
「じゃあバイクではなく、電車に乗ったら仮面ライダーじゃないのか?」
総括すると「仮面ライダーってなんなんだ?」といった、見方によっては前作の仮面ライダーシリーズを否定するかのような試行錯誤が続いていたのが、平成仮面ライダーシリーズの歴史といっても過言ではないと思います。
そんな挑戦の繰り返しの中で誕生したのが、平成仮面ライダーシリーズ第7作『仮面ライダーカブト(2006)』。
本作は、1999年に渋谷で巨大な隕石が落下したことを機に地球へやって来た、地球外生命体(ワーム)を相手に、秘密組織ZECTが開発した仮面ライダー達が主張や対立を繰り返しながら、人々を守る物語。
『仮面ライダーカブト(2006)』は、仮面ライダーが怪人を倒すという従来の展開に加え、人間と地球外生命体との共存も掲げた作品でもあるのですが、本作に登場する仮面ライダー達は全て「虫」をモチーフにデザインされました。
カブトムシ、クワガタムシ、ハチ、トンボ、サソリ、バッタとその個性は様々(厳密にはサソリは節足動物ですが)。たとえ人によっては嫌悪感も抱く「虫」モチーフの仮面ライダー達であっても、それぞれがスタイリッシュにデザインされており、「脱皮」という生物学的な特徴も網羅されていました。
昆虫モチーフかつ洗練された、惚れ惚れするような美しいデザインの仮面ライダー達が多数登場する『仮面ライダーカブト(2006)』。本作をプロデュースした白倉伸一郎氏曰く「昆虫なら仮面ライダーになり得るのか」という試みだったようです。
そんな『カブト(2006)』の主人公・仮面ライダーカブトに変身するのが天道総司。「天の道を往き、総てを司る男」を自称する唯我独尊的(いわゆる俺様タイプ)な主人公で、料理やスポーツ、語学に芸術と多彩な分野において天才的な能力を発揮する人物でした。
「もしかして・・・ヤな奴?」
・・・と指摘されそうですが、決してそんなことはありません。しかしその協調性のない性格故に、他の仮面ライダー達と誤解や対立を引き起こしたり、彼の正しさが気にくわない理由からカブトに襲いかかる仮面ライダーもいた程でした。
カブト自身、祖母を尊敬しており、「おばあちゃんが言っていた・・・」が口癖かつ妹思い。何を考えているのかわからない態度で振る舞うこともありますが、基本的には困っている人を放っておけない好青年。自らが認めた人物に対しては尊敬の念を込めて接していました。
仮面ライダーシリーズは50年以上の歴史を有していますが、振り返ると天道総司のような主人公は珍しいかも知れません。昭和の仮面ライダーシリーズでは、子ども達のお手本となるような模範的な性格の主人公が多かったのに対し、平成仮面ライダーシリーズでは、わりと不器用な主人公が多かったのも特徴でした。お人好しですぐに他者に騙される主人公もいれば、誤解されやすい性格な上に猫舌だった主人公、仮面ライダーになる以前はとにかくツイていなかった主人公等々・・・。
昭和仮面ライダーシリーズの主人公達と比べ、どこか人間的に「抜けた」部分が描写された平成仮面ライダーシリーズの主人公達の中でも、天道総司はまるで「失敗しない」完璧超人のような存在だったのが魅力であったと思います(そんな彼も時に、妹のことで取り乱したり、妹達とはしゃぐ若者らしい描写はありましたが・・・)。
しかしそんな天道総司。物語の進行につれて衝撃の事実が明かされます。
天道は彼が3歳の時に怪人達の襲撃で両親は死亡し、母方の祖母に引き取られて「日下部」性から「天道」性を名乗るようになった過去が明かされ、同居する中学2年生の妹(樹花)は義理の妹であることが判明します。
そして天道には「日下部」性時代にもうひとり妹(ひより)がおり、ひよりがまだ母親のお腹の中にいた時に、両親は怪人達に襲撃されて共に死亡していたことが発覚。その上、怪人達はお父さん、お母さん(お腹の中のひよりも含む)の姿に擬態(コピー)して、日本で暮らしていたことが明らかになります。
つまり、天道以外の両親、妹が怪人達に殺され擬態(コピー)されていたのです。
少しややこしい話ですが・・・ひよりは人間ではありません。
そして、ひより自身も厳密には本当のひよりにあらず(コピー)。地球で暮らしている怪人(地球外生命体)なわけです。
とはいえ、このひより。両親(怪人)から自分の出生について知らされていませんでした。さらに両親も失いますが、自分の秘密など知るよしもなく、平和に暮らすひとりの人間として成長していきます。しかし自分は実は人間ではなく、怪人(シシーラワーム)だった事実に大きなショックを受けます。
そんなひよりに手を差し伸べたのは、天道でした。
天道は事実を知りながらも、今のひよりを受け入れていたのです。
天道は確かに怪人を倒す「仮面ライダー」ですが、彼が戦うのは理不尽に危害を加える存在から人々を守るため。
穏やかに暮らすことを願うひよりを倒す理由はありませんし、今の彼女は唯一無二の妹なのですから。
天道は他の仮面ライダー達と力を合わせ、凶悪な計画を立てていた最後の怪人(グリラスワーム)を倒します。彼らが戦ったのは、人々を守るだけではありません。それは地球に平和に暮らす怪人達と、人間が共に生きていける世界を守るための戦いでした。
戦いを終えて、天道は海外へと旅立ちます。彼を慕う2人の妹(ひより、樹花)はレストランを手伝いながら、腕を振るっていました。来店するお客様と触れあいながら、笑顔で過ごすひより。
「側にいないときは、もっと側にいてくれる。だよね、ひよりお姉ちゃん。」(樹花)
旅立った天道が歩いていたのは、フランスのパリでした。
すれ違ったフランス人の男性は、天道を見て言います。
「お、お前はたしか・・・?」
天道は答えます。
「俺は天の道を往き、総てを司る男、天道総司だ。」
『仮面ライダーカブト(2006)』の物語はここで終わりますが、その後もカブトは後輩仮面ライダー達と共に強大な悪の秘密結社の野望を叩き潰したほか、盟友である加賀美(仮面ライダーガタック)に自らの変身アイテムを託し、カブトへの変身を促したこともありました。
仮面ライダーカブトの活躍は今日も続いていますが、人々と怪物達が共存できる未来のため、懸命に活躍し続けた天道総司(仮面ライダーカブト)の姿は、どんなに時が流れようとも決して色褪せぬことなく、夜空の頂点に輝く星のように、これからもたくさんの人達を魅了していくことでしょうー。
なぜなら彼は総てを司る男、天道総司なのですからー。
もし、皆さまの周りでお豆腐を片手に、
「おばあちゃんが言っていた・・・・」と語録を披露する長身男性がいたら・・・
もしかしたらその人は、私達がよく知る「天道総司」なのかもしれません。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
(仮面ライダーカブトを視聴するなら)
・東映特撮ファンクラブ(TTFC)(外部リンク)
(参考文献)
・菅家洋也、『講談社シリーズMOOK 仮面ライダー Official Mook 仮面ライダー平成 vol.7 仮面ライダーカブト』、講談社
・菅家洋也、『講談社シリーズMOOK 仮面ライダー Official Mook 仮面ライダー平成 vol.10 仮面ライダーディケイド』、講談社
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