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鉄道よりもバスの方が便利? 中国道が通る県境の町の玄関口 芸備線 東城駅【前編】(広島県庄原市)

清水要鉄道・旅行ライター
東城駅

 備中神代駅で伯備線と分岐してから、5駅。車窓に市街地が見えてきたかと思うと、芸備線のディーゼルカーは広島県に入って最初の駅・東城(とうじょう)に着く。ここは利用者数の減少により、存廃を巡り揺れている芸備線の備中神代~備後庄原間の中でも、運行拠点駅といっていい性格を持つ駅だ。とはいえ利用者はお世辞にも多いとは言えず、広島県統計年鑑によれば、令和3(2021)年度の一日平均乗車人員はわずか9人だった。この駅から先、東城~備後落合間は芸備線でも特に利用者の少ない区間で、令和3(2021)年度の一日平均通過人員は20人/日と、日本の鉄道路線の中でも通過人員が一番少ない。

 今回はそんな区間を控えた東城駅を前編・後編に分けて紹介しよう。前編では駅を中心に、後編では駅周辺を紹介する。

駅舎内
駅舎内

 東城駅は昭和5(1930)年11月25日、矢神から延伸してきた三神線の終点として開業した。三神(さんしん)線は三次と備中神代を結ぶことを目的として建設された路線で、昭和12(1937)年7月1日に国有化された私鉄の芸備鉄道を編入して改称し、現在の芸備線の形が出来上がっている。

 東城駅の駅舎は開業時のもので、内部は綺麗に改装されているため、築94年という齢を感じさせない。内部には簡易委託の窓口もあるが、営業時間は7時10分から9時10分と限られているため、旅行者にとってはなかなか訪問の難易度が高い。もっとも、窓口は地元の利用者向けで、旅行者の利用はまず想定していないのだろう。

ホーム
ホーム

 ホームは相対式2面2線だが、反対側のホームは跨線橋の老朽化により立ち入ることができない。以前は反対側が1番線、駅舎側が2番線と附番されていた。もっとも、旧1番線の線路自体は生きており、現在も車両の夜間滞泊などに使用されている。

ホームの名所案内
ホームの名所案内

 ホームには国鉄時代からそのままと思われる昔ながらの看板がいくつか残っている。今時はイラスト付きのカラフルなものが多い名所案内もいたってシンプルだ。

 名勝・帝釈峡(たいしゃくきょう)は東城駅から南西に入った山の中にあり、日本五大峡の一つと言われる広島県を代表する景勝地である。

ホームに残る「たいしゃく」「やまのゆ」の文字
ホームに残る「たいしゃく」「やまのゆ」の文字

 足元にも目を向けてみよう。ホームにはうっすらと「やまのゆ 自由席」「たいしゃく」と書かれた白い文字が残っている。これは芸備線でかつて走っていた急行列車の乗車位置案内で、それらの列車が消えた今、芸備線の全盛期を今に伝える貴重な生き証人と言えよう。

 「やまのゆ」は昭和47(1972)年3月から昭和55(1980)年10月まで運行されていた急行列車で、芸備線・伯備線・姫新線経由で広島と津山を結んでいた。広島から岡山県北の湯原温泉・奥津温泉への観光客を運んでいたものの、速度の遅さゆえに中国自動車道の開通に伴い廃止されている。

 「たいしゃく」は芸備線・伯備線経由で広島と岡山を結んでいた準急が前身で、急行化を経て、広島~新見間の運行となった。こちらも中国自動車道開通の煽りを受けて昭和55(1980)年10月より一部区間が普通列車化されている。平成14(2002)年3月に「みよし」に編入されて消滅した。

 二つの列車の運行時期から考えて、ホームの文字は昭和47(1972)年から昭和55(1980)年の間に書かれたものと考えられる。

東城駅で折り返す列車
東城駅で折り返す列車

 かつては陰陽連絡の主要列車として多くの急行列車が行き交った芸備線だが、現在の東城駅を発車する列車は備中神代・新見方面が6本(休日5本)、備後落合方面が3本という少なさだ。東城駅では折り返し列車も設定されていて、一応運行拠点駅とは言えるものの、18きっぷシーズンを除けば賑わいも見られない。

 町の規模の割に駅が寂しすぎる気がするが、そこにもやはり急行「やまのゆ」に止めを刺した中国自動車道が関係してくる。

東城駅に到着した備北交通「帝釈峡ライナー」
東城駅に到着した備北交通「帝釈峡ライナー」

 東城駅前には高速バスのりばが設置されているが、ここに発着するのが芸備線のライバルである高速バスだ。広島駅直行便は減便によりわずか1往復になってしまったものの、備後庄原駅との間で4往復が運行されており、備後庄原駅で広島~庄原便との乗り継ぎも可能だ。また、季節運行の「帝釈峡ライナー」が紅葉シーズンの休日に広島駅との間で一往復運行されている。

 所要時間を比べてみると、東城~庄原間が芸備線で約1時間45分(乗り換え時間含む)に対し、バスが約35分と、バスの圧勝だ。その理由としては、芸備線が東城~庄原間で険しい地形を避けて北に大きく迂回しているのに対し、バスの走る中国自動車道は険しい地形を克服して、ほぼ真っすぐに東城~庄原間を突き抜けていることが挙げられる。芸備線の東城駅~備後庄原駅間が54.7キロ、中国自動車道経由の両駅間の道路が約34キロという数字を見れば、いかに芸備線が迂回しているのか一目瞭然だ。両者の線形を地図で比べてみると、芸備線が建設された昭和初期から中国自動車道が建設された昭和後期までの半世紀での建設技術の進歩に驚かされる。

 保線費用削減を目的としたいわゆる「必殺徐行」を行っていなかったとしてもこれでは勝ち目がないだろう。それこそ新幹線並みの高規格新線を建設でもしない限り、芸備線が高速バスに勝てるとは思えない。鉄道にこだわらず、バスとタッグを組んだ徳島県の牟岐線のように、ダイヤを調整して備後庄原駅で鉄道とバスを乗り継ぎしやすくするなどの取り組みを行った方が、利用者のためになるのではないかと思われる。

 後編では駅がある東城の町を紹介していく。

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鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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