日英伊共同開発の次期戦闘機、サウジの参画はあるのか 日本が優先すべきは共通の価値かオイルマネー確保か
英紙フィナンシャル・タイムズ電子版は8月11日、日英伊の政府高官の話として、次期戦闘機開発の「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」にサウジアラビアが参加を希望していると報じた。同紙によると、7月に岸田文雄首相がサウジでムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談した際、サウジ側から直接要望が伝えられた。英伊が前向きな一方、日本は反対しているという。
防衛省はF2戦闘機の退役が見込まれる2035年度までの次期戦闘機開発完了を目指している。一方、英国も現行の戦闘機ユーロファイター・タイフーンの後継機として「テンペスト」の2035年までの配備を目指している。
実はサウジの次期戦闘機開発への参画をめぐっては、2023年3月初めにひと悶着あった。サウジと英国は航空防衛協力を推進し、サウジがユーロファイター・タイフーンなど英国の多くの戦闘機タイプを運用することになっている。そして、サウジの国防大臣は、これらの進展により、テンペスト計画を含む英国の「将来戦闘航空システム」(FCAS)の取り組みに参加することになると述べた。以下はその時のサウジ国防大臣のツイートだ。KSAとはサウジアラビア(Kingdom of Saudi Arabia)の略語だ。
しかし、英国防省はこの発表を否定し、両国国防大臣が「提携の実現可能性調査」のみを開始する関心表明書(SOI)に署名したと述べた。
英国防省は、この二国間のパートナーシップはFCASとテンペスト/GCAPプログラムの両方とも異なるものであると指摘し、サウジがFCASやテンペスト/GCAPに参加するのは「(事実として)間違っている」とする回答を英軍事週刊誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーに寄せた。
つまり、サウジ側はFCASへの参加だと述べる一方で、英国側はそれとは全く別のものであると述べた。サウジと英国の将来の戦闘航空協力の現実がどのようなものであれ、その発表の仕方が混乱を引き起こした。
いずれにせよ、両国が数十年にわたる航空防衛協力を推進することに合意したことは明らかだ。その両国のパートナーシップの範囲や規模が分かりづらいものになっている。サウジはスウェーデンが行ったようにFCASのみで提携するつもりなのか、あるいは、それと関連する日英伊共同開発のGCAPとの連携を模索しているのか。フィナンシャル・タイムズ紙の報道では、サウジはGCAPへの参加に意欲的で、英国も今やそれを容認してきているとみられる。
●優先すべきは共通の価値観か、オイルマネーの確保か
日英伊が昨年12月に発表したGCAPに関する共同首脳声明では、「我々3カ国には、自由、民主主義、人権、法の支配といった共通の価値に基づく、長年にわたる緊密な関係がある」と記され、西欧型リベラルデモクラシーの同志国の間のプロジェクトであることが強調されている。
かたや、サウジは、サウジ人記者ジャマル・カショギ氏が2018年にトルコにあるサウジ総領事館でムハンマド皇太子に近い男らによって殺害されるなど、人権問題が常に取り沙汰されている。その一方で、サウジには潤沢なオイルマネーがあり、その資金力の強さは近年ではクリスティアーノ・ロナウドなど世界の著名なサッカー選手が相次いでサウジのチームに加わっていることで浮き彫りになっている。さらに言えば、米国と覇権争いを繰り広げる中国が中東の盟主、サウジに急接近している。
サウジがGCAPに加われば、日英伊は何兆円にも上る次期戦闘機の開発費負担を軽減できるだろう。中東への進出が著しい中国へのけん制にもなるかもしれない。
日本の国際政治学の大家、故・高坂正堯さんはその名著『国際政治』で平和の問題を論じる際には「力の体系(軍事力)」、「利益の体系(経済関係)」、「価値の体系(理念)」の3つのバランスに目を注ぐよう説いた。英国とイタリアは「利益の体系」を重視して、サウジをGCAPに参画させることに傾いているようだ。一方、日本は「価値の体系」に重きを置いているようにみられる。
浜田靖一防衛相は8月25日の会見で、サウジのGCAP参画について問われ、「個別の第三国との関係については、パートナー国や当該第三国との関係もあるところからお答えできないことをご理解いただきたい。いずれにしましても、防衛省としては、3カ国で緊密に連携して、次期戦闘機の共同開発を着実に進めていきたいと考えております」と述べるにとどまった。
はたしてサウジの参画は今後あるのかないのか。注目が集まる。
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