佐世保高1女子同級生殺害事件の犯罪心理学:人を殺してみたかった・遺体をバラバラにして解剖したかった
■長崎佐世保高1女子殺害事件:「人を殺してみたかった」「人を解剖してみたかった」「遺体をバラバラにしてみたかった」
とても勉強ができ、スポーツもでき、立派な家庭で育ち、県内有数の進学校に通う女子生徒(16)。その有能な女生徒が、同級性の女生徒を殺害しました。子どもが子どもを殺す。最悪の悲劇的犯罪です。
一般の殺人動機の多くは、人間関係のもつれです。つい、カッとなって殺してしまったというものです。または、金目当ての殺人などもあるでしょう。これらは、もちろん悪いことですが、私たちにも理解できる動機です。
しかし犯行動機として、「人を殺してみたかった」「人を解剖してみたかった」「遺体をバラバラにしたかった」というのは、一般の人の理解を超えています。ここが、彼女の「病理性の高さ」と言えるでしょう。
おそらく、これらの供述はウソではないでしょう。彼女は、ただ殺したかった。そして、遺体を解剖しバラバラにしたかったのでしょう。
(このような供述は、どれほどご遺族の心を苦しめることでしょう。)
■人を殺してみたかった
普通の動機がない殺人の中には、「快楽殺人」があります。人を殺すことが快楽なのです。多くの場合、快楽殺人者は男性で、殺すことに性的快感を得ています。
今回は、性的快感を感じるような狭い意味での「快楽殺人」ではないでしょう。性的快感を得るという目的すらなく、ただ殺したかった「純粋殺人」ではないかと考えられます。
他の動機がなく、殺すこと自体が目的という意味での、「純粋殺人」です。
「人を殺してみたかっか」という供述で思い出すのは、
2000年に発生した、17歳高校3年生男子による愛知県豊川市主婦殺人事件(愛知体験殺人事件)です。
彼の犯行動機が、「人を殺してみたかった」「人を殺す体験がしたかった」でした。
彼も、今回の容疑者女生徒と同様に、成績優秀な高校生でした。彼は、「他人への共感性の欠如、抽象的概念の形成が不全、想像力の欠如、強いこだわり傾向」があり、「高機能広汎(こうはん)性発達障害あるいはアスペルガー症候群」とされ、医療少年院へ送致されました。
(アスペルガー障害だからといって、危険な犯罪を犯すわけでは決してありません。)
■遺体をバラバラにしてみたかった
バラバラ殺人事件は、その衝撃度から、きわめて残虐な犯人像を思い描かれます。しかし多くの場合、遺体を切断する理由は、単純です。遺体を処理したいが、重くて運べないというものです。
しかし、今回の遺体損壊は、身元を隠すためでもなく、遺体を処理するためのものでもありません。
容疑者の女生徒は、小動物の解剖をしていたと伝えられていますが、人間のこともバラバラにしてみたいと思ったのでしょう。首と手首の切断に加えて、胸から腹部にかけてもお大きく切開されていたとも報道されています。
(補足:4/30の報道によれば「ネコを解剖したことがあり、人間でもやってみたかった」と供述)
この供述から思い出す事件は、2007年に発生した、高校3年生の男子による、会津若松頭部切断母親殺害事件があります。
この少年も優等生でした。
彼は供述しています。
「もっと(母親の遺体を)バラバラにするつもりだったが、ノコギリで切断する音が大きく、(同居の)弟に気づかれると思ってやめた」
「死体を切断して飾ってみたかった」
「グロテスクなものが好きだ」
「母親は好きでも嫌いでもない。恨みはない」
「(殺害するのは)弟でも良かったが、たまたま母親が泊まりに来た」
「遺体を切断してみたかった。だから殺した。だれでもよかった」
「誰でもいいから殺そうと考えていた」
「戦争やテロが起きないかなと思っていた」
この少年は、「比較的軽度な精神障害」があり「障害に対する充分な治療とともに、長時間継続的な教育を施す必要がある。その過程で真の反省を促し、更生させることが望ましい」とされ、医療少年院送致となりました。
家裁は、少年を次のように表現しています。
「少年は障害により、高い知能水準に比して内面の未熟さ、限局された興味へこだわる傾向、情性の希薄さ、他者への共感性が乏しいなどの特質があり、自分の劣等感を刺激されると不満などを蓄積する傾向がある。」
今回の事件の少女も、これまでの事件で「殺してみたかった」「バラバラにしたかった」と語った加害者少年達と、似たような特徴を持っていたのかもしれません。
■小学校時代の給食薬物混入事件
今回の佐世保高1女子殺害事件の容疑者女生徒は、小学校時代にクラスメイト複数の給食に複数回「漂白剤」を入れるという事件を起こしています。
そのときの動機は、報道されていないのでわかりません。
その同級生に対する怒りや恨みがあったのかもしれません。
あるいは、「毒を入れてみたかった」「毒を飲むとどうなるか、観察してみたかった」のかもしれません。
2005年に、静岡で高校1年の女子生徒によるタリウム母親毒殺未遂事件が起きています。
彼女も優等生です。県内でも有数の進学校に通い、化学部に所属していました。
この女生徒は、母親に毒物であるタリウムを与えながら、ネット上のブログで犯行の経緯を日記風に記録していました。内容は、事実と創作が混ざっていたようです。
母親との間に特別な確執はなく、母親のことを、「好きでも嫌いでもない」と語っています。
この事件も、「少女は幼児期から発達上の問題があり、人格のゆがみも認められる」とされ、医療少年院送致となりました。
類似事件で世界的に有名なのが、家族や友人を殺して記録をとっていた「グレアム・ヤング連続毒殺事件」であり、映画化もされています(「グレアムヤング毒殺日記」)。
■なぜ友人を殺害したのか
今回の事件の被害者は、容疑者の友人です。自宅に1人で遊びにくるような関係です。なぜ、この友人を殺害し、遺体を傷つけたのでしょうか。
可能性は、いろいろ考えられます。
・激しい争いがあった。
・激しい争いはなかったが、逆恨みした。
・争いはなかったが、大切な友人だからこそ、何かの理由で裏切られたと感じて絶望して殺害した。
・トラブルは何もなく、嫌いでもなかったが、好きでもなく、身近にいたので、殺してバラバラにした。
上記で紹介した事件も、誰でもいいから殺したかったと語り、そして家族や友人を殺害しています。
(補足8/1:容疑者の少女は、「被害者の少女とはトラブルはなかった」と供述しています)
■容疑者少女の病理性:事件はなぜ起きたか
事件の背景として、彼女には、何らかの発達上の障害や、パーソナリティーの障害があったのかもしれません。
その彼女の中に、異常な空想が広がっていったのでしょう。人を殺すこと、そして遺体を解剖しバラバラにすることへの欲求が強くなっていったのでしょう。それは、一般の人には理解できない異常な好奇心です。その悪魔のような欲求を、彼女は、小動物の解剖などをしながら何とか抑えていたのかもしれません。
しかし、やさしかったお母さんが亡くなります。家庭環境が大きく変わります。その結果、ぎりぎりのところで保たれていた心のバランスが崩れてしまったのかもしれません。
神戸の酒鬼薔薇事件でも、やさしかったおばあちゃんがなくなった後、彼はネコ殺しを始め、ついに殺人に至いたり、幼児を殺害して遺体を切断する事件を起こしています。
■命を大切にする教育の限界と私たちの課題
佐世保市、長崎市では、10年前にも、子どもが子どもを殺す事件が起きています(2003年:長崎男児誘拐殺人事件・2004年:佐世保小6女児殺害事件)。
佐世保市長崎市で、長崎県全体で、10年前の事件以来、命を大切にする教育が行われてきました。これらの教育は、もちろん意味があったと思います。しかし、10年前の事件も、今回の事件も、酒鬼薔薇事件なども、病理性の高い加害者による事件です。
この病理性は、道徳教育によって改善するようなものではありません。一般の学校教育、家庭教育では、なかなか防止できないものでしょう。とても難しいのですが、給食異物混入事件など子どもの頃にトラブルを起こしたとき、それを一つのサインとしてとらえ、心理的、精神医学的な個別対応がもっとできていたらと思います。
そして、問題を抱えている少年達が犯罪を実行しないですむ、環境づくりでしょう。
今回の事件でも、学校を欠席しがちで一人暮らしの女子生徒の部屋を、先生方が定期的に訪問していました。関係者は努力していました。それでも事件は起きてしまいました。
ただ、もしも大好きなお母さんが生きていて、以前と変わらぬ家庭環境が続いていれば、今回の殺人事件は起きていなかったかもしれません。
彼女も家庭のことで悩んでいたでしょう。自分の心のゆがみのことでも、悩んでいたかもしれません。思春期、青年期の自分探しに失敗したのかもしれません。
犯罪への特効薬はありません。重い刑罰も、今回のように逃亡を考えていない加害者にはあまり効果がないでしょう。
それでも、愛されている環境、愛を実感できる人間関係、やりがいのある学校生活や仕事、楽しい趣味など。これらの「社会的絆」が、どんな場合も犯罪防止につながるでしょう。
今回の女生徒も、医療少年院送致になるかもしれません。犯罪を犯したのですから、制裁を受けるのは当然です。そしていずれ、社会に戻ってきます。心理的、医学的治療を施し、真に反省させるとともに、再犯を防止するためにも、社会的絆が必要です。
事件は起きてしまいました。
私たちが考えるべき事は、被害者の冥福を祈るとともに、被害者側の人々の保護と支援、学校の生徒たちなど傷ついている関係者の保護と支援、そして類似犯罪の防止に努力する事ではないでしょうか。
子どもを犯罪被害から守りましょう(犯罪から子どもを守ろう:岡山誘拐監禁事件から)。
子どもが加害者にならないように努力しましょう。
それは、トラブルが起きたときに、ただ穏便にすますことではありません(「子どもを守る」の本当の意味は?:心理学者が伝える正しい子どもの「傷つけ方」)。
そして、事件の教訓を生かし、少しでも光り輝く社会を作っていきたいと思います。
(加筆:7/29,22:35)
→あらたな報道を受けてページをアップ(8月2日)
「佐世保高1女子同級生殺害事件の犯罪心理学:カウンセラーも精神科医も児童相談所もなぜ止められなかったのか」
実は、多くの専門家が事件の前から少女に関わっていました。
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