【4月1日廃止】高倉健さん『鉄道員』の幌舞駅 根室本線 幾寅駅【後編】(北海道空知郡南富良野町)
平成11(1999)年6月5日公開の映画『鉄道員(ぽっぽや)』に幌舞駅として登場した幾寅駅。公開から四半世紀、主演の高倉健さんが亡くなってから10年近くが経つ今でも訪れる人は後を絶たない。駅舎には作中の「幌舞駅」の看板が掲げられ、本名である「幾寅駅」の表記は遠慮して右端に貼られているだけだ。
そんな幾寅駅だが、平成28(2016)年8月31日の台風10号による影響で東鹿越~新得間がバス代行となっていることから、7年以上列車が来ていない。5往復の代行バスは駅前ロータリーをぐるりと回って駅舎前に停車し、乗降が済むとまた去っていく。その本数の少なさゆえに訪問の難易度は高く、ロケ地目当ての観光客もほとんどが自家用車で訪れているようだ。
南富良野町の玄関口だけあって、駅舎内の待合室には町の観光案内やポスターなどが貼られている。地元の「幾寅婦人会」によって清掃され、無人駅ながらもしっかり管理されている雰囲気だ。ローカル駅にしては椅子も多く、かつての利用者の多さが想像できる。国鉄時代は急行「狩勝」も停車していた。
幾寅駅の無人化は昭和59(1984)年12月1日。ただし、翌年3月末までは国鉄職員による乗車券の販売が継続され、4月1日からは南富良野町による簡易委託で乗車券の販売が引き継がれた。簡易委託は平成15(2003)年4月1日に廃止、それによって空いた旧事務室部分は改装されて『鉄道員』のロケーション記念展示コーナーとなっている。今や懐かしいアナログテレビが流すのは映画の予告編とメイキング映像だ。
記念展示コーナーには映画の撮影に使われた小物や幌舞駅の駅名標、撮影の様子を写した写真、関係者のサインなどが展示されている。主演の高倉健さん、出演者の一人だった志村けんさんが亡くなっているので、その追悼コーナーになっている一角もある。
入って一番奥に展示されているのが撮影の際に高倉健さんが実際に着用した駅長の制服だ。作中で高倉健さんが演じたのは、幌舞駅の駅長・佐藤乙松で、作中の現代である平成7(1995)年で定年を迎えるという設定だった。
幌舞駅の時刻表も掲げられており、行き先には「旭川」「美寄」の文字が見える。作中の幌舞線は美寄駅で本線から分岐するという設定で、一部旭川まで直通する列車もあったようだ。「美寄」は架空の地名で、「美深」または「美唄」と「名寄」を組み合わせてつくったのだろう。
幌舞駅の運賃表も掲げられているが、こちらは端にあるので全体が見にくい。ここの表記から見るに幌舞線の駅は「美寄」「布舞」「砂田」「鹿別」「東鹿別」「赤岸」「鳥沼」「湖月」「北幌舞」「幌舞」で、北海道の駅名をもじって付けられたのが一目瞭然だ。原作には「北美寄」という駅も出てくる。「東鹿別」は幾寅の隣駅・東鹿越駅を連想させる。他は全て実在の駅名で、国鉄時代のものという設定なので今は亡き「羽幌」や「士幌」「広尾」「本別」「紋別」などの駅名も見える。富良野駅や新得駅までの運賃から考えると駅の位置は、幾寅駅と同じような位置が設定されていたようだ。ただし、これは映画の話で、原作だと美唄辺りで函館本線から分岐していた運炭路線のような印象を受ける。
幾寅駅は令和6(2024)年4月1日、121年4カ月の歴史に幕を下ろす。作中の幌舞駅と現実の幾寅駅、2度の廃止を迎えるわけだが、ロケ地となった駅そのものが南富良野町の観光資源の一つとなっている現状を見るに、駅自体は廃止後もそのまま保存される公算が高そうだ。もう二度と列車が来ることはないが、作中と現実の二つの駅の思い出を留めて、これからも訪れる人々を出迎えてくれることだろう。
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